栄光の代償とアサシン専用新魔法。
人の口に戸は立てられぬとはよく言ったもので。
私の信託の聖女・名誉騎士である事は瞬く間に街中の人々に拡散されていた。
私が外出をすると、見知らぬ街の人が突然
「あなたアリシア様でございますね!」と声をかけてくる。
顔も知れ渡っているようだ。
私が肯定をすると、突然祈りを捧げ出す者、新たな信託を聞きたがる者
中には急に地面に平伏して拝みだす者、差し入れをする者。
たった一週間!たった一週間でNPCモブキャラのような存在が
突然プレイヤブルキャラクターで、しかも主役か準主役のような扱いになってしまった!
言っておくが中身は陰キャ引き籠りで命を絶った、おっさんだからなっ!
戸惑うなという方が無理な話だ。
それに、まだ早めに切り上げてくれる人は良い。
しかし信心深い御仁となると、下手すると熱心に1時間近く祈られる。
断れない性格のため付き合ってしまう。
「最後に神のご加護をあなたに。」と私が声をかけると皆
有難がって離れて行ってくれる。正直な所やりずらいし、しんどい。
あの嫌だった前世の、人目に触れず、ひたすらお家で引き籠ってた部屋が
懐かしく思う日が来ると予想できただろうか?
あーちゃんと気兼ねなく会えるというメリットに目が行きすぎていて
喜んで受けたは良いものの
この状況は想定外だ。ヒジャブでも纏うか?仮面でもつけるか?
真剣に検討してしまうレベルだ。
宿屋に戻るとロディーが扉の外で待機していた。
「よう!聞いたぜ、大活躍だったらしいな!」
「まぁそうだし特典もついたけど、デメリットが大きすぎるわ…
まぁ外で話すのもなんだから中で話そうか。」
私は鍵を開けてロディーと部屋に入る。
「例の闇の武器商人の情報が役に立ったって事でいいんだよな?」
「それはもう。お陰様で総力戦の全面戦争は避けられたよ、ありがと。」
「いいってことよ!
そうそうこちらも報告聞いてくれ!努力が実りBランク賢者試験パスだ!
晴てBランク賢者に俺はなったぞ!」ロディーはドヤ顔で言う。
「へーそれはおめでとう。」私はそっけなく返す。
「いや、そこは頑張ったねとか、よくやったねとか労う所じゃねーの?」
「まぁでもBランクだしねぇ。賢者の蘇生魔法はSランクでしょ?
ドヤ顔で威張れるランクでもないよね。」掌を上にあげ私は思ったことを口にした。
「お前なぁ、もうちょっと人に共感するスキル身に着けた方がいいぞ?」
「そう…善処するわ。」
ロディーって実は意外とめんどくさいのか?私が興味なさすぎなのか?
「それ政治家の言葉だと、しませんの意味だからな!まったくよ…
何にせよ、これで少しは依頼の手伝いができるから
一緒に依頼受けてダンジョンに潜ろうぜ!」
「気が向いたらね。」
「お前…なぁ…俺にもうちょっと優しくしても罰は当たらないぞ?」
「感謝はしてるって。」
そんな戯言を話しているうちに時間は経っていた。
「じゃあ、また来るぜ相棒!またな!」
そう言うとロディーは部屋を出て行った。
今日は昼頃なので、もう碌な依頼は残ってないだろうと思いつつ
暇つぶしにギルド掲示板に行ってみた。
掲示板の横に立札がある。
「私の似顔絵が公示されている…」
救国の信託の聖女・名誉騎士アリシアと、でかでかと書かれている。
なるほど、街中の人にあっという間に広まったのはこれか…
SNSの拡散希望みたいなやつじゃん。
引っこ抜いてやろうかな。
まぁ今引っこ抜いたところで、もう手遅れだよね、トホホ…
私はとぼとぼと宿屋へ帰った。
道すがらやはり街人の足止めを何度も喰らった。
私は部屋に戻りベッドダイブする。
バフッ!
「はぁぁぁぁぁぁ…私これからどうなっちゃうんだろ…。
人から注目されるって、こんなに疲れる事なんだ。」
横になっていたら、気が付かないうちに少し寝ていたようだ。
目を覚ますと日は傾き、部屋にはオレンジ色の光が差し込んでいる。
そろそろ夕飯の時間帯だ。
起きたばかりは胃が活動していない。
少し時間を潰すか…と言っても、この世界にはネットもなけりゃゲームもない。
この世界で何か趣味を探す必要がある。
私は考えを巡らせた。やっぱり本とかしかないよね。
いくら考えてもそれ以外の趣味は思い浮かばなかった。
よし、明日は本屋行こう!
『グゥ…』丁度お腹が鳴りお腹もすいた
宿屋の一階へ降り食事を済ませ、部屋に戻る。
既に夜の帳は下り、私はランタンに火を灯した。
ランタンの揺れる炎を見つめ、目を閉じ頭をからっぽにする。
所謂、瞑想というやつだ。
これはなかなか良い。
自分の精神が世界に溶け込み一つとなって混ざり合う感覚。
世界と自分が一つになるのだ。
感覚的には世界の真理の深い所へ深い所へと潜って行く感じ。
私は瞑想を終えるとベッドに横になり就寝した。
(時間経過)
翌日朝のルーティーンを終えるとインビジブルローブを目深にかぶり
本屋へと向かった。
街中で透明化機能を使ってしまえば揉め事の原因にもなりかねない為
普通にローブとして使用する。
本屋へ着くとアサシンコーナーへと行く。
ずらーっと背表紙タイトルを見ると一つの本が目に留まる
一生使えるアサシン魔法の教科書 - スゴくてズルい魔法 -
なにこれ気になる。
私はレジで代金を支払い宿へ持ち帰った。
本屋への行き帰りにも人は大勢いたが
誰にも身バレせずに行動できた。
これからはフード付きローブが必須となりそうだ。
私は早速本を手に取り開いてページをめくる。
第一章 - 毒魔法 -
あーはいはい。アサシンのイメージって暗殺の次くらいに毒のイメージあるよね。
初手毒というのは分かり易い。
でも、モンスターにしても人間にしても強敵って毒耐性ついてるよね大体。
昔プレイしてたMMORPGとかでもそうだった。
だから強敵相手には死にスキルなんだよねぇ。
弱い敵は心臓や首狙えば一発だし。
第一章は飛ばそうかな。
第二章 - 影魔法 -
シャドウスライド 影の間を移動できる
シャドウピアシング 影を縫い付け敵の動きを止める
シャドウニードル 影により刺突用の針を創り出す
うーん…他にもあるけど使えそうなのは武器を紛失した際、唯一役に立ちそうな
シャドウニードルくらいだよねぇ。
他の影魔法は体術の向上か全部時間停止で解決してしまう。
これも今はパスしておいてもよさそうかな。
第三章 - 静音魔法 -
ミュートヴェール 自身の動作音の無効化
スティールヴォイス 対象の声を奪う
この辺りの魔法も覚えておくと便利なんだろうけど
やっぱり体術の向上か全部時間停止で解決してしまう。
全ての魔法に目を通す。ピンとこないなぁ。
第四章 -空間魔法-
ブリンクエッジ 空間を切り裂いて瞬間接近
ディメンジョンスルー 任意の空間に空間を繋げ移動可能にする
あーっ!!黎明の星森の星霜の果実のガードモンスターの霊獣が使ってたやつ!
敵の背後に移動したの、このディメンジョンスルーだ!
なるほどー!なるほどなるほど!!
いやー何かこう点と点が繋がって線になるの気持ちいいね!
アハ体験ってやつ!
と、まぁ…発見はあったものの時間停止してしまえば
これも解決してしまうんだよねぇ。んー。
全ての魔法に目を通す。
私に与えられた時間停止魔法がいかにチートなのかを
実感する本になってしまっている。
折角購入したのだ。何か役に立ってくれる魔法はないのだろうか?
私は再びページをめくる。
第五章 - 腐食魔法 -
ロトンブレス 対象を腐敗の息が包み込み敵を軟化させる。
ほー!こういうのでいいんだよこういうので!まさにこれ!
追い求めてたやつ!
今までも依頼で甲殻系やゴーレム系は避けてたんだよね。
ハンマーでしか対応できない斬撃や刺突と相性の悪い敵
いくら硬い敵といえど柔らかくしてしまえば
カタールで刺す事も出来れば斬る事も出来る。詠唱は…えーと…
万物を蝕む息吹、此処に顕現し我が刃に道を示せ。ロトンブレス!
これね。覚えておかなきゃ。強敵も硬いやつ多いからね!
ふと気が付くと本の字が非常に見難くなっている事に気づく。
周囲に目をやると夜の帳は既に下りており
ランタンに火を灯し始める時間は、疾うに過ぎていた。
あーまたやってしまった。過集中の現象。
私は直ぐにランタンに火を灯す。
これ生前よく、あったんだよね。
興味ない事には全く集中できないのに
興味のある事には常人では有り得ない集中力を発揮してしまう。
時間を忘れ何時間も集中してしまう。
ADHDのとても有名な症状。
アリシアもその気があるのだろうか?
まぁ考えても仕方のない事か。
宿の一階は夕方の食堂の雰囲気から酒場へと化し賑やかになっている。
昼食も摂ってない事だし、夜食を摂りに行くとしますか。
私は部屋に鍵をかけ夜食の為、下の階へ降りて行った。




