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新ダンジョントワイライトネクロポリス 後編

私達はB2Fへと足を踏み入れた。

雰囲気が変わる。上の階までは感じなかった圧を感じる。

あーちゃんの方を見てみる。緊張している。

気を引き締めるのは大切だが、緊張しすぎると動きが鈍る。

あまり良い事ではない。

あーちゃんの護衛にも更に気を使った方がよさそうだ。

「あーちゃん罠の解除行ける?私とかわる?」

「いえ!頑張ります!」時々思う、この子は芯が強い。

あーちゃんが罠を解除しつつ進んで行くと

杖を持った人型シルエットが目に入る。

段々と光が当たり、くっきりと浮かび上がる

古びたフードローブに骸骨の頭、眼孔が赤く光っている。リッチだ。

リッチとは魔法使いが、より強さを求め自らをアンデット化

生前と変わらぬ知性を持ち、より威力を増した魔法を手に入れた存在。

これは逃げた方がいいかもしれない…。

「あーちゃん!」私は逃げるつもりで呼びかける。

「はい!任せてください!」

えっ?あーちゃん?

「我らが神よ!加護の御盾で我らを包み給え!イージス・サンクタム!」

淡い青色の光が二人の体を包む。

「魔法防御完了です!」

「我らが神よ神聖なる力を我らが武器に宿し給え!エンチャントホーリー!」

「聖属性エンチャント完了!いつでも行けます!」

あーちゃんの横顔を見る。凛々しい表情だ。

「ふふ…。」杞憂だったかな。思わず笑みが出てしまった。

リッチは杖を掲げたと思うと

ガカッッ!!

私達の頭上からいかづちが降り注ぐ!

私は条件反射で片足を曲げ片手を頭上に防御姿勢をとった。

しかしいかづちは魔法防御の淡い青い光に吸収され消える。

先に動いたのはあーちゃんだった。

素早くリッチとの距離を詰めると杖を握っている腕を

レイピアで何度も突き刺し微かにある側面の刃で腕を斬り落とす。

私は宙を舞いリッチの後ろに回り込み反対側の腕、首、胸骨、腰

刺突してバラバラにする。そして転がった骸骨の頭部を粉々に踏み潰す。

リッチは霧散した。

「ふぅ…あーちゃん凄いね!新しい魔法びっくりしたよ!」

私は、そう言うとあーちゃんの髪をくしゃくしゃにしながらなでる

「やめてくださいー!」あーちゃんは、そう言いつつも

私を止めようとしないところを見ると嬉しいのだろう。笑顔なのがその証拠だ。

そして私たちはダンジョンを進んで行く。宝箱がある。

あーちゃんに開錠してもらい私がマジックアイテムの鑑定をする。

B~Sランクまでのマジックアイテムだ。

このくらいになれば売ればそこそこの収入になる。

あーちゃんにバックパックにしまってもらって

さらに奥へと進んでいく。

「お前たちは何のためにここへ来たのだ。」

突然頭の中に直接響くような声がする

気が付くと通路は途切れ部屋状になっている。

佇んでいるのは高貴な装飾品を纏ったフードローブの男だ。

骸骨ではなく血色の悪い顔…人語を介する…脳内への直接語り掛けが可能…

高貴な装飾品…意匠の施された強い魔力の流れを感じる杖…

恐らくリッチロードだ!こいつはヤバイ!

クロノコントロール、スタティック!

私は直ちに時を止める魔法を行使し、バックパックからリーブの書を取り出し

あーちゃんの手を掴む。

リリース。時間停止を解除

リーブ!!

二人はダンジョンの外へと脱出した。

あーちゃんは辺りを見回しポカーンとしている。

コンタクトをせずに強制的に脱出したのだ。そうなるのも当然。

「私達はダンジョンから脱出しました。」

私がそう言うと、そこであーちゃんは事態が呑み込めたようだ。

「何故ですか?リッチならば、さっきみたいに

魔法防御を使用すれば倒せるんじゃ…」

あーちゃんは気づいていなかった。やはり逃げていて正解だった。

「あの敵は恐らくリッチロードです。

人語を解し理解する、アンデットと化した高位の魔法使い。

魔術の根源に辿り着いている為

リッチとは比べ物にならない出力の魔法を放ってきます。

外見もですが魔力を推し量れば、その差は歴然なので判別がついたでしょう。

うーん、そうですね、分かりやすく目安の数字で説明しましょう。

リッチの強さが10程度だとします

リッチロードの強さは1000以上。けた違いです。

リッチロードの魔法は普通のマジック防御を余裕で貫通するし

最上級の魔法防御系アーティファクトでもなければ軽減すらできないと思います。

あの場で逃げ出さなかったら今頃私達は

あの場で倒されリッチロードの死者使役ネクロマンシーによって

配下のアンデッドとなっていたでしょう。」

説明を聞くと、あーちゃんは青ざめる。

「リッチロード…そんなに危険な敵だったんですね…」

「はい。相手の力量を知る知識や感覚も必要です。

対峙した相手に適わないと踏んだら逃げる。三十六計逃げるに如かず。

逃げる事は恥ずべき事ではないのです。死んだら負けです。」

おっと、死んだら負けとか

前世の自分が聞いたらレスバを始めるようなことを言ってしまった。

「はい!わかりました!しっかり覚えておきます!」

「あーちゃんは理解が早くて助かります。」

そう言って私は三度みたびあーちゃんの頭を撫でた。

ここだけの話、実はリッチロードを倒すことは不可能ではなかったと思う。

あの状況の場合、あーちゃんにエンチャントホーリーをかけてもらい

時間を止め、その間に私が始末する。この方法なら十中八九仕留める事が出来た。

しかしリッチロードによる先制攻撃的な奇襲だったり

不測の事態を考慮すると100%とは言えない。

それに、あーちゃんは私が王国随一の騎士ガルヴァンを

凌ぐ実力と過信しているため、私の強さに慢心する可能性が極めて高い。

敵の力量を知る事は生き残るために必須だ。見誤れば命はない。

以前の世界で見ていたアニメや漫画でも慢心した挙句

舐めプで敗北なんて、よくあるパターンだ。当然史実でもそうだ。

敵を知り己を知れば100戦危うからず。

それをあーちゃんには学んでもらいたい。

「さてー、新しいダンジョンはどうでした?」

講釈じみたことを言ってしまったので

あーちゃんの緊張をほぐすため聞いてみる

「最後の方は知らない敵ばかりで

学ぶ事もあったし楽しかったです!先生がいれば安心ですしね!」

前傾姿勢で両腕を前に、ぎゅっと両手握りこぶしで

私の目をじっと見つめるあーちゃん

過信されすぎるのは問題なんだけどね。私は苦笑した。

「あーちゃんに楽しんで学んでもらえたならよかった。

さて、それでは街へ帰りましょうか。」

「うん!」

私はそっとあーちゃんの手を取り

「リターン!」と唱えた。

取り合えず私の宿泊している宿屋の前に戻った。

「あーちゃん疲れてない?お城帰る?ご飯食べていく?」

疲れているなら帰るもよし、英気を養いたいなら食べるもよし。

選んでもらおう。

「ごはんたべてくー♪」

「ふふ、それでは一階の食堂で一緒にご飯を食べましょうか。」

「はーい!」

2人は並んで宿屋の扉を開けて中に入っていった。

街はオレンジ色の夕焼けに染まっているマジックアワーだ

夕食には頃合いの時間。

食事をしている時、兄と姉との関係が劇的に改善した事を

あーちゃんは嬉しそうに報告してくれた。

説明が難しいけれど以前のあーちゃんの笑顔は

どことなく心の底からの笑顔ではなかったように感じていた。

常に何かに怯えているというか。

今日の曇りのない笑顔を見ていると、それを実感する。

『レオナード君は頑張ってるじゃないか。その調子で頼むぞ!』

私は心で呟いた。

あーちゃんは楽しそうに話ながらモリモリ食べる。

口の周りに食べカスが付いていても、お喋りしながらドンドン食べる。

私はその都度そっと口の周りをナフキンで拭いてあげる。

どこからどう見ても街の食いしん坊娘だ。姫様とは誰も思わないだろう。

「ふふっ」この子を見ていると、つい笑みがこぼれてしまう。

あーちゃんは笑顔と幸せがよく似合う。

私はあーちゃんの口の周りをナフキンで拭きつつ

食べ終わるまでニコニコしながら話を聞いた。

会計を済ませ表に出る。

「ふーおなかいっぱい!」あーちゃんは、そう言いながら伸びをする。

「ふふっ」私はそれを見てほほ笑む

その後、何時もの様に城の衛兵に見えない位置まで送り

あーちゃんと別れた。

私の心は満足感に満ちていた。

生前、他人の事で幸せな気分になれるなど微塵も思った事は無かったし

あり得るはずもなかった。

寧ろ常に人の、いや、世界の不幸を願って生きていた。

この世界に転移して私の心は確かに変化している。そう感じた。

「さて、帰りますか。」

そう呟いて私は宿の部屋へと向かった。

帰りの道すがら街の人の不穏な会話が耳に入る

「なんでも隣国がいくさ準備をしているらしい。」

「まさかこの国に吹っ掛ける気じゃないだろうな。」

「やだやだ、こわいこわい。」

まさかね。そう思いつつ宿の部屋へ戻った。

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