新ダンジョントワイライトネクロポリス 前編
今日はあーちゃんが来ている。
部屋に入ると、あーちゃんから申し出があった。私の呼び方だ。
お姉様から先生に戻したいと。
私は快諾した。
王宮で甘えられる兄姉が出来たのだ。
もう家族ごっこをする必要は無いのだ。
流石に私はお忍びの姫様を姫様と呼ぶのは都合が悪いので
今まで通り姫様の事は、あーちゃんと呼ぶ。
現在の神官魔法の進捗を聞くと
最後の難関ともいえる以前、話していた蘇生の魔法も習得し
卒業も間近という事だ。
私の授業でもそうだったが、姫様は教わった事を
スポンジのようによく吸収する。
このまま色々なスキルを習得してゆけば
成人する頃には過言ではなく王国最強の達人となっているだろう。
「さて、あーちゃん今日は何しましょうか?」
「先生は、また新しくできたダンジョン知ってる?」
「あートワイライトネクロポリスダンジョンね
アンデッドの巣窟ダンジョンと聞いてる。
丁度鍵開けというか、トレハンでいいマジックアイテムが出るかどうか
調べてみたかったから、よかったら行ってみる?」
「まだ実践でどの程度通用するかは分からないけど
がんばります!」
「よし、じゃあ決まりね。」
私達は歩いて一時間ほどのトワイライトネクロポリスダンジョンに着いた。
早速中へ入る。
「聖なる光よ、その輝きをもって暗闇を退けよ。ホーリー・ルクス!」
あーちゃんが詠唱すると小さな光の玉が頭上に展開
ダンジョンの暗闇の中私たち周囲を確実に明るく照らす。
「おー!」パチパチパチパチ!
私は感嘆しつつ拍手をした。
以前神官クラリサさんが使った魔法だ。
あーちゃんもちゃんとできてる!感慨深い…
「もー先生大げさ!こんなの初歩なんですよ?」
「でもちゃんと成長してるね。あーちゃんは凄い!」
そう言って頭を撫でてあげる。
言動とは裏腹に、まんざらでもなさそうだ。
「さぁそれでは行きましょう。」
「はい!」
「あーちゃん最近罠解除とか鍵外しはやってないよね?」
「あ…はい…やることが多くて…」
「いいのいいの!それは分かってるから。
でも技術は使わないと、どんどん退化しちゃうからね
思い出しつつ復習のつもりで
罠解除・鍵開けはあーちゃんの担当ね!」
「わかりました!」
あーちゃんが罠を解除し私たちはダンジョンを進んで行く
1Fはゾンビとスケルトンしか出ないようだ
あーちゃんはレイピア私はカタールで軽々片付けて行く
あーちゃんは宝箱をピッキングし宝箱を開ける
私はアイテムを鑑定する。
「エンチャントリーディング!」
手をマジックアイテムに翳しスキャナーの様に手をスライド
アイテム内に流れる魔力の流れを読み取る。
「うん、G~Fランクの粗悪品ですね。
新人冒険者の為にこのままおいておきましょうか。」
私はあーちゃんに提案をした
「わかりました!駆け出しの冒険者なら
収入の足しになりますもんね。」
「そうそう。最初の頃はこれでもお宝ですからね。」
宝箱を閉じ私たちは先へ進む
雑魚を蹴散らしながら、宝箱を開けて進む
やはりこの階の宝箱はG~Fランクのマジックアイテムだけなので
宝箱をそのまま閉め新参冒険者に譲る事として私たちは奥へと進む。
降りる階段が見つかる。
「あーちゃん次の階へ降りても大丈夫そう?」
「はい!」
「じゃあ危なかったら逃げる前提で行きましょう。」
「了解です!」
私達は階段を降りて行きB1Fへと足を踏み入れた。
地下一階も上階と同じくまだ新しい石が敷き詰められている。
迷路状のダンジョンだ。
これだけのダンジョンを現界、若しくは創り上げ
アンデッドを配置できるとなると
高位のアンデットが最下層にいると考えて間違いない。
1Fは物見遊山だったが、階を下るほど気を引き締めなければならない。
降りた先、入り口付近にいたのはグール2体この程度ならまだ私達の敵ではない。
ただグールは毒持ちなので爪で毒を入れられないように
攻撃を完全に避ける必要がある。
動きはゾンビと変わらず鈍いので、棒立ちしていない限り
攻撃を受ける事は無いだろう。
再びあーちゃんが罠を解除しがてら前進する
1Fでは若干たどたどしかったものの、感覚を取り戻してきたようで
B1Fの罠をサクサクと解除してゆく。
宝箱を見付けたので、あーちゃんに解除を任せる。
宝箱の中身を鑑定するのは私の役目だ。
「エンチャントリーディング!」
5個入っていた箱の中のアイテムを順次、全て鑑定。
C~Eランクのマジックアイテムだ。
これらも私達にとっては二束三文なので宝箱を閉め
後の冒険者へと残しておく。
進んでいくと黒い影が揺れているのがわかる。
あの敵影はレイスだ。
「レイス…あーちゃんレイスは知ってる?」
「うん。」
「うーん参ったね…銀武器がない…」
レイスは所謂生霊であり、霊という事は物理攻撃が効かない
銀武器か聖属性攻撃でないとダメージを与えられない。
「大丈夫だよ先生!みてて!
我らが神よ神聖なる力を我らが武器に宿し給え!エンチャントホーリー!」
あーちゃんのレイピアと私のカタールが輝く白い光を湛える。
「これで先生の武器も聖属性攻撃!倒せますよ!」
「やるね!あーちゃん!」
私がそう言うとあーちゃんはちょっと得意気だ。
レイスの手元に赤く光る球が収束してゆく。ファイアーボールだ。
「あーちゃん無詠唱魔法くるよ!」
「はいっ!」
ボッ!
レイスがファイアーボールを放った瞬間私達は左右に分かれて避ける。
放たれた火の玉は、そのまま通路の暗闇に吸い込まれてゆく。
そのまま二人はレイスに飛び掛かる。
私は体を数回突き刺し胸部をカタールの刃で薙ぎ払う。
あーちゃんは頭部を素早く刺突する。
「ああぁ…」と音とも叫び声ともわからぬ音を発し
レイスは霧散した。
「あーちゃんがいなかったら詰んでたよ凄いね!
えらいえらいー。」
私はあーちゃんに歩み寄り頭を撫でた。
あーちゃんは嬉しそうにしている。
「まだいけそう?」
「行けます!」
「じゃあいこっか。」
「うんっ!」
というわけで私達は奥へ進む。
幾度か敵と戦い、宝箱を開け奥にたどり着く
階段が見えるが敵影も見える。ガードモンスターか。
ゆっくり近づいて行くと
ガシャ!鎧を着こんだアンデッドがこちらを振り返る。
リビングデッドファイターか?
盾に見覚えのある紋章が刻まれている
隣国の騎士団の紋章だ。
つまりリビングデッドナイト。
生前の武技を、ほぼ保持している
呪いによって不死となった騎士だ。
スケルトンやゾンビの様に死して時間が経過した
アンデットではなく
生きたまま呪いによって不死化されたため
生前と同じ俊敏さも持ち合わせる厄介なアンデットだ。
「我らが神よ神聖なる力を我らが武器に宿し給え!エンチャントホーリー!」
2人の武器は再び輝く白い光を湛える。
詠唱中アンデッド騎士はあーちゃんに切っ先を向け振りかぶる!
ガギィン!カタールで剣を受け流す!
「させないよ!」私はそう言うと騎士の足を足で薙ぎ払う
騎士は転倒する。私はカタールを素早く振り上げ
アンデッド騎士の喉元に振り下ろす!
ギィン!
アンデッド騎士は咄嗟に盾で喉元をガードした為
私のカタールは弾かれる。条件反射という奴だろう。
「チッ!」
思わず舌打ちをする。
シュッシュシュシュッ!ザグッ!バチィン!
その隙にあーちゃんはレイピアで鎧を繋ぎとめている革ベルトの部分を突き斬った
カランカラン…
アンデット騎士の鎧の部分が外れ石床に転がる。
「あーちゃんナイス!」
ドドドッ!ザシュッ!私は騎士の腕付け根をカタールで
数回刺突し最後に斬撃で腕を胴体から切り離す。
カラン…左腕と盾が石床に転がる。
生きている者ならば、ここで悲鳴の一つでも上げ
動きに隙ができるものだが、そこはアンデッド騎士
痛覚等は無いため残った右腕と剣であーちゃんを突き刺そうとする!
「そっちを狙うか!卑怯者めぇっ!」ガィィン!私は叫ぶとともに
騎士の小手の部分をカタールの切っ先で強く突き軌道を逸らす。
あーちゃんの髪がわずかに剣圧によって切れ宙に舞う。
「終わりだっ!」そう言うと私は体勢を崩しかけている騎士を足裏で蹴り飛ばす。
アンデット騎士は地面を転がり仰向けになる
その時既に私は宙を舞っていた。
ドスドスドスドスッ!カタールを騎士の心臓に連続で突き刺す。
「ウヴォォォォ…」断末魔と共にアンデット騎士の肉体は灰になり四散した。
ガラン…嘗て騎士の物だった武器防具が石床に転がる。
「あーちゃん大丈夫?!」私は振り向き駆け寄る。
「うん。…ごめんなさい、ちょっと油断しちゃったみたい…」
「んーん、人間相手ならあの時点で勝負ありだからしょうがない
アンデッドの時は終わりまで気を抜いたらダメだからね。」
「はい!」あーちゃんは返事をした。
さて、下の階がある。行くべきか行かざるべきか。
「あーちゃん。ここの階段を降りたら
もうワンランク上の敵が待ち受けているかもしれない
行ってみる?」
あーちゃんに問う。私はいざとなれば時間を止められる
まだ、あーちゃんを護りながら戦える余裕はある。
本当に危険ならば時間を止めたままリターンを使う事も出来る。
「先生はまだ行けそうですか?」子犬のような眼差しで
あーちゃんは私を見つめる。
「うん。多分まだいけると思う。
ただ、行くとしたらピンチの際は逃げる。
こういう心構えで行くかなー」
「じゃあ行きたいです!」あーちゃんは元気に言った。
「では行きましょう。この先はずっと気持ちを引き締めて
油断しないようにね!」
「分かりました!」
2人で階段を降りて行く。




