少年と死神
翌日ロディーは夜に来た。私の方から願い出たのだ。
勿論あーちゃんの様子を教えてもらうためだ。
王子レオナードは翌日つまり今日から豹変していた。
命がかかっているからな。
あーちゃんは、これまで兄姉の事は名前+様呼びだったが
今日から兄は名前+兄さま。姉は名前+姉様で呼ぶといいと伝えられた。
当然ルドヴィクとロザリンデには根回し済みのようだった。
これで一安心だ。ロディーには自分の修練に戻ってもらい
暇な時にチェックを頼んでおいた。
さてクエストでもしてくるか。偶には深夜の依頼もいいものだ。
私は冒険者ギルドへと向かった。
掲示板に周囲には依頼書が見えるように
ランタンが煌々と焚かれており文字もよく見える。
依頼
今夜息子を護衛してください。か
報酬は銀貨500枚
敵次第だが今の私にとっては銀貨500枚は
言っては何だが、はした金だ。
けれど何故か胸騒ぎがする。私が受けなければならないと
そう何者かに背中を押されているような感覚。
私は掲示板から、その依頼を剥がし冒険者ギルドへ持ち込む。
サインをし受付嬢に依頼書を渡すと詳しい場所を教えてもらった。
ここからすぐ北の村。
報酬金も村人で出し合ってのものだそうだ。
私は直ぐに出立した30分もすると村が見え
十数件の家が見えるが一軒だけ明かりがついている家があったので
その家へ向かった。
コンコンコン!
「冒険者ギルドから依頼を請けましたアリシアと申します。」
そういうとドアを開け女性が出てきたまだ若いが母親だろうか?
「今か今かとお待ちしておりました。中へお入りください。」
私は居間へ通された。
詳しい話はこうだ。数日前から黒いローブを着て大鎌を持った
何者かが衰弱した少年の枕元に現れ死の宣告をしていくらしい
毎日カウントダウンをしているそうだ10から始まり
昨日は1と言い残し去った。順番通りなら今日は0。
息子は今日死んでしまうかもしれない。
母親は涙でくしゃくしゃの顔で私の手を握り
銅貨息子を助けて欲しいと懇願する。
「全力を尽くし出来るだけの事はしてみます。」
私はそう母親に伝え、少年の部屋へと通される。
ベッドで横になっている少年はガリガリに痩せ
顔は生気を失っている。既に死んでいるのではないかと思ってしまうほどだ。
「このお姉さんが貴方を守ってくれるって。」
母親は少年に小さな声で囁く。
「…ほんとぉ?」力なくぼそぼそと話す。見るからに精いっぱいなのだろう。
少年はわずかに目を開け私を見る。
私は少年の手を握り
「安心して。私は必ず貴方を守って見せる。」
「ありがとう…お姉さん…」
そう言うと少年の手は私の手からずり落ちる
最早、手に普通の力を籠めるほどの余力もないのだ。
私は少年のベッド横の椅子に座り時を待った。
夜も更け不覚にもうとうとし始めてしまった頃。
そいつは音もなく現れた。
黒いフード付きのローブで顔は良く見えない。
大きな鎌を携え、そいつは男の子を凝視しつつ指をさす
「ゼロ。」
そう言うと鎌を振り上げ
鎌に、どす黒い闇の光が集まって行く。
「ソウルハーベスト。」そう言うと少年に向かって鎌を振り下ろす。
私は素早くカタールを抜き。
ガキィン!その鎌を弾く。
「何者か。邪魔だてをするな。その少年は今日、本日、この時を以て死ぬことになっている」
声質からして女か。
「お前にその少年の生殺与奪権があるとでも?」
私はそう言い、斬りかかるがヒラリと避けられた。
「私はグリムリーパーのモルティシアという。
死の番人だ。私の仕事を邪魔すれば、お前も死ぬことになるが
それでも邪魔立てをするか?」
「無論だ。」
私は首を狙いカタールで薙ぎ払う。それも余裕で避けられてしまう。
しかしその反動でフードが脱げる。
漆黒の黒髪が見える。
「そうか…お前は今夜私のダンスの相手になってくれるのだな?
存分に舞うがいい。フフフ。」
モルティシアは私の目を見ない。
しかしこれは舐めプではない。
私は知っている。グリムリーパーは指を刺した相手と
目を合わせた相手の魂を刈り取るのだ。
つまり、私はまだ死の予定には入っていないという事だ。まだ……だが。
「私の愛鎌ヴォイドハーヴェスターは自動追尾型。
お前の行動に合わせて魂を刈り取りに行く。」
グリムリーパーの鎌は触れると即死する。
何とかヴォイドハーヴェスターと肉体の接触は避けねばならない。
しんどい依頼だな。
カァン!キィンギィン!キィンキィン!ギィン!カァン!
四方八方から打ち下ろされる鎌を避けつつカタールで弾く。
触れたら即死だ。その現実が私の決断をやや鈍らせる。
不規則な動きから急に急所を狙ってくる攻撃が繰り出される。
フェイントからの首狩りが来た!避けられない!カタールでも防げない!
クロノコントロール、スタティック!
私は時を止めた。ハァハァと息を荒げながら、その場にへたり込む。
時を止めなければ死んでいた…。
呼吸が整うまで時間を止めておいて。
時間を動かしたリリース。
そして急襲。
カタールをモルティシアの胸元に突きさす!
が、躱される。
何故だ!鎌は百歩譲って自動追尾型だから分かるとしても
何故私を見ていないにもかかわらず、私の奇襲攻撃が避けられるのか!
ガイン!カァン!ギィンギィン!カァン!再び鎌とカタールの打ち合いがはじまる。
永遠とも感じる時間が流れる。打ち合いは幾度となく繰り返され。疲労は蓄積される。
数時間打ち合っただろうか。鶏の鳴き声が聞こえ夜が明けてきた。
突然鎌の動きが止まる。奥義か何かだろうか。
私に戦慄が走る。
「いやぁ!見事お前の名前を教えてくれるかい?」
「……」
「警戒はしなくていい君の名前を教えてくれ。約束する。」
「アリシア。」
「いやー楽しかったよアリシア、君強いね。
私は職務を遂行できなければ、上の者に仕置きされるのだけれど。
君に免じて、仕置き覚悟で今回の仕事私は放棄しよう。
私が去れば少年は日に日に回復していくだろう。
アリシア。君の死の担当は私がさせてもらおう。
またいつか君が事切れる時に私は君の前に現れる。
それまではお別れだ。それでは消えるとしよう。」
モルティシアはそう言うと鎌をくるりと円を描くように一回転させ
消え去った。
ガチャリ!母親が急いで入ってきた。
「アリシアさん!本当に有難う御座いました!何とお礼を言っていいか…
言葉が見つかりません。一生私は貴方に感謝することを誓います。」
そう言うと目に涙を溜め私の手を握ってきた。
ドア越しに聞いていたのだろう。
「これで解決ですね、息子さんの命が助かってよかt…。」
私はそのまま床に倒れ込んだ。
「アリシアさん!アリシアさん!」
母親は焦り私に問いかけ生命反応を確認した。
私は深夜の依頼で徹夜だったことと気が抜けて
一気に眠気に体が支配されていた。つまり爆睡していた。
母親は私が死んでいない事を確認し安心しつつ
客間のベッドで寝かせてくれたようだ。
私が起きたのは昼下がり。見守っていた母親は
「よかった気が付かれましたね!体調は如何ですか?」
「えぇすっかり元気です、ご迷惑をおかけしました。」
「とんでもない!あなたは私たちの奇跡の使者です!
村長の家で宴の準備ができております。ささ、ご一緒に参りましょう。」
丁度お腹もすいていたので、お言葉に甘える事にした。
一通り食事が終わると、ギルドへの報告書が用意されていた為
それを受け取り街を後にした。
村人総出の見送りだ。この村は皆団結力がある良い関係の村なのだなと思いつつ
首都へ帰還した。
冒険者ギルドに報告書を渡すと銀貨500枚が支払われ。
私は宿屋への帰途についた。
今回の敵も一歩間違えれば死んでいたな。
あーちゃんには内緒だな。絶対怒るからなぁ。私は苦笑した。
宿屋の部屋につき、一日は過ぎて行った。




