ソウルメイト
コンコンコン!私の部屋がノックされる
「開いてますよ、入ってくださいな。」
約束の日取りなどないが私の部屋を訪れるのは
誰かはわかっている。
「おはようございます!おねーさま♪」
そう、ここローゼンガルド王国の姫様のお忍び
あーちゃんだ。
「1週間ぶりね、元気だった?神学は捗ってる?」
「うん!今は状態変化治癒の魔法を学んでるよ!」
「あーちゃんは頑張りやさんだね。」
あーちゃんに近寄り頭を撫でてあげる。
ぎゅっと私に抱き着いてくる。私は片手をあーちゃんの背中に回し
頭を撫で続け暫く甘えさせてあげた。
「さて、あーちゃん私は着替えるからちょっと待ってね。」
「はい!」
私はシュミーズを脱ぎアサシン装備に着替える。
「あーちゃんは朝食食べた?」
「今日は食べてないかなー」
「それじゃあ一緒に一階の食堂で朝食にしましょうか。」
私が提案すると
「やったー!」あーちゃんは喜んだ。
庶民からすれば王家の食事は美味しいけれど、それが毎日となれば
姫様としては、やはり庶民の味覚を味わえるのは嬉しいのだろう。
私達は食堂に行き二人掛けの席に座り
朝食を注文した。
「はいどーぞ!」食堂のウエイトレス…と言ってもおばちゃんだけれど
2人の朝食を運んでくれた。
おばちゃんは、あーちゃんの方を見て
「最近よくアリシアさんを訪ねてくるけど、PTメンバーかい?」
そう聞くとあーちゃんは
「はい!姉妹でチームを組んでいます!」
「姉妹なのかい?そうかいそうかい、チーム名はあるのかい?」
「あ…考えてなかったわ。考えなくっちゃね…」あーちゃんは言う
そう言うとおばちゃんは他のお客さんのオーダーを運ぶため
カウンターに戻っていった。
「ねぇお姉様、私たちのチーム名を考えませんか?」
「いいですね、あーちゃんには何か案がありますか?」
私はスープを口に運んだ。
「お姉様に考えて欲しいかなって。」
「そうですねぇ…ぱっと思いついたのは
あーちゃんは薔薇の王国に関係しているので
それを加味して『クリムゾン・ローゼス』なんてどうでしょう?
深紅の薔薇を意味し、高貴なイメージです。
如何でしょうか?」
「いいですね!素敵だと思います!」
姫様は言った
「分かりましたギルドへ行ったら早速登録しましょう。」
「はい♪」
2人は雑談を交え朝食を完食した。
会計でお金を払うと
2人は直ぐ冒険者のギルドへ向かった。掲示板の前へ到着する。
「登録は依頼を請けるサインの時にしましょうか。
また、あーちゃんが気になる依頼書があったら持ってきてね
最終判断は私がしますね。」
「はーい!」そういうと、あーちゃんは掲示板を端から端まで眺めている
暫くすると依頼書を剥がし、私に元へ持ってきた。
「これなんかはどうですか?」
「どれどれ?」
依頼
ペットのウサギのルルが亡くなってから娘の様子がおかしい
寂しさを埋めるために似ているウサギのぬいぐるみを購入したものの
しょっちゅう娘はぬいぐるみのウサギと会話しているのです
ウサギもぬいぐるみなのに動いているように見えるし気味が悪い
私達両親から見ると娘の精神が壊れてしまっているように見える
何とか娘を元に戻して欲しい。
報酬 金貨2枚
「うん、これは御両親も心配しているでしょうね。
娘さんの為にも力になってあげたいですね。」
「そうなの!だから選んだの!」
「じゃあ決定ですね。冒険者ギルドの中へ行きましょう。」
私2人は受付嬢にチーム結成を伝え私たちのチームは登録された。
そして依頼書にサインをすると依頼者宅の地図を渡された。
私たちはすぐに向かった。
コンコンコン!「冒険者ギルドから派遣されました
チーム、クリムゾン・ローゼスです。」
念の為Aランク上位職である事を伝える。
居間へ通さされる。
説明はほぼ依頼書の通り、若干詳しく説明された。
早速娘さんに部屋に通される。
「マリエッタお客さんが会いにきたわよ
部屋に入ってもいいかしら?」
「どうぞ。」
私達は部屋に入った。
「マリエッタちゃん初めまして、私はアリシア
隣の子はアメリアといいます。よろしくね。」
「こちらこそよろしくお願いします。
ルルちゃんにも挨拶してあげて。」
そういうとマリエッタはぬいぐるみのウサギを膝に乗せる。
「こんにちはルルちゃん。」
「こんにちはルルちゃん♪」
私達はぬいぐるみに挨拶をした、すると
そのぬいぐるみのウサギはぴょんとマリエッタの膝から飛び降り
マリエッタの周りをグルグル回った。
「頭を撫でてあげてもいいかな?」
私が提案すると
「はい、喜んでいますので今でしたら大丈夫だと思います。」
その言葉で私はぬいぐるみの鼻の頭からおでこにかけて優しく撫でた
あーちゃんも交互に同じように撫でた。
ウサギのぬいぐるみは香箱座りをしリラックスしているようだ。
確かにぬいぐるみが動いている事は一般的には異常な事だ。
それに話しかけて共に交流をしているマリエッタも
周囲から見たら気持ち悪く異常に見えるだろう。
でも私の所見としては、このぬいぐるみは何故か
普通にペットとして生きているように見える。
非科学的な事かもしれない。でも目の前で現実に起きているのだ。
「マリエッタちゃんは、ルルちゃんと会話できるの?」
私は聞いてみた
「いいえ、ペットと飼い主の関係以上ではありません。」
ふむ。私は一つ手立てを知っている。呪術師。
彼ら彼女らは生者ならざる存在と会話ができると聞いたことがある。
死して、尚ぬいぐるみに憑依するならば、高位の存在である可能性が高い
「それではマリエッタちゃん、私たちは少し用事があるので
一旦失礼しますね、また来ますね。」
そう言うと屈託のない笑顔で私達を部屋から見送ってくれた。
「外へ出ると、私はあーちゃんに聞いてみた
あーちゃんは知り合いに有名な呪術師の人いるかな?」
「うんいるよ!シオンおばあちゃん!」
「流石あーちゃん、顔が広いね!」
「エヘヘ」あーちゃんは照れ臭そうに笑う
「それではご案内いただけますか?」
「うん!会うのは久しぶりかなー。」
リターンで王都に戻り、あーちゃんの案内でシオンさん宅へ向かった。
コンコンコン!あーちゃんはノックをする
「はい…どちら様でしょう…」
「久しぶりねシオンおばーちゃん!」
「あ…あなたは!まさか!ひ…ひm…ムグッ」
「しーっ今はお忍びなのそれは言わないで。」
あーちゃんはシオンさんの口から手を離す。
「これは失礼を…むさくるしい所ですが中へどうぞ、ささ。」
そう言うと姫様の後について私はシオンさん宅に入る。
姫様は私と姫様の関係を簡潔に話紹介をしてくれた。
「おやまぁ、これは姫様がお世話になっております。」
シオンさんは深々と頭を下げる。
「いえいえ、こちらこそお世話になっております。」
私も深々と頭を下げた。
「お姉様、シオンおばーちゃんに話があるのよね?」
「そうでした、シオンさんは霊話は可能ですか?」
「霊体との交信の事でしょうか?可能ですよ。」
ニコニコしながらシオンさんは答える。
「それでは是非お願いしたいことがあるのですが
報酬はお支払いします。
ある子のぬいぐるみに憑依した霊体と、お話をしていただきたいのです。」
「姫様の大切な方の依頼を断る事なんてできません。
ましてや報酬などとんでもない
力になれる事があるなら喜んでお手伝いさせていただきますよ。」
シオンさんは答えた。
「感謝します」私は頭を下げた
早速二人を連れてリターンを唱える。
マリエッタの家の前に三人は居た。
コンコンコン!
ガチャ!扉を開け母親が出てくる。居間へ案内される。
「実はあのぬいぐるみには生前ペットとして飼っていた
ルルちゃんの魂が定着していると思われます。
マリエッタちゃんは独り言ではなく普通に今もペットと暮らしています。
霊と会話ができる方を連れてきました。
お母さんも同伴でマリエッタちゃんと一緒に
お話を聞いてもらえますか?」
最初母親は戸惑っていたが、シオンさんが懇切丁寧に自分が呪術プロである事
こういう事はあり得ると説明してくださった結果
一緒に話を聞いてもらえる事となった。
父親は仕事で出ているので母親が詳細を伝えるとの事。
コンコンコン!
「マリエッタ部屋に入ってもいいかしら?」
「うん、はいって。」
ガチャ!扉を開け4人で部屋に入る
マリエッタは数が増えてちょっとびっくりしている。
私はマリエッタにシオンさんを紹介しルルちゃんの話を
みんなに伝えてくれると話したら喜んで協力すると言ってくれた。
シオンさんはルルちゃんに何か話しかけている。
人語ではないし、何を言っているのかわからない。
皆じっと聞いていた。
シオンさんは口を開く
「ルルちゃんは、一度死後の世界へ行っているみたい。」
知ってる私も行ったから。
「それでね、ルルちゃんは、その死後の世界で安らげるから
現世に降りるのは、まだ先でいいと管理する偉い人に言われたみたい。
でもマリエッタさんの事が気になって、どうしても戻りたいと願い出たらしいの。
ここで一つ説明しておかないといけない事があって
マリエッタさんとルルちゃんはソウルメイトなの。魂の伴侶というべき存在ね。
そこで、管理する偉い人に懇々とマリエッタさんを現世に残してきて
とてもこの世界で安らいではいられない。私と彼女の魂は片割れ同士
2人で一人なのだと説いたそうよ。最後には管理者の偉い人がルルちゃんの熱意に折れてね
肉体は朽ちているので、ぬいぐるみに魂を吹き込んだそうよ。」
シオンさんが話をしている間中ルルちゃんはマリエッタちゃんの顔をぺろぺろ舐めていた。
話を聞き終わるとマリエッタちゃんはルルちゃんをぎゅっと抱きしめた。
「私達ずっと一緒だね。」
マリエッタちゃんが言う間もずっとルルちゃんはマリエッタちゃんの頬を舐めていた。
私にはそれがルルちゃんの返事のように思えた。
「そういうわけです。お母様、納得頂けましたでしょうか?」
私は言うとマリエッタちゃんの母親は目を真っ赤にして
「私の考えが間違っていました。
ぬいぐるみが動くなんて気持ち悪いなんて考えていた私を恥じます。
この事は夫にも報告しておきます。
皆様にはご迷惑と多大な手助け感謝いたします。」
そういうと床に座っていた母親は両手をつき頭を下げ
お礼を言った。
そして顔を上げて
「マリエッタ、ルルちゃんを大事にね。」と母親はいい
「うん!」とマリエッタは答えた。
そう言うと私たちは母親に先導され居間に案内された。
報酬の金貨2枚を受け取り
玄関外まで何度も頭を下げながらお礼を言い私達を見送ってくれた。
「リターン!」私たちはシオンさん宅の前に飛んだ。
「本当にお世話になりました。
報酬は本当にいいのですか?」
「えぇえぇ、その代わりと言っては何ですが
貴方にお願いがあります。」
「?…何でしょうか?」
「くれぐれも、そのお方をお願いします。」
「はい勿論です。命に代えましても!」
そう言うと姫様は私の腕を引っ張った。
「命に代えてはダメです!生きて守ってください!」
その言葉に私とシオンさんは、くすくす笑ってしまった。
「何もおかしくないのです!」あーちゃんはちょっと怒っている。
「分かっています。私はあーちゃんを置いて
どこにも行きませんから、安心してください。」
そう言うと、あーちゃんは抱きついてきた。
「絶対ですからね!」
「はい。わかっています。」
私も優しくあーちゃんの背中を両の手で包み込む。
「あらあら、まぁまぁ。ふふふ。」
シオンさんは優しい顔で微笑んでいた。
「それでは帰りましょうか。」私が言う
「うん。シオンおばーちゃんも息災でね!」
あーちゃんは振り返って手を振る。
シオンさんも手を振っている。
ソウルメイトか…
私の前世にソウルメイトは居なかった断言できる
ひょっとして…私のソウルメイトは…
私はあーちゃんの顔を見る。
あーちゃんは私と手を繋ぎながら上機嫌で歩いている
私の視線には気づいていない。
私は目を伏せて思った。
もし、そうだったのなら、いいな
私はそう思った。