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思いがけないプレゼント

「SSRってところか…。」

私はローゼンシュタットの冒険者ギルドの掲示板から

依頼を剥がし眺めつつ呟いた。

依頼

星霜の果実1個 報酬金貨50枚

詳細

千年に一度しか実を付けない黎明の星森に存在する星の泉の

星霜の木に一つだけ実る星霜の果実

その木、その実は発光しているため一目で判別可能

今回の結実は3月の17日~18日にかけての深夜

1000年前の情報から算出した間違いはない情報。との事。

千年に一度しか実らない光る果実なんて

見てみたい!見たくない?

私は依頼書を冒険者ギルド受付嬢に提出する

任務受付のサインをした

「こちらの依頼は完了した場合、ご本人へ手渡しの上

報酬の受け取りも、依頼主様からとなっております。」

受付嬢は言った。

依頼人に直に報告みたいなのは結構ある為

特に気に留めることなく了承した。

黎明の星森は馬車で数時間、急げば徒歩でも

半日もあれば着くだろう。

半日かけて辿り着いた森は薄っすらと霧がかっており

何とも神秘的な雰囲気を醸し出している。

森に分け入ると静寂が体を包み込む

ある程度入っていくと暗い森の中に

ぼんやりと光が灯っている場所がある

その方向へ向かうと泉があり中心部には

薄っすらと光る木が見える。

湖から中心部の木へアクセスできる道は一つだ。

私は木の陰に身を隠した。

何故なら気配を感じたからだ。

ひいふうみいよいつむ…ざっと10人以上はいる。

固まって気配を感じる箇所もあるPTできているのだろう。

奪い合いになるかもしれない。

しかしそうなれば私にとっては好都合だ

時間を止めて奪い去り逃げてしまえばいい。

問題は、その前に星霜の果実を奪われ空間跳躍のような能力

またはアイテムを使われ果実を持ち逃げされた時だ

その時点で私の依頼は失敗となる。

取り合えず息を殺し、果実が実るのを待とう。

数時間経っただろうか、木から発せられる光が

徐々に強くなってきている、否応無しに

間も無く結実という雰囲気が漂う。

そしてその時はきた。星霜の木は一層強く輝くと

光で象られた果実と共に、一体の獣が姿を現して行く。

そして、数秒後、光る果実と獣、いや、その獣からは霊性を感じる

霊獣と呼んだほうがよさそうだ。が現界した。

「まぁ、無条件に入手できるとは思ってなかったが

ガードモンスター付きか。行くぞ。」

鎧の男が声をかけると隠れていたPTが現れた。

残り物にも福は無いが、先陣たる人柱にも福は無い。

OSを使っていればわかるが人柱は苦労を伴う。

己を知り相手を知らば100戦危うからず。

取り合えず様子を見るのが上策だろう。

盾持ちナイトらしき男が霊獣に突っ込む。

魔法使いらしき男は呪文の詠唱をはじめ

神官の女は味方にバフを配り

弓使いは弓を番いキリキリと矢が張り詰める。

霊獣は…咆哮を上げた!

咆哮の衝撃波を受けたメンバー全員が宙に浮く

重力を奪う技か?

こうなると何も打つ手がないだろう。

霊獣の直ぐ前の空間が歪む。霊獣はその空間に踏み入ると

そのPTの後衛の後ろ側に出た。

空間移動か…厄介だな…。そう思っていると

先ず魔法使いの男が霊獣の高速爪連撃の餌食になる。

かろうじて息があったようで神官の女は回復魔法を使用する

魔法使いの男の傷が癒える。

当然霊獣のターゲットは神官の女に移る。

神官の女は胸部を抉られ即死した。

続いて魔法使いの男が屠られ。

死を悟ったのか番えた矢を地面に落とす中衛の女性。

鋭い爪で心臓を貫かれ絶命。

ナイトらしき男は鎧をはぎ取られ生きながらにして

霊獣に食われている。

辺りに絶叫が響き渡る。

霊獣の霊力が上がったように感じる。

生命力を喰らい、自らの力へと変える能力か。

ここで幾らかのPTの気配が消える。諦めたか。まぁそりゃそうだ。

霊獣は悠々と木への一本道に戻り寝転ぶように丸まる。

余裕が見て取れる。一人の気配が木に近づいているのがわかる

霊獣は気づいていない。

高度なハイディングスキルだろう。

気配は木に達する。果実が揺れる。手が触れたのだろう。

その瞬間木から鋭利な蔓が何本も出現し隠れている者の手に突き刺さる。

叫び声と共に集中力が切れハイディングが解ける。

後は神獣の餌食だ。気配は私を含め数人に減った。

これは厄介だ、手の打ちようが思い浮かばない。

ここに残っている皆はそう考えているだろう。

私を除いては。

何故なら私以外達成が極めて困難な依頼だとわかったからだ。

クロノコントロール、スタティック!私は心で唱え時間を止める

霊獣を横目に木に駆け寄り、傷つけないよう急いで果実を回収し

バックパックに入れる。そしてスクロールを取り出し

「リターン!」と唱えた。私は王都の冒険者ギルド前に戻った。

リリース!心の中で唱えると街中の人々は動き出す。

私はそのまま受付嬢の所へ行き依頼遂行を伝え

依頼人の名前と場所を尋ねる。

「ご依頼主の名前はセリアン氏、ここ王都にお住まいです。

地図をお渡ししますね。」受付嬢はそう言うと地図を渡してくれた。

私は地図に従って屋敷を訪ねる。

古びてはいるが荘厳な造りの外見だ。

入り口のドアには装飾の施されたドアノッカーがある。

私はドアノッカーを3回扉に打ち付けた。コンコンコン!

暫くすると扉が開いた。

「どちら様ですかな?」年老いた老紳士が訊ねる。

「私は冒険者アリシアと申します冒険者ギルドの依頼で

星霜の果実をお持ちしました。」

「おぉ!お待ちしておりました、当主様がお待ちです、さぁ中へどうぞ。」

中の装飾も煌びやかで相当財を成しているのだと想像がつく

私は老紳士に導かれ客間へと通された。

深夜ではあるが、今日は星霜の果実の結実日だと知っていた為

当主も起きて今か今かと待っていたのだろう。

「セリアン様、冒険者の方が無事、星霜の果実を入手され

お持ちいただきました。」

「ほんとうか!まだ若いのに、素晴らしい腕の持ち主なのですね。

あの仕掛けと突破できるとは、相当の腕前と見ました

このセリアン感服いたしました。」

見た目セリアン氏は10代半ばといった所私より少し年上のような

イメージだ。

「先ずは、依頼の完遂感謝します。」そう言って当主は頭を下げた。

「何分我々はその果実を見守るための一族なのですが

如何せん戦闘能力が長い年月で手練れの者はいなくなり

その入手の役目を冒険者に依頼する他ないのです。

この感謝は到底伝えきれません。」ずっと頭を下げている。

「私は任務を遂行しただけです頭をお上げ下さい。」

そう言うと私はバックパックから

淡い光を放つ星霜の果実を取り出しテーブルに置いた。

「こちらになります。」私がそう言うと

「間違いない1000年前に食したものと同じだ!」当主は言う。

どういう事?私は頭を捻った。

「不思議そうな顔をされていますね、あなたには話しておきましょう。

この果実の秘密を。」

おぉ!何か秘密があるみたい!そうだよね!どう見ても何かある感じがするし!

「単刀直入に言いますと、この果実を食した者は老化を大幅に遅らせるという効果があるのです。

ちなみに私は1000年前に、この果実を食べています。私の実年齢は5015歳。

代々果実の守り手として役目を繋ぐためこうして生きながらえているのです。」

まじかー!不老不死に限りなく近い食べ物じゃん!すげー!

「それでは早速切り分けて参ります。セリアン様暫しお待ちを。」

老紳士が言う

「わかった頼んだぞセバスチャン。」当主が言うと果実を手に老紳士は部屋を後にした

セバスチャンて、ガチテンプレな執事名やないですか。

「ところでお名前をお伺いしても?」当主が言う

そう言えばセバスチャンさんには名乗ったがこの方には名乗っていない

「Aランクアサシンのアリシアと申します。」自己紹介をした。

「アリシアさん、セバスチャンが戻る前までに、聞いておきたいことがあります。

私は、この果実を持ち帰ってもらった者には、私の様に果実を食べていただける

権利を与えております。そして願わくば1000年後再びあなたのお力をお借りしたい。

アリシアさん、どうなさいますか?」

前世の記憶から考えるに女性は若いほど価値があった。

その時間を延ばせるのなら、ためらう事は無いだろう。是非もない。

「承知いたしました、是非ご所望にあずかりたいと思います。

再び千年後セリアン様の為に力添えをする事お約束いたします。」

「そうですか!私としても助かります。」そう言うと

「お待たせしました。」そう言うとセバスチャンさんは

切り分けた果実を皿に盛り付け当主の前に差し出す。

「セバスチャン、アリシアさんは私の申し出を受け入れてくださって

次の千年後も助力してくださる事を約束してくださった。

私の憂いもなくなるというものだ。」

「それは何よりですねセリアン様。」セバスチャンは言う。

シャリッ!先ず当主が果実を口にする。

「うん。いつもの味だ。

さぁアリシアさんもこちらへ来て食してください。」

私は近づくと頂きますと言い果実を口に入れた。

とても甘い。糖度が極めて高いのだろう。

魔力の流れが体を伝って全身に流れてゆく感じ。

科学的に言えば恐らく遺伝子が修復されテロメアが数十倍に伸びたのだろう。

「ごちそうさまでした。」私はお二人に頭を下げた。

「これからはお仲間ですね。」そう言うと当主は右手を差し伸べてきた

私はその手を取ると握手をした。

「セバスチャンさんは食されないのですか?」

私は普通に疑問をぶつける。

「はい、私は長く生きる事に頓着はありません。

普通の人らしく生き普通の人らしく、この世を去ろうと思います。」

考え方は人それぞれだ。それもまた一つの人生なのだろう。

「セリアン様それでは、セリアン様、数十年か数百年毎か分かりませんが

顔をお出し致します。」私は言った

「キミと僕とはもう同類の仲間だ様付けはやめよう。」

「分かりましたセリアンさん、今度ともよろしくお願いします。」

「こちらこそ。そうだセバスチャン金貨の報酬も用意できているかな?」

「はい、こちらに。」別のテーブルの端に金貨の詰まった袋が用意されていたので

それをセバスチャンさんから手渡された。

「それでは確かに報酬頂きます。ありがとうございます。」

「いえいえ少ないぐらいですよ、本来ならもっと価値のある仕事でした

それと、私はお金には困っていません長く生きているとコネクションや

お金の稼ぎ方には滅法精通しておりましてね。

金子に困ることがあればいつでも言ってください。

貴方の為ならいくらでも用立てさせてもらいます。」

「ありがたきお言葉、本当に困った時は頼らせていただきます。」

私はそう言い頭を下げた。

「遠慮は無用ですよ、さぁ夜も遅い住居までセバスチャンに送らせましょう。」

ご当主は言ったが丁寧にお断りさせてもらった。

正直な所私一人の方がセバスチャンを気にしなくていいだけ暴漢に襲われても対処が楽だ。

玄関の扉までお二人は見送りにきた。

「それではまた。」私が頭を下げると

「お気をつけて、今後ともよろしく。」と当主は手を振って見送ってくれた。

奇しくも今日3月18日は私の12歳の誕生日だ。

誕生日プレゼントは不老か。なかなかしゃれたプレゼントだな。

そう考えながら私は宿屋へ戻った。

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