親孝行
翌日父母を連れ立ってグリムハルト行きの馬車を手配しようとしたところ
父が帰還のスクロールで移動したらどうかと提案した。
個人的には道中も楽しんでもらえるかなと思ったのだけれど
村長という立場上、何日も村を空けられないとの事だった。御尤もである。
ならば、いっその事王都ローゼンシュタットへの観光を提案してみた
帰還の巻物を使えば瞬時に戻れるのだ、どうせなら活気のある首都の方が
思い出に残るだろう。父母は快諾してくれた。
私は丈の合わない、ちんちくりんな田舎娘の格好、父母は普段着で準備が整った。
それではお父様お母様、私に掴まってください。
「リーブ!」私がスクロール片手に唱えると
あっという間に、首都の門へと移動する。
父母は初めて見る大きな首都に口をポカーンと開けて眺めている。
「今日は両親を連れ立って観光に来ました、お通し願えますか?」
私は衛兵に聞く
「服装は違いますがアリシア様ですね、どうぞお通り下さい。」
私は軽い会釈、父母は深い会釈をすると街中に入っていった。
父母は行きかう人々の多さに興味津々でキョロキョロしている。
「あまりキョロキョロするとお上りさんだと思われますよ?」
私がアドバイスすると、ゆっくり見回していた。
ドン!ガタイのいい男がお父様にぶつかる。
「気をつけろ!おっさん!」
ぶつかってきた相手は父を威圧する。
「これは御無礼を働きまして、失礼しました。」
父は頭を下げる。
「おう!気をつけろ田舎もんが!」そう言い残すと男は
立ち去ろうとする。私は男が父へした行動を見逃さなかった。
「お父様お母さま少々お待ちいただけますか?」
「あぁ、何か気になった事でもあったかい?」
「えぇ少しだけ、すぐ戻ります。」
私はその男を追った。男は角を曲がると立ち止まり。
父の財布の銀貨を数えていた。こいつ父上の財布を摺ったのだ。
「おい、お前今父上から財布を盗んだな?」
私は男に問う。
「だから何だってんだ、小娘が!あぁん?痛い目にあいたいのか?」
「大人しく父上の財布を返すなら見逃してやる。それとも力ずくがいいか?」
「小娘が利いた風な口を、少々痛めつけてやる必要があるな。」
男は手を剣の柄にかける。
クロノコントロール、ディレイ!私は心の中で唱えた。
これは周囲の時間を限りなく遅くする魔法だ。
止めるのとは違って目が良ければ一応私の動きを追う事はできるだろう。
目で真実見た方が実力の差がわかる。
私は男の手を払いのけ、男の剣をシャラン!と鞘から抜く。
男の顔はゆっくりと本当にゆっくりと驚きと恐怖の表情に変わって行く。
それはそうだろうね、超スピードであっという間に形勢が逆転しているのだから。
私は剣をそのまま、男の喉元に首を落とす事ができるよう刃を当てる。
リリース!すると時は元通り動き出した。
「このまま、お前の首を落としてもいいのだが
生憎父母が待っている返り血を浴びるのも面倒だ。
さっさとお父様から摺った財布を返せ。」
男は「わ!わかった!」と言い財布を渡してくる。
「今後私たちに二度と関わるな二度は無いぞ
次は問答無用で首を斬り落とすからな。
その覚悟があるならチャレンジしても構わん。」
私はそう言うと
「とんでもねぇ!もう手は出しません勘弁してくだせぇ。」
「よし、行っても良いぞ。」
そう言うと男は這う這うの体でそそくさ逃げて行った。
私は両親の元に戻る。
「お父様!お財布を落としていましたよ!きっとぶつかった時でしょう。」
私は父に財布を手渡す。
「何と!これはいかん…儂とした事が…。
アリシアを気づいてくれて助かった。ありがとう。」
「いえいえお父様お気を付けくださいね。」
「あぁ、すまない。気を付ける事にするよ。」
私達は暫く街を散策した。
「お父様お母さま裁縫屋へ参りませんか?
私の私服サイズが小さくてサイズの合った服を
購入したいのです」
「そうね丈があってないわ、行きましょう。」
母は久しぶりに娘の服を選べると喜んでいる。
裁縫屋に入ると2人は余りの店舗の大きさに驚いている。
特に母は服の数の多さに興奮気味だ。
母は私の丈似合う街娘の服を選んできた。
「どれが合うかしら♪」
そう言って私に服を合わせる。
「グリーンも良いけど、赤もいいわね、可愛らしくピンクでもいいかしら♪」
とても嬉しそうだ、親孝行ができて私も嬉しい。
その後10着ほど服を合わせられた結果、最初のピンクのワンピースを選んでくれた。
「どうかしら?似合うと思うけど、あなたはどう思う?」
「はい、とてもかわいいと思います。」
そう言うとそのワンピースだけを残し後は元に戻してきた。
これまで選ぶのに2時間ほどかかった。
父はというと、椅子に座ってじっと待っていた。
「おとうさん、選び終わりましたよ会計に行きましょう。」
母は父を呼ぶ。
「どっこいしょ。よし行こうか。」
父はそう言うと皆で会計へ向かった。
「銀貨10枚になります店員さんは言う。」
私はバックパックからお金を取り出そうとすると
父が素早く銀貨10枚をカウンターに出した。
「いけません!父上、お代は私が出します!」
そう言うと
「服ぐらい買わせておくれ。これが親の楽しみだ。
頼むから儂等に買わせておくれ。」
それを言われると、無理に払うわけにもいかない。
「分かりました、お父様、ではお母様の服を今から私が選びます
そちらは私が払います、親孝行です良いですね?」
父は仕方ないなぁという顔をし
「そうか、なら母さんに買ってあげてくれ。」
父のお墨付きをもらった。
「さーてどれにしようかなー?あまり派手な色にすると
村で浮いてしまう可能性がるわね…」
薄いグリーンのワンピースなら馴染むんじゃないかな
私は薄いグリーンのリネンのワンピースを選んだ。
「母上これなんか、いかがですか?」
母にサイズを合わせてみる
「派手過ぎず、普段着れそうね♪」
気に入ってくれたみたいだ
実はこの段階では母に内緒だけれど
上質なリネンで普通のリネンより滑らかで柔らかく、耐久性も高い
細やかな刺繍や織り模様も施されている裏地付きで着心地が良く
手縫いや職人仕立て価格は銀貨800枚
「それでは父上母上少しお待ちくださいね、カウンターで購入してきます。」
急いでカウンターへ行くと私は金貨を一枚だしお釣りの銀貨200枚を受け取った。
包装してもらい父母の元へ戻る。
「これはお母様への感謝の気持ちです、ありがとうございます。」
包みを渡すと母は嬉しそうに包みを抱きしめて
「ありがとうアリシア。」
と感慨深そうに呟いた。私はそれを嬉しそうに眺めた。
「さぁそれでは父上の番ですね。」
「儂は服はいい。母さんだけで十分だアリシア。」
「先ほども言いましたが、両親に親孝行をさせてください。
これを断られると私は悲しいです。
父上はお酒を嗜んでおられましたね
酒屋へ行きましょうか。」
「うーん、そうだな。アリシアの厚意を台無しにするのも申し訳ないか。
それでは買ってもらうとしよう。」
父の許可が出たので、そのまま酒屋へ向かう。
「私はお酒の知識がありません、父上が飲みたいものを選んで下さいね。」
「そうだなアリシアの言葉に甘えるとしよう。」
父上は酒屋で一本の酒を選び手渡してきた。
「それでは買って参りますね。」
カウンターで店主に値段を聞く。
「これは銀貨一枚だね。」
やっぱりね、絶対父は遠慮してくると思ってた。
父に聞こえないよう店員に耳打ちする。
「この種類のお酒でグレードの高い物はありますか?」
奥から一本のお酒を持ってくる。
「これはビンテージ物金貨一枚になるけど、買えるのかい?」
私は黙って金貨一枚をカウンターに置いた。
「お嬢ちゃん身なりの割にお金持ちだね!おっと失礼だったかな。
お父さんも喜ばれると思うよ。」
「お気になさらず、それでは絶対に割れないように、且つ質素な梱包をお願いします。
豪華だと渡した瞬間にばれてしまって返品なんてこともあるかもしれません。」
「なるほどサプラーイズってやつね。OK!質素に、でもしっかり割れないように梱包するから
少し待ってね。」そう言うと店主は梱包を始めた。
「はいお待たせ!お嬢ちゃんは親孝行だね、また御贔屓に!」
「ありがとうございました。」
私は父と母の元へ戻り、父に梱包されたお酒を手渡した。
「これはお父様への感謝の気持ちです、ありがとうございます。」
「ありがとうアリシア、一年で随分立派になったな。」
父の目が潤んでいる。
「やめてくださいお父様、涙はもっと大事な時の為に取っておいてくださいね。」
私がそう言うと
「あぁ…そうだな…まったくだ。」といって父は笑った。
その後家族で王都の高級レストランで食事をした。
父母は美味しい料理に舌鼓を打っていた。
会計となり計銀貨500枚と告げられると
父上と母上はおろおろしていた
私が金貨を一枚置くと100銀貨玉5枚を受け取った。
「さてお父様お母さま王都は堪能できましたか?」
「あぁ、いい思い出になったよ。」
「夢のような時間でしたわ。」
「それは何よりです。親孝行ができて私も嬉しいです♪」
三人はそれぞれ笑顔で言葉を交わした
「それではお父様お母さま、私の腕に掴まってください。」
父と母は私の腕に掴まる。
「リーブ!」巻物を持ち唱えると三人はヴァルデン村の入り口にいた。
三人並んで家路についた。