復讐
俺は今長い列を歩いている。いや浮いているといった方がいいだろうか?
並んでいるのは魂100程度
俺は現実世界で眠剤の大量摂取し世界を去った
目が覚めたら、魂となって気が付けば列に並んでいた。
先の方には、大きな男が椅子に座り、小柄の男は魂が来ると順々に説明をしているようだった。
死後の世界はあるんやなーと思っていると、その世界の説明員らしき男が話しかけてきた。
説明員たちは、ざっと10名ぐらい俺の前後皆に話しかけている。
「君は現在肉体から離れ幽体となっている。つまり死んでいる。これは理解できるかな?」
説明員らしき男は聞いた。
「はい、俺は確かに自殺したので死にましたからね。」俺は答える。
「そうここは自ら命を絶った者が裁かれる、霊界検問所だ。」
案内員は言う。
俺は臨死体験や霊界は信じていた。
世間ではスピリチュアルだの都市伝説だの言われようだったが
俺は様々な見地から存在すると確信していたので特段驚きはしなかった。
どうやら前方の小柄な男は、それぞれの人生の記録を査定し
行き先を決めているというか選定していると話してくれた。
「ここは生前自殺という禁忌を犯した者が裁かれる領域。
寿命を全うした者、病気で亡くなった者不慮の事故で亡くなった者は
暫く魂のレベルによって、飽きるまで滞在が許される
が、君は自死を選んだので、それは許されない。
他人を殺すのも殺人だが自分を殺すのも、また殺人なのだ。
ちなみに逃げだしてもいいが結果は変わらない。」案内員は言った。
360度見える限り地平線だ5億年ボタンみたいな世界なのだろう。
まぁ仕方ない。俺は生前から自殺は禁忌で永遠の苦しみに落とされる
という事を認知していた。致し方あるまい。
「理解できたかね?」「はい。」そう言うと後ろの方の次の魂へ説明に行った。
意外とスムーズに先頭に達し俺の番となった。
小柄な男は言う。
「君は結構特殊な事情があるね。ADHDとして生まれ、親からは虐待を受け
学校社会では虐められ、どこにもなじめず会社でも虐められ、精神疾患を患い。
絶望の果てに自らを手にかけてた。と。
大した理由もなく自殺するものは問答無用で魂レベル最下層の
果てなき苦痛が待っている場所へ落とされるが、君の場合は情状酌量の余地がある。
ここの崖から落ちてもらうが、君は恐らくそれらとは違う結果が待っているだろう。
さぁ崖際に立ちなさい。」
俺は言われるまま崖際に立った。
ドン!
と背中を押されると
永遠と感じる時間落下を続けた。
その内俺は気を失った。
ハッ!俺は気が付くと森の中で周囲に果実が散らばっている。
何だここは?俺はどうしたんだ?
俺は体を見てみる。
どうなったんだ?取り合えず俺は体を確認する。
魂レベル最下層へ落ちたなら肉体はないはずだ。
だが肉体を感じる。体を触ると手ごたえがある。
これは異世界転移というやつか?
起き上がると視点が低い。子供か?
足の方を見ると俺はスカートをはいていた。
まてまて、俺は女の子になったのか?
大事な部分を確認してみる。ない!
だが一体どういうことだ?
自我は完全に俺の支配下だが
脳内にこの子の記憶が残っていることに気づく。
俺は自由にその子の記憶にアクセスできる。
この子はいじめにより殺されたらしい。周囲に散らばってる果実は毒の果実だった。
村内の女子2人組に無理やり毒の果物を食べさせられたのだ。
犯人の顔もはっきりわかる。
その子が死に魂が体から離れたところに俺の魂が入ったという事か?
よくわからないがそんな風に現実を受け止めるしかない。
俺も前世でいじめられたことを思い出した。
この子…さぞや無念だったろう…
前世の俺も、なすすべなく虐められていたが
今の俺には生前の知識もあるし人生の経験というものを積んでいる
この子の名前はアリシアというのか…肉体をくれたよしみだ。俺が復讐をしてやる。
そう心に誓った。村まで数十分で戻れる距離だった。
しかしスカートというのはこんなにスースーするものなのか
生前履いたこともないので、とても変な気分だ。
村の入り口には二人の女の子が談笑していた。
嫌な記憶として刻まれている顔と名前。間違いない。
人をいじめ殺しておいて談笑とかなんと太々しいやつらだ。
「セリーナとブリジット何を話しているの?」
俺が聞くと2人は固まった
「あ…あんた…。」二人とも恐怖の表情だ
それはそうだ、自分たちが殺したはずの少女が話しかけてきているのだから。
「今日はいい天気ね、明日も晴れるといいわね♪」笑顔で俺は言う。
俺が乗り移った少女は寡黙で気弱このような挨拶などしないと記憶に残っている。
身近な人間が突如として人格が変わると得てして人は恐怖を感じるものだ
殺したはずの少女が今まで自分からしてこなかった挨拶をしてきている
それに対する恐怖は、なかなかのものだろう。
2人はそそくさとその場を逃げ出した。
先ずは少しビビらす。この程度でいいだろう。あまり距離を取られても困る。
こいつは始末しておかなければならないと思わせれば復讐の機会はいくらでもくる。
この子は村長の娘だった。
家に帰ると父親は食卓に座り母親は食事の支度をしていた。
「アリシアおかえり。そろそろ食事の時間だ、席に着きなさい。」
父親エルマーは言う。
「はいお父様手を洗ってからに致します。」
この子は小さい女の子にもかかわらず、ちゃんと敬語の使える良い子のようだ。
記憶にバッチリ残っている。
「お母さま、少し手洗いをしてもよいでしょうか?」台所の端から声をかける
「ちゃんと汚れを落とすのよ。」
母親メアリーは言う。
三人はテーブルに着くと、食事をとれることへの感謝を祈り
食事をした。質素ながらとても美味しい食事だった。
「ご馳走様でした。」俺は手を合わせると洗い場へ食器を持って行った。
俺は本来ものぐさでめんどくさがりだが、違和感を与えないように
細心の注意を払った。
「なぁアリシアよ、最近この周辺の村で子供をさらう事件が頻発している。
お前もくれぐれも気を付けるんだぞ。」
父親エルマーは言った。
「はいお父様、重々気を付けたいと思います。」
と俺は言ったが、俺はこれしかないと心の中でほくそ笑んだ。
アリシアの部屋に入ると、可愛らしい人形やら
可愛らしい家具が配置されていた。
実は俺、何を隠そう可愛いものが大好きなのだ。
生前部屋のカレンダーもサンレオのシナムロールだ。
俺はかわいいに囲まれ、とても心地よい眠りについた。
翌朝目が覚める。
俺は記憶をできるだけ探った。
見たことも聞いたことも体験したこともない知らない妙な記憶がある。
クロノコントロールというスキルが俺にはあるらしい。
前世の人生マイナス分を補うプラス配慮なのだろうか?
効果は周囲の時間を遅くすることで早く動けたり、止めることによって
周りからしたら一瞬にしてテレポートしたよう見みえる能力のようだ。
「クロノコントロール、ディレイ!」遅くする時はこれ
「クロノコントロール、スタティック!」静止の時はこれらしい
「リリース!」これで解除らしい
「アリシアーそろそろ朝ごはんよー下りてらっしゃい!」母のメアリーだ。
「はい!ただいま!」急いで用意をして食卓に着き朝食をとる。
アリシアは記憶によると半引き籠りで家で殆どを過ごすらしい。
でも俺は作戦の為に、暫く外を徘徊することにしていた。
「父上、薬草の研究をしたいので護身用に短剣をお借りできますか?」
俺はそう言うと。
「くれぐれも危険のないようにな。」とエルマーは家宝の短剣を貸してくれた。
俺は敢えて森や街道を一人でウロウロした。
目的は簡単。人さらいを待ち伏せするのだ。
一週間もすると、森の中、見事に数人の人攫いと遭遇。
「お誂え向きの獲物だな!お嬢ちゃん痛い目にあいたくなかったら静かにしな!」
リーダーっぽいのが言う。
「取引があります。」俺は言った。
「取引だってよw笑わせるぜ!」お前は俺達に蹂躙されるだけの存在だ。
数人とも下卑た笑いをする。
「そうですか。クロノコントロール、スタティック!」俺は唱えた。
時間は止まっているので悠々リーダーの首筋にナイフを当て。
「リリース!」そう言うと時間は動き出す。
男達の笑いが止む。
「私をそこら辺のガキだと思わないでくださいね。暴れると一気に行きますよ」
リーダーの首筋にナイフの刃を押し立て、ツツーと血が流れる。
「な!なんだこれ!ヒィィ!分かった!分かった!取引というのを聞こう!」
流石リーダー現実を受け入れるのが早いな。
「貴方たちにとっても悪くない取引です。
後日私は少女を2人連れてきます。
私はその二人に恨みがある故
あなた方の好きにしてくださって結構です。
可愛がるもよし。売り飛ばすもよし。如何でしょう?」
俺は言った。
「お…お安い御用だ!任せてくれ!」
リーダーがそう言ったので、ナイフを首から離した。
すると他の男が妙な動きを見せた。私を狙っているな。
「そうですか。クロノコントロール、スタティック!」
案の定ナイフを後ろ手に私に歩み寄っていた。
私はその男の両の頸動脈にナイフを突き立て引き抜いた。
「リリース!」私が唱えると男の頸動脈からは勢いよく血が噴出し
「ウワアアアアアアアアァ!!!!!」その男は叫びながら
暫くして息絶えた。数人の人攫いはその光景に戦慄し固まっていた。
「この男は後ろ手にナイフを構え私に危害を加えようとしました。
私に危害を加えなければ、あなた方はノーリスクで美味しい思いをできる。
そういうディールです。お判りいただけましたか?」
私が言うとリーダーの男は
「わ…わかった、こいつが死んだのは、こいつの落ち度だ。
お嬢ちゃんとの取引承ったぜ日時はいつにする?」
「そうですね明日にでも連れてきたいと思いますが
2人にも事情があるかもしれませんので、午前11
時までに、来なければ翌日にしたいと思います。
翌日居なければその翌日。時間帯は同じ宜しいでしょうか?」
「了解した。」そう言って男たちは森の中へ消えていった。
俺は近くの川で返り血が付いた服を洗って乾かした。
服が乾いた後、家に戻った。そして翌朝が来る。
俺は外に出て村を見回すと、セリーナとブリジットが何かを話していた。
「ごきげんようセリーナさんとブリジットさん、お暇でしたら
森に行きませんか?」
セリーナとブリジットは顔を見合わせる。
「いいわね行きましょう。」二人は返事をした。
悪い顔してんなぁ。企みが顔に出ているぞ。
今度は確実に仕留める二人ともそんな表情だ。わかりやすいなぁ。
自分たちを待ち受ける運命も知らずに暢気なものだ。
森に着くと2人は例の果実を収穫し再び私に食べるよう強要してくる。
ジャスト11時そこに現れたのが彼らだ。
男たちは2人に飛び掛かりあっという間に
2人をす巻きに猿ぐつわをした。
2人は「ヴー!ヴー!」猿ぐつわで喚こうとしている
何とも愉快な光景だ。
「貴方たちは今から死ぬより辛い思いをすることになるでしょう。
でも自業自得だから仕方がないですね♪」俺は言った。
初めは抵抗していたが、だんだん大人しくなる。
「ありがとう嬢ちゃんよ!」リーダーは口にした。
「その代わり私の村にはもう手出ししないでくださいね。
もし再び狙うようなことがあれば…どうなるかはおわかりですよね?」俺がそう言うと。
「おっかねぇ!仕事は他所でするぜ!ここにはもう近寄らねぇ
命あっての物種だからな!」
そう言うと男たちは2人を連れ森の奥へと消えていった。
復讐完了だ。これで俺の元の体の持ち主アリシアちゃんは溜飲が下がっただろうか。
俺には知る由もない。
そんな事を考えながら村へ向かった。
入り口手前から俺は走り出した。汗をかくためだ。
家に着くと息せき切り父エルマーに言った。
「大変です!セリーナさんとブリジットさんが人攫いに!
私は短剣での威嚇しつつ無我夢中で逃げて助かりました…」
まぁこんなもんでいいだろう。
アリシアの父エルマーは急いでセリーナ宅ブリジット宅に報告をし
捜索隊を村人で組織した。
数日探し回ったが、発見はできなかった。
当たり前だろうな。
セリーナ宅ブリジット宅を除き村は再び通常の営みへと戻っていった。