9.お茶会の始まり
さて! ついにお茶会である!!
東屋のテーブルには白いテーブルクロスが引かれており、中央にはバラに似た綺麗なピンク色の花が生けてあった。
私たちがリリアーナの部屋に着いた時、リリアーナはちょうど寝起きで、ロシュカに会えて本当に嬉しそうにしていたが、それと同時に私に寝起きの姿を見られたのが恥ずかしかったらしく、すぐに布団の中へ隠れてしまった。小さくても立派なレディなのだ。
リリアーナはロシュカ達に身だしなみを整えてもらってから来るということだったので、私は先に1人でお茶会の会場である東屋へやって来た。
私に気づいたメイド達が作業の手を止めて、会釈をしてくれる。彼女達に話を聞くと、どうやらベラは母を迎えに行ったらしい。まあ、ベラは元々母の専属侍女だものね。
ちなみに私にはまだ専属侍女はいない。侍女は相性もあるため、もう少し成長してから世話をしてくれているメイドの中から指名するか、優秀なものを最初から侍女として雇うらしい。
けど、ベラが桁外れに優秀なおかげでほぼ1人で私の世話までこなしてしまうし、私も人生2周目のおかげで同年齢の子より圧倒的に手がかからない。
結果、侍女に指名したいほど親密なメイドがいないというのが現状だ。……一応言っておくが、別に私がコミュ障ぼっちなわけではない。
本来ならリリアーナもまだ専属侍女が付く歳ではないが、今回は事情が特殊なためロシュカがリリアーナの専属侍女となっている。
「あら、早いのねエルーシャ。今日はお招きありがとう」
先に席に座り1人悶々と考えていると、母のエレナがしずしずと庭園の花を眺めながら歩いてきた。後ろに付く侍女長のベラは、母に日差しが当たらないよう日傘を持ちながら母に付いている。
「ようこそいらっしゃいました、お母様。こちらのお席へどうぞ」
私は席から立ち上がり礼をした後、庭園の花が一番綺麗に見える上座の席へ母を案内する。ここら辺のマナーは、今日のお茶会のために礼儀作法の先生と復習したばかりだからバッチリだ。
「おそくなって ごめんなしゃい。エレナしゃま、おねえしゃま」
母が席に着いた頃、ポテポテ走りながら、リリアーナも東屋のある庭園へとやってきた。
「時間通りだから、急がなくて大丈夫よ。そんなに走ったら転んでしまうわ」
「リリアーナ! ゆっくり、ゆっくりね!!」
ちいさな身体で一生懸命走る姿は可愛らしいけど、ふわふわした裾の長いドレスを着ているから、転んでしまいそうでヒヤヒヤする。
リリアーナの後ろからは、メイドのシルキーと侍女のロシュカが、リリアーナが転ばないよう気を配りながら付いてきていた。
って、ロシュカ結局休んでないじゃん!!!
「ほんじつは おまねきいただき ありがとうございます おねえしゃま」
「こちらこそ、ようこそお越し下さいましたリリアーナ様。料理長と侍女達とともに、心を込めて用意させていただきました。リリアーナ様にとって楽しい会になったら幸いですわ」
リリアーナと私が形式的な挨拶を交わすと、ロシュカは私とベラの物言いたげな視線をサラリと流しながら、リリアーナを席へと誘導する。どうやら本気で休むつもりはなさそうだ。
ひとまずロシュカのことは置いといて、全員が席に着いたのを確認した私は、後ろで控えているメイド達に合図を出す。
「今日はリリアーナを招いての初めてのお茶会ですから、いつもとは少し趣向を変えたハーブティーを用意してみました」
「まぁ……」
「わあぁ!! キラキラパチパチしていて、すごくきれいです……」
メイドが私達それぞれの前に、見た目も鮮やかなアイスフルーツティーソーダと、お茶請けの甘さ控えめクッキーを並べる。
「ええ、本当に…宝石を沈めたみたいで美しいわね」
不作法だと聞いていたため、母の反応に内心ビクついていた私は、想像以上の好感触にテーブルの下で小さく拳を握る。
「これは、おねえしゃまが かんがえたのですか!?」
「あ、いやこれは」
「ええ、エルーシャ様がリリアーナ様のためを思って考えて下さったのですよ」
「はい。小さなお子様でも楽しめるハーブティーをと提案して下さいました」
正直に料理長と侍女2人の渾身の作だと伝えようとしたら、その当人であるロシュカとベラに止められた。
確かに転生アイディア無双による「おねえしゃま しゅごい!」は狙っていたが、他人の功績を掠め取るほど卑しくはない。
物言いたげに2人を見つめていると、事情を察した母の指導が入る。
「エルーシャこういう場合、使用人は主人を立てるものよ。それに、今回の主催者はあなただし、使用人の実績はあなたの実績として、ここは素直にそうだと答えるべき場面ね。その上でさらに使用人を褒めたいのなら、もっと直接的ではない言い方を考えないと」
「うっ……」
母がそう言うってことは、それが貴族のやり方なのだろう。何とも遠回しで好きになれず面倒くさいのだが、その考えも思いっきり顔に出ていたらしく、母から「貴族とはそういうものよ」という追加のお小言をもらってしまった。
「実際、エルーシャ様がリリアーナ様のためを思って作ってくださったことは本当ですよ」
「ええ、私たちはただ事実を述べただけです」
「おねえしゃま、わたしたちのために ありがとうございます」
「いえ、それよりも早く召し上がって下さい。冷たい内に飲むのが一番美味しいですから」
侍女2人から追加のフォローが入り、リリアーナからもお礼を言われてしまったため、私はこの件について反論することを諦め、とにかく会を前に進めることにした。
「このかおり……」
ハーブティーのグラスを持ったリリアーナの動きがピタリと止まる。
「あら? これはもしかして、リアノリア様のハーブティー? 以前お屋敷で頂いたものも美味しかったけど、それより苦味と渋みが抑えられていて飲みやすいわね」
リアノリア様のハーブティーは、流石王女様が愛飲するだけあって元から持っているポテンシャルが高い。今回はその高いポテンシャルを活かしたまま子どもでも飲みやすいように改良してもらったので、元のハーブティーの味は変わらないのだ。
母から、暑い日でも飲みやすくて良いわねと好評価をもらっていると──
「リリアーナ様!?」
シルキーのギョッとした声が庭園に響いた。
「……この あじ……おかあしゃまの……」
リリアーナはハーブティーを一口飲んだ後、固まってしまっていた。その大きな青い瞳からは、透明な美しい雫がポロポロとこぼれ落ちて……
って、泣いてるうううぅぅ!!!!???
次回更新:11月11日(月)