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8.白熱!新茶開発会議

 私の前世、現代日本では弛みない企業努力により、日夜様々な製品が開発されていた。

 それにはもちろん、紅茶やハーブティーも含まれており、ミルクティーの中にタピオカを入れたタピオカミルクティーなどがその代表的なものだろう。


 私がベラ達に提案したのは、その中の一ついわゆるフルーツティーと言われるものだ。その名の通り、紅茶の中にカットフルーツを入れたお茶で、見た目も華やかなため特に女性に人気だ。


 この世界の礼儀作法的には思いっきりアウトだが、そこは5歳児主催のお気軽お身内お茶会ということで許してもらおう。


 そして、この提案をした私には打算もあった。

 異世界転生の定番中の定番と言えば何か!?


 そう!! 前世の記憶によるアイディア無双である!!!!


 この世界にない斬新な発想を持ち込むことにより、周囲から一目置かれ、他の者達とは何かが違うぞと思わせるアレだ!!

 せっかく異世界に来たのだからアレをやってリリたんに、


「おねえしゃま しゅごい!」


 と褒めてもらいたいのだ!!


 しかし、私は見誤っていた。

 料理に熱い料理長と、忠義に厚い侍女2人が集まるとどうなるのかを──。


「お茶本来の味を楽しむのが作法だって言うなら、果汁の配分を極限まで追求して苦味と渋みのみを取り除き、更にお茶の味を際立たせてしまえばいいのでは?」


「リリアーナ様は甘味の強い果物がお好みです。もう少し、果物の量を増やして……いっそ、ドライフルーツを入れてみるのはどうでしょう?」


「奥様は清涼感のある飲み物がお好きですし、元の香りを生かすためにも、ミルトの葉を添えるのも良いかもしれませんね」


「今日は外も暖かいですし、アイスティーのほうが飲みやすいでしょうか」


「なるほど、それならいっそ炭酸水で割るのはいかがでしょう? 見た目もより華やかになるかと」


「ハーブティーが甘めですから、一緒にお出しするお菓子は甘さが控えめなものが良いですね……旦那様用に作っておいたチーズと黒コショウのクッキーをお出ししましょうか」


 うん。私が何か言うまでもなく次々と新しいアイディアが出されていく。

 まあ、調理と給事のプロフェッショナルだものね。そりゃあ、ぽっと出の転生者なんかより着眼点も気遣いも洗練されていて当然だ。


 私の目の前にはあっという間に、試作のフルーツティーと甘さ控えめのクッキーが置かれた。


 透明なグラスの底には色とりどりのフルーツが見た目も鮮やかに敷き詰められ、ハーブの自然を思わせる薄い黄緑色のお茶は、上に炭酸水を注ぐことにより見事なグラデーションを作り出している。グラスの上にはミルトの葉と薄紫色の小さな食用の花が添えられ見た目もなんとも華やかで美しい。


 一緒に置かれたクッキーは、元々は父のおつまみ用に作られたものであるため、シンプルで素朴な見た目をしているが、それがさらに主役であるハーブティーの存在感を引き立てている。


 私は、3人の緊張混じりの視線を感じながら、炭酸水で割られたアイスフルーツティーを一口飲む。


「……」


「いかがですか? お嬢様」


「期間限定 初夏の香り華やぐフルーツティーソーダって感じかな」


「期間限定……?」


「ええっと……つまり?」


 私はニッコリと笑いながら答えた。


「売り物にしたいくらい美味しいってこと!」


 3人の総力を結集して作られたフルーツティーは、お茶本来の落ち着く香りと味を生かしながらも、リリアーナの苦手な苦味と渋みのみを見事に抑え、フルーツの甘さが加わり、味も見た目も、お店の新商品として出しても遜色ないほどの逸品に仕上げられていた。


「これなら、リリアーナにもお母様にも楽しんでもらえると思う。みんな、本当にありがとう」


 私が心からのお礼を述べると、リリアーナの侍女であるロシュカが丁寧に頭を下げてきた。


「いいえ、それはこちらのセリフですエルーシャ様。リリアーナ様のために本当にありがとうございます」


「ハーブティーに色々加えて、さらにお茶を味を追求するなんて中々ありませんからね! いやー、楽しかった! ありがとうございますお嬢様!!」


「ふふ。思った以上に盛り上がってしまいましたね。さて、お茶会まであまり時間もありませんし、私はテーブルのセットをして参ります。ロシュカもありがとうございました。後は任せて休んで下さい」


「あ! そうだよ。こっちに着いたばかりだっていうのに、巻き込んじゃってごめんなさい」


 ロシュカはこれからリリアーナの部屋に戻り様子を見にいくと言うので、途中まで一緒に着いていくことにした。


「本当に気にしないで下さいお嬢様。極寒の地であるフロストで鍛えられた女はこれくらいじゃへこたれませんから」


「あ、やっぱりロシュカはフロスト出身なんだね」


「はい。10代の頃にリアノリア様と一緒にこちらの国へと移り住みましたが、厳しくも美しいあの雄大な自然は、今も心の中に深く残っています」


 そう語るロシュカの瞳は、懐かしさを感じながらもどこか寂しげであった。


「こっちに来てからリリアーナにはもう会った?」


 もう帰れない国のことをあれこれ聞くのも悪かろうと、私は話題を変える。


「はい、こちらに着いてすぐ顔を見に伺いましたが、ちょうどお休みになられてました」


「あれ? リリアーナ寝ちゃってたの?」


「側についていたメイドの話では、昨夜はあまりお休みになれなかったようで……」


 そっか、たしかに3歳でいきなり母親の元から離されて、知らない人ばかりの屋敷に連れて来られたら不安で眠れないよね。


「しかし、図書室でエルーシャ様に遊んで頂いてからは緊張も解けたようで、お部屋に戻ってすぐに、ぐっすりとお休みになったと話していました」


 ロシュカがその場で立ち止まり、もう一度見事なカーテシーを披露する。


「ですから、エルーシャ様。リリアーナ様に優しくしてくださり、本当にありがとうございます」


「ちょ、ちょっと、さっきも言ってもらったしもう良いよ! 顔を上げて」


 私は慌てて、ロシュカに顔を上げてもらう。というか、殆ど私がやりたくてやっているのだ。そんなに何度もお礼を言われると気恥ずかしくなってくる。


「お茶会、リリアーナに楽しんでもらえるといいね!」


「はい、私たちも全力でサポートいたします」


「いや、ロシュカはちゃんと休んで!!」


 私たちは互いに笑い合ってから、リリアーナを迎えにいくために足取りも軽く部屋へと向かったのだった。

次回更新:11月8日(金)7:00

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