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5.情報整理

 図書室へと戻った私は、記憶を思い出す手がかりを探すため『聖女伝』と書かれた書物を再び手に取る。


 ちなみにこの世界には、異世界転生モノのデフォルト特典とも言える言語チートは存在しない。転生前の女神様による事前説明すらなかった!!


「そういえば、生まれたばかりの時は、周りが何を言っているのか全く分からないし、首はすわっていないし、目もほとんど見えない上に、やたら眠いしで本当に大変だったなあ……」


 ある程度身振り手振りで意思疎通が可能になってからは、とにかく絵本を読んでもらうことをせがんで、人生2周目のアドバンテージと幼少期特有の吸収の早さで必死にこの国の言葉と文字を覚え、ようやく日常生活に支障がない程度の読み書きが出来る様になったのだ。


 本はこの世界ではそこそこ値の張る貴重品だが、幸い父も母も貴族の嗜み以上に知識を愛する読書家であったため、この家には絵本や児童書、貴族の間で話題の恋愛物語から難しい専門書まで何でも揃っている。


 私は窓辺にある書面台付き読書机に座り、聖女伝を広げた。


『聖女伝──聖女の主な使命はマナの浄化だ。既知の通り、この世界のあらゆるモノは女神より与えられたマナで構成されている。女神の神聖に満ちたマナは、あらゆるものを助けるエネルギーとなるが、使用するとその神聖は失われる。


 以前はその豊富なマナにより、文明が発達し、様々な魔導装置が作られ、人々は今よりも豊かに暮らしていた。しかし、近年マナの数は年々減少。その結果、世界の均衡が乱れ、特にマナ不足が深刻な地方では天災が多発、マナを求めて凶暴化した魔物や魔獣が人々を襲う事件が後を絶たない。


 そして、その減少したマナの数を元に戻す唯一の方法が、聖女によるマナの浄化である。聖女は女神より与えられた祝福により、聖魔法を使用することができる。各地にある神殿に祀られた大精霊と共に、聖魔法を使用した神事を行うことにより、神聖を失ったマナに再び神聖を付与することができるのだ。


 聖女は概ね7歳になる頃から修行を開始し、聖女の神聖が一番高まる17歳の満月の夜には、マナを生み出す世界樹の浄化を行う大神霊祭が開催される。


 女神はおおよそ50年に一度のペースで地上に聖女を遣わし──』


「うーん、あんまり目新しい情報はないなあ……」


 私は行儀が悪いと分かりながらも、小学生がよくやるように椅子の後ろに体重をかけてゆらゆらと身体を揺する。


 記憶の中の小説と設定を照らし合わせてみるが、やはりこれだと言える様な作品は特に思いつかない。


「よし! とりあえず、一旦情報を整理しよう」


 勢いをつけて椅子を戻し、机の下の引き出しに備え付けてある、薄黄色がかった紙と羽ペンとインクを取り出す。万が一誰かに見られても大丈夫なように、メモは日本語で書くことにする。


「まず、元となっている作品を思い出すことだけど、これはもうほぼ無理よね……」


 そもそも、この世界の設定がありきたりすぎるのだ。

 私が今いるガルディアス帝国は、異世界モノでよくある中世ヨーロッパ“風”のなんちゃってご都合主義世界だ。中世ヨーロッパと言いながら衛生設備は現代並みに整っているし、魔法や聖女の存在も異世界モノには定番中の定番だ。


「となるとやっぱり、リリアーナを探っていくのが近道かな。聖女なら主要人物だろうし」


 リリアーナが私の敵か味方か、もしくは私と同じ転生者なのかで選択肢が微妙に変わってくる。


「まず、リリアーナの正体が何にしても、聖女として活躍するリリアーナの負担軽減は絶対必要よね」


 そもそも魔法の解禁が7歳だからと言って、7歳になれば魔法を使っても身体の発達に影響が出ないという訳ではないのだ。

 当然身体は7歳以降も成長し続けるため大量のマナを消費する。しかし、だからといって成人になるまで魔法を使わずにいると、今度は魔法を使用するための魔力回路が退化し魔法が使えなくなってしまうのだ。


 そのためガルディアス帝国では、7歳までは魔法が禁じられ、7歳になると1年間神学校へ通い、魔法の基礎を習うことになっている。ちなみに、ここら辺の魔法の使用基準は国によってまちまちらしい。


「7歳から色んな場所で聖魔法なんて使ってたら、身体に負担がかからないわけないもの。出来ることなら、聖女に頼らずマナを浄化する方法を見つけたいところね」


 まあ、そんな都合の良い方法があるなら教会や国がとっくに見つけているとは思うが、可愛いリリたんの成長に関わることなのだ。簡単に諦めるわけにはいかない。


 次に、リリアーナが転生者かどうかだが、現時点ではリリアーナ自身との関わりが薄いため何とも判断がつかない。


「向こうも転生者なら、正体がバレないように私の前では気を付けているかもだし、そうなると周りから探った方が早いかな」


 具体的には、父や前の屋敷の使用人だろうか。


 リリアーナがこの世界にはない、奇天烈な発想をしていたり、今まで見たことがない不思議な料理を作っていたら大分黒に近いだろう。そして、それが和食なら黒確定と言ってもいい。


「そういえば、リアノリア様のお屋敷から来た使用人っているのかな?」


 いつもリリアーナの近くにいる新人メイド──名前は確か、シルキーだったと思う。彼女は、私の母の実家であるメルソン伯爵家から来たと言っていた。


 でも流石に、誰一人使用人を連れて来ていないとは考えづらい。ここら辺もあとで探ってみよう。


「……最後に、リリアーナが敵もしくは嫌われている可能性だけど」


 現時点では懐いてくれていると思う! というか思いたい!! アレが演技なら何も信じられなくて人間不信になってしまいそうだ。

 リリたんと私は未来永劫ずっと仲良し姉妹で、おばあちゃんになっても一緒にテラスで紅茶を飲んでいたいけど。


「どうしてもあの夢が気になるのよね」


 言ってしまえばただの夢だ。根拠は何もない。

 せめて夢に出て来た廃教会の場所でも分かったら、何か手掛かりになるだろうか?

 いやでも、あるかどうかも分からない廃教会の場所なんてどうやって調べれば……。


 コンコンッ──。


 部屋の中に控えめなノックの音が響き、私は慌ててメモ用紙を引き出しの中にしまう。


「はい、どうぞ〜」


 図書室の扉が開かれると、そこに立っていたのは今朝と同じく申し訳なさそうな顔をした新人メイドのシルキーと、完全無敵で究極に可愛い私の大天使様♡


「しつれいします、おねえしゃま! おべんきょうを けんがくさせてくだしゃい!」

次回更新:11月1日(金)7:00

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