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4.朝食

「ん〜〜、美味しい〜〜!」


 母の部屋に移動した私は、さっそく念願の朝食にありついていた。朝から丁寧に作られた料理の数々が栄養として吸収されることで、回らなかった頭がようやく正常に動き始める。


「お母様は昔からリリアーナのことを知っていたのですか?」


 父と母の間に遺恨はないと知れたため、私は思い切って母にリリアーナのことを聞いてみた。


「リリアーナのことは私も詳しくは知らないの。でも、あの子のお母様のことなら知っているわ」


 昔を思い出しているのか、母の表情が懐かしそうに緩む。


「お母様とも交流がある方なんですか?」


「ええ。学生時代に同じ学園に通っていましたからね」


 最近は会いたくてもお父様に止められていたの。私がいると自分が構ってもらえないから嫌なんですってっと、母は笑うが、娘としては正直反応に困る。


「リリアーナのお母様──リアノリア様は亡国王家最後の生き残りで、親戚筋を頼ってこのガルディアス帝国に身を寄せていたの。でも、我が国とリアノリア様の祖国フロストも決して友好的な関係ではなかったから、それはもう肩身の狭い思いをされていて──」


「って、え!? ちょっと待ってください!! 亡国王家って、つまりリリアーナは亡国のお姫様ってことですか!?」


「血筋的にはそうなるわね」


 何でもないことのように母は言ってのけるが、聖女の上に亡国のお姫様って……。


「設定盛りすぎでしょ……」


 思わず頭を抱え込んでしまった私に、母はそっと自分の分のデザートを私に差し出しながら話しを続ける。


「王家の血筋って言っても、リアノリア様はとても気さくでお優しい方だし、リリアーナに対してもかしこまる必要はないのよ。ただ……」


 母は一度言葉を切り、何かを祈るように両手を組みながら言葉を続けた。


「ただ、姉妹として仲良くしてくれたら嬉しい。もちろん、今すぐにじゃなくてもいいの。でも、リリアーナは7歳になったら聖女として、おそらく教会で暮らすことになると思う。だから、それまでの間だけでも、あの子の姉として振る舞ってあげてくれないかしら?」


「え……。リリアーナ教会に行っちゃうんですか?」


 ショックのあまり私は持っていたスプーンを床に落としてしまった。側にいたメイドが即座に拾い、新しいものと交換してくれる。


「もちろん、そうならないようにお父様は色々手を回しているのよ。……でも、教会側もそう簡単には引かないでしょうね」


 私が思いの外ショックを受けている様子に、母が何とか励まそうとしてくれるが、現実は中々難しいのだろう。誤魔化しは意味がないと悟った母が、今の状況を教えてくれる。


「本来であれば女神様からの神託があっても、聖女が7歳以下の場合は家族にのみ情報が伝えられて、世間には公表されないはずなの」


「それは、7歳までは魔法が使えないからですか?」


「ええ、そうよ」


 この国では、7歳になるまで魔法の使用は禁じられている。それは、魔法の制御が上手くできずに危険だという面もあるが、それ以上に幼少期の魔法の使用は、子供の発育に悪影響を及ぼすかららしい。


 なので、私も今はまだ魔法を使う事はできない。

 実は一度、どうしても魔法が使ってみたくて、隠れてこっそり使ってみたのだが、思ったよりも魔法の制御が難しく普通にバレてめちゃくちゃ怒られた。


 この世界の全てのものはマナから作られており、自身の成長に必要な分のマナは私たちの体内でも作られている。

 幼少期は身体の発達に大量のマナが必要になるため、マナを消費する行動は避け、1日3食しっかりと食べ、食事などからマナを摂取することが国から推奨されているのだ。


 そして、魔法とは簡単に言ってしまえば、自らのマナを精霊へと分け与えて、力を貸してもらう行為だ。


 つまり、大量のマナが必要な幼少期に魔法を使うと、身体の成長に必要な分のマナが不足し、最悪の場合は死に至ることもあるという。


「聖女様は女神様から与えられた力で、聖魔法を使うことができるけど、その魔法の基本的な仕組みは私たちと変わらないの。だから、本当ならリリアーナは7歳までリアノリア様の元で静かにゆっくり過ごすはずだったのよ」


 しかし、今回は教会から聖女が誕生したことが発表され、新聞の号外には姿絵まで載せられてしまった。


「教会内部に情報を漏らした人物がいるってことですか? ……でも、一体なぜ?」


 今発表しても、結局リリアーナは魔法を使うことが出来ない。むしろ大切な聖女を危険に晒す可能性が高まるだけだ。


「お父様は、フロスト派の仕業だと睨んでいるわ。フロスト王国がなくなり立場の弱くなった貴族たちが、フロスト王家の血を引くリリアーナを聖女だと発表することで立場を取り戻そうとしてるって」


「そんなことのために可愛いリリアーナを利用したと……最悪ですね」


 貴族の派閥争いなんてくだらないことに巻き込まれたせいで、あんなに幼い子が母親と離れて暮らさなければならないなんて……。


「そういえば、リアノリア様はこちらには来られないのですか?」


 私は最初、てっきり母に遠慮したのだと思っていたが、話を聞く限り二人の関係は良好なようだ。だったら、リリアーナのお母様も一緒にこちらの屋敷に移ってしまえば問題はないように思うが、母は首を横に振る。


「元々身体があまり丈夫な方ではないの。なのに今回の件をだいぶ気に病んでしまったようで……。馬車での移動は無理だろうってことになったの」


 母が喉を潤すために食後の紅茶を一口飲むが、その顔色は相変わらず晴れない。


「それに、お父様──というか我がロスヴェルト侯爵家は皇帝派閥だから、リリアーナに加えて自分までそちらのお屋敷に行ったら、フロスト派がどんな強硬手段に出るか分からない。リリアーナの安全を第一に考えてくれとリアノリア様がお決めになったことなのよ」


「本当に貴族ってやつは……」


 思わず言葉遣いが悪くなってしまい、ベラに軽くたしなめられる。母はそんな様子を見てクスクスと笑い、その雰囲気を少しだけ明るいものにした。


「だからね、せめてこの屋敷にいる間だけでもリリアーナには楽しく過ごしてもらいたいの。それで、エルーシャにも協力してもらえたらって……もちろん、無理にとは言わないけど」


「分かりました! というか、先ほどリリアーナをお茶会に誘ったところなんです。もし良ければ、お母様もいらっしゃいませんか?」


 母の話の途中だが、私は元気よく返事をする。私の癒しの源であるお母様の頼みで、何よりリリたんに関わることなのだ協力しないわけがない!!


「あら! もうそんなに仲良くなったの? ぜひご一緒させて頂くわ」


 実際のところは、仲良くなったというよりその場の成り行き任せだったのだが、嬉しそうに微笑む母にそれを言うのは野暮ってものだ。


 朝食とデザートを食べ終え元気になった私は、母にお礼を言ってから再び情報収集のために図書室へ戻るのだった。

次回更新:10月30日(水)7:00

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