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31. 赫焉の黒騎士

「使用人の身でありながら、口を挟む無礼をお許し下さい。アレックス・オルセン様、貴方様の名は異国の地の生まれである私でも聞き及んでおります」


 そう言ってロシュカがリュウと名乗る男性に向けて深々とお辞儀をする。


 アレックス・オルセンという名前は私もどこか覚えがあるのだが、はっきりとどこで知ったのかは思い出せない。

 基本的に自分と関わりのないことには興味が薄いのだ。


「おねえしゃまは、どなたか ごぞんじですか?」


「え!? ちょっと待ってね、今思い出すから」


 興味が薄くとも、リリたんに問われれば話は別だ。

 子どもの質問は知的好奇心を伸ばすきっかけになると、図書室で読んだ育児書に書いてあった。


 つまり、リリたんからの問いかけは24時間365日いついかなる時でも最優先事項!! 私の脳内が急速に過去の記憶を漁りだす。


 どこだ? 両親との会話?

 いや違う。私が少なからず名前を覚えていると言うことはおそらく本だ。ということは伝記か何か。


「あ、赫焉(かくえん)の黒騎士!!」


 帝国騎士団最強の男と言われていたが、ある日突然、騎士団と貴族の身分を捨て、主人を持たない黒騎士となりながらも、様々な伝説を残している人だ。

 特徴的な紅色の長髪で優雅に舞うように戦う姿から『赫焉の黒騎士』という、厨二心を刺激するような二つ名で呼ばれている。


「えっと、赫焉の黒騎士って呼ばれている、ものすごく強い人だよ。あの人の事を書いた本が図書室にあるから、あとで読んであげるね」


「はい! ありがとうございます」


 私がリリアーナの問いに無事答えられたことにホッとしていると、ロシュカが強い真っ直ぐな瞳で赫焉の黒騎士こと、リュウの姿を捉えていた。


「貴方様に護衛をお願いできるならこれ以上に心強いことはないでしょう。しかし、普段の護衛をそちらの少年にお任せするというのは納得出来ません。お嬢様方はお二人とも私たちにとって命にも代え難い存在、何かあってからでは遅いのです」


 ロシュカがリリアーナだけでなく私も含めて大切だと言ってくれたことにこっそり感動していると、リュウは、真っ直ぐとロシュカを見つめ返しながら、挑発的に笑う。


「つまりはヒイラギ(こいつ)に、大切なお嬢様を守る実力があるって証明出来れば問題ないわけだよな?」


「……どう証明なさるおつもりで?」


 ロシュカに問われると、リュウは部屋の中をぐるりと見回し、ロシュカと、それからシルキーに目を止める。


「そうだな……アンタと、その隣のオドオドとしたメイドさん。実力を見た限りアンタ達2人が今のお嬢様の護衛代わりってところだろ? だったら、アンタ達2人相手にヒイラギが勝てたらってのはどうだ? 少なくとも今よりは警備体制が強化されると証明出来るはずだ」


 シルキーは、突然の指名にオロオロとしていたが、ロシュカにじっと見つめられると、覚悟を決めたように無言で強く頷く。


「承知いたしました。ただし、そういう事でしたら子どもだろうと一切の手加減は致しません」


「それで構わねえよ。むしろ後から子どもだから実力を出せなかったと言い訳されたくないしな」


 今日はもう遅いから模擬戦は明日行おうと、リュウとロシュカ達がバチバチと火花を飛ばしていると、ヒイラギが置いてけぼりにされたまま勝手に決まっていく自分の話に、改めて抗議の声を上げる。


「師匠! 俺やるなんて言ってない!!」


「受けるかどうかは勝った後決めればいいだろ? それともメイドさんに勝つ自信がないのか?」


「そうじゃねぇけど……」


 言い淀むヒイラギの様子をみて、私はヒイラギに加勢する。まだ8歳の子どもでは、丸め込むようなリュウの言葉に反論したくとも、上手く伝えられないこともあるだろう。


「リュウさん、せっかくのお話ですけど、ヒイラギが納得できない事情があるなら、私からお断りします。ヒイラギに護衛を依頼しなくても、ミアさんを巻き込まない別の方法を考えればいいだけですから」


 いくらヒイラギが強くとも、そもそも子どもを巻き込んでいい話ではない。それも、本人が納得していないなら尚更だ。

 目先に利益に囚われすぎて、大切なことを見落としていたことを猛省する。


「何か別の方法があるのかよ?」


 ヒイラギが訝しげに問いかけてくるが、正直全くのノープランだ。


 あいにく私は、歴史上の偉人たちの戦略や計略といったお役立ち知識は持ち合わせていない。小説によく使われていた有名な戦略などは知っているが、知っていることと、それを実際に使えるかどうかは全くの別問題なのだ。


 しかし、それをそのままヒイラギに伝え不安にさせるわけにもいかない。私は無い頭で必死に考え、一つの案を思いつく。


「そうだ!私とシルキーがリュウさんの弟子になるってのはどう!?」


「は?」


「お嬢様??」


 私の思いつきに、ヒイラギだけでなく、シルキーも他のみんなも「何を言っているんだ?」と言いだけな様子で一斉にこちらを見つめる。


「要は私が自分の身を守れるくらい強くなっちゃえば良いのよ! シルキーだって護身術だけでこれだけ強いから、ちゃんと学べばもっと強くなれるかもだし。それに、リュウさんは私達に借りがあるんでしょう? だったら、直接返してもらうのが一番手っ取り早いじゃない」


 口を開けたまま固まってしまっているヒイラギを無視してリュウに言質を取るよう微笑むと、リュウは観念したように両手を上げながら応える。


「まあ、確かにそうだな。けど、嬢ちゃん、仮に弟子になるにしたってそんなすぐに強くなれる訳じゃないぜ?」


「そ、そうだ! 第一、お前みたいな生粋のお嬢様が修行に耐えられるわけないだろ!?」


「耐えて見せるわよ!! 私はリリアーナのお姉ちゃんだもの!!」


 ようやく正気に戻ったヒイラギに反論されるが、この世にリリアーナと一緒にいられなくなること以上に耐えられない事があるだろうか? いや、ない!!!


 リリたんは私の最推しで、可愛い可愛い何より大切な妹だ。最推しの為という最強の行動原理を得たオタク+愛する妹のためという大義名分を得た今の私なら、例え性根がインドアだろうと、苦手科目が団体競技の運動オンチだろと愛の力で克服出来るはずだ!!


 それに、この世界には魔法だってある。せっかく魔法がある世界にいるのだからカッコよく魔法を使いながら戦う魔法騎士になって、聖女になりたいというリリたんの夢を近くで応援しながら危機を回避するのも良いかもしれない。


「それに、強くなるまでの間の対策だって、教会の方はすぐには思い付かないけど、フロスト派の方なら割と簡単なのよ」


 カッコよく戦いリリたんを助ける自分を妄想して調子付いた私は、得意げに今さっき思いついた作戦を披露する。


「要は私の評判を下げてしまえば良いのよ。例えば私が加護を受けてから、加護を笠に着て横暴な態度で威張り散らしてるって噂を流せば」


「却下」


「教会側には急激な性格の変化を理由に、逆に捕える口実を与えてしまいそうですね〜」


 全て言い終わる前に、父とラウルからバッサリと切り捨てられた。


 父は私を心配してのことだろうからまだ良いとして、ラウルの方は、私の計画の粗をわざわざ指摘するような言い方が本当に腹が立つ。


「そ・れ・に! 本当にどうしようもなくなっても、ラウルに全責任を押し付けてやるから! だから大丈夫!!」


「おやおや、それは怖い」


 全く怖くなさそうにラウルがぼやくが、コイツだけは脅しのためにリリたんの名前を出したり、ミアを囮にしようとしたりと何度も私の逆鱗に触れているのだ。

 それくらいして貰わなければ割に合わない。


 だから安心してと、ヒイラギに笑いかけるが、何故かヒイラギは悔しそうに唇を噛み締めたまま俯いてしまった。


 私が不思議に思い首を傾げていると、父がため息を吐きながら、私を含めた周囲を嗜める。


「そもそも、雇用を最終的に決めるのは私だ。子ども達を危険な目に遭わせずとも大丈夫なよう、他の護衛を見つければいいだけの話だ」


「……いい、やる。あ、いや、やらせて下さい! 雇うかどうかは、俺の実力を見てからで良いんで」


父の言葉にはじかれたように顔を上げたヒイラギは、慌てた様子でそう言葉を続けた。


「へ? いや、全部ラウルに押し付けるから大丈夫だって」


 私がもはや取り繕うこともせず言うが、ヒイラギは顔を合わせることなくスクリと立ち上がり、こちらに背を向ける。


「もう決めたから……。師匠早く帰ろう。明日のために特訓つけて欲しい」


 そう言うとヒイラギは、そのまま足早に部屋を出て行ってしまった。


「はは……、本当すごいな嬢ちゃん! んじゃ、また明日な! ミア帰ろうぜ」


「え!? あ、はい! あの、お菓子とっても美味しかったです。ご馳走様でした」


「待って! 帰るならせめて手土産のクッキーだけでも持っていって」


 ヒイラギと一緒に帰ろうとする2人を、母とベラが慌てて追いかけていく。


 私は思考が追いつかないまま、ティーカップのみが残された目の前の席を見つめていた。


「おきゃくしゃま、かえっちゃいましたね」


 一緒に遊べるかも知れないと期待していたリリたんが、しょんぼりとした声で小さく告げるが、いや本当にさ……




 ど う し て こ う な っ た ? ?



「流石はエルーシャ様。聡明とのお噂は伺っていましたが、本当に人を焚きつけるのがお上手ですね」


「……で、何でアンタはまだここに居るのよ?」


 猫という世界一わがままな振る舞いが許される身体を借りていながら、ここまでに癇に障るのは、もはや才能だと思う。


「いえ、エルーシャ様の仰る通り、己の慢心が招いた結果は、己自身で責任を果たすべきだと思いまして──」


 そこで言葉を切るとラウルは、私とそして、私の膝の上に座ったままのリリアーナの顔を見つめてから言葉を続けた。


「エルーシャ様、リリアーナ様。私の弟子になる気はございませんか?」


「……は????」

次回更新:1月15日(水)7:00


※新年早々コロナ罹患してストックが危ういので、1回分更新お休みします。すみません!!

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