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28.秘密基地

 私たちが秘密基地を作るため意気揚々と図書室へ入ると、そこにはお母様とシルフがいた。


「あら、お勉強は終わったのね。お疲れ様」


「お母様? なぜここに??」


「ふふ、だって隠れ家を作るのでしょう? だから、入れなくなってしまう前にコレを設置しようと思って」


 そう言って母が見せてきたのは、改良された糸電話──いや、金属で作られたメガホン型の通話器と細長いチューブで繋がれたそれは電話や通信機と言った方が適切なものに進化していた。


「まずはこことリビングだけお試しでね。魔力を通せば相手とお話しできるわ!」


「リビングって、もうそんなに長距離の会話が可能なんですか!?」


『ま、オレが手を貸してるから、これくらいトーゼンだな!』


 シルフが得意気に胸を張るが、ちょっと2人が凄すぎて言葉にならない。

 母はそのまま通話器の片方を階段下のスペースにある小さな本棚の上に置き、何かあったら呼んでねとだけ言って出て行った。


 私は、まずは目隠し用の大きな薄い布を取り付けて、下に敷くラグを自分達で選ぶ。


「これ! この、ふわふわのがいいです!!」


 リリアーナの選んだラグは、横は空間ピッタリだったが、縦は少し長めだったため、自分達で端を折り返して長さを調整する。


 ロシュカ達はずっと手を出したそうにしていたが、自分達で出来ることは自分達の力でやってこその秘密基地だ。


 最初から設置されている本棚も、試しに持ち上げてみたら私1人でもギリギリいけそうだったため、私が本棚を持ち上げている隙にリリアーナにラグを敷いてもらう。


 ラグを敷き終わり、それぞれの部屋からクッションやぬいぐるみを持ち寄るとかなり秘密基地らしくなった。


「さて、じゃあおだんごをピカピカにしようか!」


「はい!!」


 泥団子ひとつ磨くのにえらく遠回りをした気がするが、リリたんの笑顔の為ならどうってことない。


 私は、泥団子の入った籠を真ん中に置いてから、目の細かい布をリリアーナに渡し、優しく全体を布で磨いていくよう教える。


 しばらく2人で黙々と作業を続け、私がどう話を切り出そうか悩んでいると、リリアーナが唐突にぽつりと話し出した。


「おねえしゃまは、そうせいの めがみしゃま みたいです」


「創世の女神って、この世界を作った教会の女神様のこと?」


「はい。なんでも しっていて、どんなものでも つくりだしてしまう めがみしゃま です」


「それは流石に買い被りすぎだよ」


 何でもは知らないし、私が最近作ったものと言えば初期の糸電話と、ピカピカの泥団子と、足の生えた鶴ぐらいのものだ。なんとも安い女神様である。


「わたし、ほんとうは せいじょに えらばれたとき、ちょっとだけ うれしかったんです」


「え!?」


「いままでの わたしは、なんの やくにもたたない“ひめさま”でしたから。でも、すぐに こわくなりました。わたしなんかが、ほんとうに せいじょさまに なれるのかなって」


 泥団子を磨くリリアーナの手は、僅かに震えていた。


 リリアーナは贔屓目なしに見ても同年齢の子より圧倒的に賢い。そして、亡国の姫として育てられた環境のせいか、元々の資質なのかは分からないが、常に周囲の大人の顔や反応をよく見ている。


 だからこそ、早いうちから気付いてしまったのだろう。世界を救うという大役を担う聖女には、栄光だけでなく、大人でも耐えきれない程の重責が付き纏うということに。


「そんなの怖くて当たり前だよ。私だって、いきなり聖女で世界を救えなんて言われたら、きっと怖くて仕方ないもの」


 リリアーナはゆっくりと私の顔を見上げて、それから静かに首を横に振った。


「いいえ。それでも きっと、おねえしゃまは……おねえしゃまなら、せかいを すくってしまうと おもうんです。なんどもわたしに ゆうきをくれたみたいに、かんたんに」


 おねえしゃまは それが できるだから。と笑うリリアーナの瞳に、羨望と劣等感が入り混じっているのを見て、私の中でジワリと苦味が広がる。


(何だろうこの違和感……)


「だから、わたしも おねえしゃまみたいに なりたい。おねえしゃまの いもうとなら、わたしにも それができるはずだって しんじたい」


 私には、立派でなくとも人生2周目というアドバンテージと、この世界にはない様々な前世の記憶がある。


 リリアーナにとって憧れのお姉様でいたかったために、私はそれらを使って、そういった姿を常に演じてきた。自分にチートはないと思っていたが、これらだって3歳のリリアーナから見れば十分チート能力だ。


 何かに憧れ、誰かの役に立ちたいと思うことはごく自然なことだが、もしもそれらが、リリアーナの中に燻っていた劣等感や無力感を必要以上に刺激してしまっていたら?


「わたしは、おねえしゃまみたいな せいじょに なりたいです!」


 リリアーナのその瞳には、まさに聖女と呼ぶに相応しい強い光が映し出されていた。


 リリアーナは賢くてすごい。私なんかより何倍も優秀で良い子で優しくて、将来有望だ。

 きっと素晴らしい聖女になれるだろう。


 世界のために、簡単に自分を犠牲にしてしまえる程に──。


(私が、自己犠牲の道へとリリアーナの背中を押してしまった……?)


「だから、おねえしゃま! わたしはもう、ひとりでも だいじょぶです!」


 そう言うリリアーナの笑顔は、以前にも増して太陽のように眩しかったが、その笑顔によって、リリアーナの言う“ひとり”に、“ひとりで寝ること”だけではなく、“聖女になった後のこと”まで含まれていると気付いてしまい、私の心に暗い影を落とす。


(リリアーナが幸せになれない未来なんて、絶対にダメだ!!)


 聖女の異母姉妹が得てして悪なら、どうやら私も悪い姉のようだ。

 私は世界の平穏よりも、自分の──リリアーナ自身の幸せを何より望んでしまっている。


「例えリリアーナが1人で大丈夫になったとしても、私は『ずっと一緒にいる』って言った約束を変えるつもりはないよ。リリアーナの為じゃなくて……私が、ずっとリリアーナと一緒にいたいの」


 最初は、リリアーナの為を思ってした約束だったが、今は違う。


 例え、リリアーナが聖女になったとしても、リリアーナが運命の相手を見つけて、他にもっと好きな人が出来たとしても、ずっとリリアーナと一緒にいたい。


 幸せになっていくリリアーナの姿を、ずっと側で見守り続けたい。


 それが今の私の正直な願い。


 それがどんなに困難な道だろうと、簡単に諦めることは出来ない。


 俯いた後、少し寂しげに微笑むリリアーナは、その難しさをちゃんと分かっている。リリアーナが「ありがとうございます」と無理やり笑おうとするのを見て、私は更に言葉を被せた。


「だからリリアーナ、一緒に神殿へ行こう」


「へ?」


「は!?」


 私の突然の提案にリリアーナだけでなく、秘密基地の外からロシュカの素っ頓狂な声が聞こえる。


「正直私は、リリアーナを危険な目に合わせたくないし聖女になって欲しくもない。でも、リリアーナが聖女になりたいって言うなら、私はそれを応援する!」


 私は立ち上がり、リリアーナだけでなくロシュカ達にも聞こえるように大きな声で話す。


「神殿には大精霊が祀られているんでしょ? 以前お母様が、聖魔法の基本的な仕組みは他の魔法と変わらないって言ってた。だったら、リリアーナが神殿の大精霊に気に入られれば使用するマナは最小限で済むはずよ!! 私が神殿に行って大精霊と交渉する!!」


「いや、大精霊と交渉するって一体どうやって」


 薄布の向こう側で、ロシュカが戸惑っているのを感じながら私は何食わぬ顔で言ってのける。


「私、精霊の姿が見えて話が出来るの」


「はあ!?」


「そ、そもそも、お二人とも今は自宅謹慎を言い渡されているはずですよね?」


 シルキーもオロオロとした様子で会話に加わる。


「お父様とお母様とベラを説得して、護衛を見つければ良いんでしょ? やってやるわよ。そのくらい!」


「ああ言えばこう言う……」


ロシュカが頭を抱えていると、リリアーナがポカンとした顔でこちらを見上げていた。


「ねえ、リリアーナ。どんなに世界が救われても、リリアーナが元気でそこに居てくれなきゃ、私も、みんなも幸せになれないし、頑張れないの」


 私は、泥団子を持つリリアーナの両手を優しく包む。


「だから、お願い。自分の幸せを諦めないで。もしも、リリアーナが嫌じゃなかったら、ずっと側に居られる方法を一緒に考えさせて?」


 俯き震えた声の隙間から、ズッと鼻を啜る音が聞こえる。


「……やなわけ、ないじゃないですか」


「本当? さっき“リリたん”って呼んじゃったから、嫌われたかと不安だったんだけど」


 私は空気を変えるために、とぼけたように聞く。


 リリアーナはもう一度鼻を啜った後、顔を上げニコリと微笑んでくれた。


「いやじゃないですよ。それに、おねえしゃまに そうよばれたのも はじめてじゃないです」


「嘘!? いつ!?!?」


 突然の爆弾発言に、思わず本気で聞き返してしまう。


「いっしょに ねているときです。ねごとで リリたんって いってました」


「寝言!?!?」


 ちょっと待て、それ名前以外にもっと酷い醜態を晒してたりしないよね!? 聞きたいけど、怖すぎて聞けない!!


「おねえしゃまと ゆめのなかでも いっしょなんだって おもって うれしかったです」


 後ろの小窓から太陽の光がリリたんを後光のように照らす。


 ああああああやっぱりリリたんが天使過ぎる!! 一緒に眠る癒しのひと時が今日で終わりなんて、リリたんが大丈夫でも私が全然大丈夫じゃない!!


「うぅ〜〜やっぱり今日も一緒に寝ようよ〜〜……」


「ダメですよ、おねえしゃま! しゅくじょとして きひんある こうどうを こころがけないと!」


 弱音を吐く私を、リリたんがたしなめる様子が何だかおかしくて、二人で顔を見合わせてはクスクスと笑い出す。


 話しながら磨いでいた泥団子はすっかりピカピカに輝いていた。


「すごい、きれい……」


 リリアーナがおだんごを、小窓から差し込む太陽の光へとかざす。


「ロシュカ達にも見てもらう?」


 リリアーナは少し考え込んだ後、私に尋ねる。


「もっとピカピカにするには、どうしたらいいですか?」


「うーん、もっとツルツルしたものがあると良いんだけど、ちょうど良いものが見つからないんだよね」


 ビニールがあれば一番良いのだが、代わりになりそうな物が思い付かない。


「じゃあ、それをさがします! もっとピカピカにして みんなを びっくりさせたいから……。だから、わたしも あきらめません!!」


 リリアーナが私の目をまっすぐ見つめながら宣言する。


「だってわたしは、おねえしゃまの いもうとですから!」


 その瞳には確かな決意と熱意が込もっていた。


「あれ?」


 私がそんなリリアーナの姿に安心していると、ふとリリアーナの視線が外れる。それを追いかけると母が置いていった電話が着信を知らせるように光っていた。


「はい、リリアーナです」


 リリアーナが手慣れた様子で電話に出て、通話機の向こうから母の声が聞こえてくる。


「あら、リリちゃん! 隠れ家はどう? 楽しい?」


「すっごく楽しいです!!」


「そう、それは良かったわ。でも、ごめんなさいね。エルーシャと一緒に一度エントランスまで降りてきてくれないかしら?」


「何かあったのですか?」


 私が尋ねると、母がニコニコした声のまま応える。


「お父様がお客様を連れて帰ってきたのよ」

閑話更新:(前編)12月24日(火)7:00

     (後編)12月25日(水)7:00


本編更新:1月6日(月)7:00



年末年始は執筆時間の確保が難しいため、本編の更新をお休みします。

閑話はクリスマスとは全く関係ない、エルーシャの母エレナ視点のお話です。

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