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25.風の精霊

 糸電話に魔力を流したら何故かまた精霊が見えるようになった。


(何でいきなり!? いや、十中八九、糸電話のせいだろうけど……唐突すぎるでしょ!?)


「エルーシャ様?」


 私があまりの事態に、精霊を見つめたまま固まっていると、シルキーが心配そうに声をかけてくる。遠く離れた糸電話の先でも母とリリアーナの2人が不思議そうにこちらを見つめていた。


(……やっぱり、私にしか見えていないの?)


「おねえしゃまだいじょうぶですか?」


 糸電話を通してリリアーナに声をかけられて、私はようやく正気に戻る。


「ご、ごめん。あまりに糸電話が凄くてびっくりしちゃって……」


『んだよ、オレのことは無視かよ?』


 少年のような少女のような何とも不思議な雰囲気の小さな精霊は、拗ねたような声を出すが、無視したい訳じゃない!! むしろ聞きたいことが山程ある!!


 しかし、リリアーナ達のいる前でそれを聞いても良いのかどうかが分からない。

 とりあえず、もう少ししたらお昼で、それが終わればリリアーナは午睡の時間だ。そうしたら1人の時間が取れる。

 とにかく今は少しの間待っていて欲しい。


(えっと、精霊と対話するには、魔力に感情やイメージを乗せれば良いんだよね……待つ……待つ……)


 私は精霊に部屋で待っていて欲しいというイメージを魔力に乗せて必死に伝える。いきなり目を閉じて黙った私をシルキーがオロオロと心配しているが、ちょっと今は説明している余裕はない。


『ん? ……何だ? どっか行けってことか??』


(違う!!!)


 どこかに行かれたら困るのだ!! えーと、待っててもらうには……そうだ! お菓子!! 確か私の部屋には、バスクが作ってくれたクッキーがまだあったはずだ。

 精霊がお菓子を食べるのかは分からないが、とにかくそのイメージを再び魔力に乗せて伝えてみる。


(部屋……お菓子……食べる……)


 私の部屋でクッキーを食べる精霊の姿をイメージしながら、魔力を放つとどうやら今度は少し通じたようだ。


『お前の部屋にあるものを食って良いってことか?』


「そう!」


『ふーん、食べて良いなら遠慮なく食べるぜ』


 食べるだけ食べて居なくなられたら困るが、とにかく今は時間が稼げるならそれで良い。


 魔力で伝えるのがまどろっこしくなり、いきなり大声を出したことでシルキーをビビらせてしまったが、ひとまず精霊を繋ぎ止めることには成功した。


(さて、後は……この事態をどう切り抜けるかだけど)


 私の突然の奇行に、その場にいる全員が面食らった表情でこちらを見ており、ベラに至っては医者を呼ぼうとしている。


 とりあえずベラを止め、私は、暑い中ずっと外にいたから少し疲れただけだとその場は誤魔化し、母とリリアーナを休憩ついでに少し早めの昼食へ誘うのだった。


 リリアーナは私の体調を心配して午睡の時間になっても中々眠ってくれなかったが、一緒に寝っ転がって絵本を読んだり、お腹の辺りをゆっくりと叩きながら子守歌を歌い、いつも通りの姿を見せることでようやく安心したように眠ってくれた。


 リリアーナが完全に眠ったことを確認した私は、母が改良した糸の長い方の糸電話を持ち、ロシュカにリリアーナが起きたらすぐに魔力を流して呼んでくれと伝えてから、急いで自分の部屋へと向かったのだった。


 ────


「よ、良かった……まだいた……」


『よう! これ結構うまいな!!』


 窓際に置かれた丸テーブルの上には、先ほどの精霊がちょこんと腰掛け、大きな丸皿の上に置かれたクッキーを美味しそうに食べていた。


 15枚ほどあったはずのクッキーは半分ぐらいに減っており、その小さな身体のどこに収まっているのか不思議で仕方がないが、まあ待っていてくれたのだから今はそれで良しとしよう。


「えっと、あなたは風の精霊のシルフ……で良いんだよね? さっきは無視するような形になってしまってごめんなさい」


 私が謝ると、風の精霊シルフはそうだと答えながら話を続ける。


『別に気にしてねぇよ、美味いもんも食えたしな。けど、何でアイツらに精霊(オレたち)が見えること、秘密にしてんだ?』


「別に秘密ってわけじゃないけど、正直どこまで話して良いのか分からないのよ……」


 事件の後、父はまだ一度も屋敷に戻っていない。

 おそらく誘拐事件のことだけじゃなく、司教たちのあの慌て振りからして、私が女神様から加護を貰ってしまったことも何か厄介ごとの原因になっているのだと思う。


 ただでさえ私の迂闊な行動で忙しい父の仕事を増やしてしまったのだ。これ以上手間を増やさない為にもきちんと父と話し合うまで、加護のことはあまり大っぴらに話すべきではないと思っている。


「というか、私自身もまだちゃんと把握出来ていないのよ。あなたの姿が見えたのって、私が女神様から『精霊の姿が見えて話が出来る』加護を授かったからなの?」


『ああ、そうだと思うぜ。お前から女神様の加護を感じるし、オレら精霊から見るとお前の存在ってすげー異質なんだよ』


「異質って?」


精霊(オレら)は普段、魔力を使って意思疎通をしていて、ヒトの言葉は殆ど理解出来ない。まあ、上級精霊とかは別だけど。ここまでは知ってるよな?』


 シルフの言葉に一つ頷くと、私は自分のティーカップと、紅茶のミルクを入れる小さなミルクピッチャーの中へ紅茶を注ぎ、ミルクピッチャーをシルフへと差し出す。

 私が席に着くと、シルフは熱々の紅茶をフーフーと冷ましながら話を続けてくれた。


『でもお前の言葉は別だ。魔力を通していないのに魔力を通したように言っている内容が理解できるんだ。……そうだな、例えるなら、馬の中に1頭だけヒトの言葉を喋る馬がいたらめちゃくちゃ目立つだろ?』


「なるほど、それは確かに異質ね……」


 というか、そんな馬がいたら絶対近づきたくない、


『それにオレたちの言葉も難なく理解できている。ニンゲンは魔力の扱いが下手くそだからな。普段は半分も伝われば良い方だ』


「それはシルフが私に合わせて喋ってくれているからではないの?」


『お前の言う“喋る”ってのは、音の振動を空気や物質を通して相手に伝える行為のことだろ? オレたちはそんなことしない。普段通り魔力を使って意思疎通してるだけだ。オレらの魔力をお前が勝手に音に変換してんだよ』


「……なんか、聞けば聞くほど言語チートみたいな能力ね」


 そこまで言って、ふと自分の考えを疑問に思う。

 つい最近その言葉を使う機会があったような……具体的には女神教会の祈りの部屋で女神様にお祈りをした時に。


 “せめて言語チートぐらいは欲しかった”


 と確かにそう望んだ気がする。


 気がする、けど!!!


「だからってここで付与するかぁ」


 なんだろう、この世界の女神様は素直すぎるというか、どこか抜けている気がする。


「どうせならもっと、リリアーナの助けになるような加護が良かったんだけどな……」


 確かに凄い能力だとは思うけど、これをどう使えばリリアーナの役に立てるのか、皆目検討がつかない。


(いっそ、聖魔法でも付与してくれればリリアーナの代わりにちゃちゃっとマナの浄化が出来たのに)


 まあ、ないモノねだりをしても仕方がない。今は先に他の疑問点を解決しよう。


「あなた達と会話が出来る原理? は何となく分かったけど、じゃあ姿が見えたり見えなかったりするのは何で?」


『相手の精霊の波長を魔力で上手く捉えられていないんだろうな。要は魔力の扱い方が下手くそってことだ』


「ぐっ」


 身も蓋もない言葉であるが、正論であるが故に何も反論できない。


 実際、先ほどの魔力による意思疎通も酷いもので、まどろっこしくて仕方なかった。


『今回はイトデンワにお前が魔力を通すことで波長が合ってオレが見えるようになったんだろうな。要は慣れだ。使い続けてりゃその内意識しなくても出来るようになるよ』


「そうだと良いけど……」


 シルフが小さな身体でクッキーを運ぼうとしていたため、食べやすいようにクッキーを小さく割って渡す。シルフはお礼を言って、美味しそうにクッキーを食べながら話を続ける。


『試しに初級精霊の“エア”でも呼んでみろよ。同じ風属性のオレが見えたんだから、他の精霊よりは波長を捉えやすいはずだぜ』


「分かった」


 私は目を閉じ、呼吸を落ち着けヒイラギに習ったことを思い出しながら黄緑色に輝く存在を探る。

 ステラを探した時のように、体内の魔力を周囲に薄く広げてゆくと、シルフのすぐ隣に淡く光る存在を感じることが出来た。その光がより明確なものになるよう、更に意識を集中していく。


 ゆっくりと目を開けるとそこには、黄緑色のマリモのような、丸い球体が浮かんでいた。小さな二つの黒い瞳がジッとこちらを見つめている。


「あなたがエア?」


『キュイ!』


 私が名前を呼ぶと、エアは嬉しそうに鳴きながら私の元まで飛んできて、懐くようにほお擦りをしてくる。


「ふふ、なんか可愛い」


『初級精霊は大分マナに近い存在だからな。懐っこいし、基本的にマナさえ与えりゃ力を貸してくれる。ま、その分、細かい指示を理解するのが苦手だったり、出来ることも限られるけどな』


中級精霊(あなたたち)は?」


『オレたちは基本面白そうなことや、気に入った相手にしか力を貸さない』


「なるほど」


 どうりで精霊が気まぐれだと言われるわけだ。


 私が一人納得しながら紅茶を飲んでいると、テーブルの上に置いた糸電話が黄緑色に光り、リリアーナが起きたことを知らせてくれる。


「まずい、もう戻らなきゃ」


『なあ、お前そのイトデンワっていうのがもっと凄くなったら嬉しいか?』


「え? そりゃ、もちろん」


 慌てて戻ろうとする私にシルフが後ろから声をかける。


『だったら、オレが開発に協力してやっても良いぜ。……その代わり』


 シルフがそっとクッキーを見せてきたことで私は全てを察した。


 その後私は、バスクにクッキーのおかわりをせがんだことがベラにバレ、お菓子の食べ過ぎだとこっ酷く叱られたのだった。

次回更新:12月18日(水)7:00

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