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19.導きの精霊


「エア」


 ヒイラギがそう唱えると、私を縛っていた縄が切れ、身体が自由になる。


「な、なんでヒイラギ少年がここに!?」


 いや確かに、黒髪赤目で、そんなこれ見よがしな腕輪を着けている時点で、こいつただのモブじゃないなと思ってはいた。黒髪赤目のモブがいてたまるかとは思っていたけども!!


 ヒイラギは「プラント」と唱え、気絶している小物達が逃げないよう、木の上に縛りつけた後、鬱陶しそうに自分の顔の横の空間を指差した。


「なんでって、コイツがついて来いってあまりにもしつこいから。てか、何だよそのヒイラギ“少年”って」


「あ、ごめんなさい。えっと、ヒイラギさん。コイツって、もしかして精霊ですか?」


 ヒイラギが指差した空間を見て見るが、私の目には何も見ない。


 ヒイラギは呼び捨てでいいし、敬語もいらねぇよと言いながら、私の前に座り、私に怪我がないかを確認してくれた。


「そ、ステラって精霊がお前のことをすげー心配してて、最初はずっと無視してたんだけど、あまりにもしつこいから、ついてったんだ。そしたら、途中で神学校の奴に会ってな……お前がミアを助けて行方不明になったって聞いた」


「じゃあそのステラって精霊のおかげで」


 ステラに直接お礼を言いたくてその姿を探すが、やはり肉眼では精霊を捉えることは出来ないようだ。そういえば、大半の精霊はこちらの言語も理解できないんだっけ?


「魔力を使えば良いだろ?」


 私がどうお礼を伝えようか迷っていると、ヒイラギがそう提案してくる。


「あ、でも私まだ魔法は」


「マナさえ渡さなきゃ問題ねぇよ。ほら」


 そう言ってヒイラギは、教室で他の子達にしていたように私の両手を取った。

 ヒイラギの手から伝わる魔力に反応して、私の魔力が、身体の中から外へとゆっくり引き出されていくのを感じる。


「そうそう、結構上手いじゃん。ステラは光属性の精霊だから、そのまま魔力を周囲に広げるようにして白く光る存在を探してみな?」


「うん」


 言われた通り、白く光る存在を探しながらも、私の思考は別のところに飛んでいた。


(神学校の時も思ったけど、この子、クラウスとはタイプは違うけど周りを引っ張っていくリーダー気質というか、妙に世話慣れしているというか)


「お兄ちゃんみたい」


「あ、悪ぃ。そういえばお貴族様だったな。お前、あんまり貴族っぽくないから、つい神学校の奴らのノリで触っちまった」


「ううん、大丈夫。神学校のみんな、すごく仲が良さそうだったものね」


 私は魔力を周囲に広げながらも、話を続ける。

 ヒイラギが補助をしてくれているからだろうけど、最初に魔法を使った時より集中せずとも、ずっと楽に魔力操作が出来る。


「まあ、普通はもっと身分差でピリピリしてるものだし、アイツらも最初からああじゃなかったけどな。アーレンバッハって、やたらキラキラした奴がいただろ? アイツが上手くまとめてくれてな」


 やっぱり、あの教室の雰囲気を作ったのはクラウスだったのか。


「ラウルはいけ好かねぇし、俺はアイツらより一つ年上だけど、今じゃアイツらのことは全員、弟か妹みたいに思ってるんだ」


 ヒイラギはそこで一度言葉を切ると、しっかりと私の目を見て、ふんわりと笑い言葉を続けた。


「だから、ミアを助けてくれたこと、本当に感謝してる。ありがとう」


「いや、そんな! こちらこそ」


 私が慌ててヒイラギにお礼を言おうとすると、どこからともなく甲高い声が響いた。


『ほんとなのですの〜〜!! ミアを助けてくれてありがとですの〜〜!!!!』


「へ!!??」


 思わず声のした方を振り向くと、そこにはぬいぐるみのような小さな物体がフヨフヨと浮かびながら、泣いていた。


「お、精霊の光が見えるようになったか?」


「いや、光って言うか、なんかふわふわした物体が、喋って……泣いてる?」


「精霊の姿が見えるってことか? すげーな。本職の魔法使いでも見えないってのに」


 え? アレが精霊なの!?

 私のイメージしてた精霊とだいぶ違うんですけど!?


 精霊ってもっと、こうウンディーネとかイフリートみたいな綺麗でカッコいいやつとか、そうでなくても火や水のエレメントぽいやつとか、ピクシーみたいな妖精みたいなものを想像してたんだけど……。


『ステラのせいで、危険な目に遭わせてしまってごめんなさいですの〜〜!!』


 すごく、女児向けアニメのマスコットキャラクターです。


『聖なるパワーを解放して変身するですの!』とか言って女の子にコンパクトを渡して悪と戦ってそう。主に日曜朝とかに。


「ハッ!! もしかして、私がプ◯キュアに!?」


「何言ってんだお前?」


「あ、ごめん。ちょっと取り乱した」


 私は一度深呼吸をして気持ちを落ち着けてから、ずっと泣いている精霊のステラと向き合う。


「えっと、あなたがステラ? 私の言葉分かるかな?」


 私はなるべく優しく聞こえるように意識しながら、ステラへと話しかける。向こうの言葉が私に通じるなら、もしかしたら私の言葉も通じているかも知れない。


『はいですの。分かりますの。あなたから女神様の加護を感じるですの』


 ステラはまだグスグスと言いながらも、しっかりとこちらを見て言葉を返す。というか、今女神様の加護って言った? もしかして、加護の内容ってこれ!?


「えっと、あなたがヒイラギを呼んでくれたんだよね? 本当にありがとう。さっき、自分のせいだって言ってたけど──」


「おい、その話後でもいいか?」


「え?」


 ヒイラギの緊迫した声に振り向くと、いつの間にか周囲を魔獣に囲まれており、薄暗い木々の間からギラリと光る目だけが無数にこちらを見つめていた。


「魔獣!? なんで!?」


「おい! ステラ借りるぞ。ステラ!!」


『!! はいですの!』


 ヒイラギが手のひらから少量のマナを放ち、それがステラを包み込むと、ステラは流れ星のように光りながらどこかへ飛んでいった。


「ステラに、お前を探している奴らを連れてくるよう頼んだ。その間ここを凌ぐぞ!!」


「凌ぐったってどうやって……わひゃっ!?」


 ヒイラギが私を抱え、木の上へと飛び上がった瞬間、魔獣達が一斉に襲ってきた。

 魔獣達が放つ炎をヒイラギがアクアで結界を張ることで防ぐ。

 しかし、魔法が効かないと分かると魔獣達は、今度は一斉に木に向かって体当たりをして私達を振り落とそうとしてくる。


「くそっ!!」


「ヒイラギ!?」


 ヒイラギが、脇に差していた小刀を抜き、木の下へと飛び降りる。そして、魔獣の攻撃を軽々と躱し、敵を引き付けるよう時々挑発しながら木から離れていく。


 一瞬の隙を突き、小さな小刀で一体ずつ確実に仕留めていくその動きは、とても子どもとは思えず、シルキーにも劣らない程、素晴らしいものではあるのだが……。


「魔獣の数が多すぎる」


 それにヒイラギは私のために結界を維持したままだから、今は他の魔法も使えない。ラウル? アレは例外だ。

 じわじわと魔獣の数にヒイラギが押されていくのが、木の上からよく分かる。


「くそっ! やるしかねえか!!」


 私が一か八かで魔法を使うか考えていると、ヒイラギが悔しそうに言いながら、左腕の腕輪を外した。

 私の周囲に張っていたアクアの結界を解除した瞬間、半ばヤケクソのようにヒイラギが叫ぶ。


「マナをくれてやるんだから、その分しっかり働けよ!! サラマンダー!!」


 ヒイラギの掌の上に光り輝くマナの球体が現れたと同時に消え去り、代わりに顔の大きさと同じぐらいの火球が現れる。


「焼き払え!!」


 そう叫びながら手を横一文字になぎ払うと、火球が無数の矢のように放たれ、おびただしい数の魔獣を業火が一斉に焼き尽くしていく。


「すっご」


 そのあまりの光景に私はただ呆然と見下ろすしかなかった。


『こっち! こっちですの!』


 業火が魔獣のみを骨も残さず焼き払った頃、ステラが人を連れて戻って来た。


「いた! あそこ!!」

「お嬢様!!」


 シルキーがミアを前に乗せながら馬でこちらに駆けてくる。


 それからもう一人、後ろに兵を引き連れ、もの凄い威圧感を放ちながらゆっくりとこちらへ向かって来たのは──


「お、お父様……」


 誰がどう見ても分かるほどの激昂(げきこう)だった。

次回更新:12月04日(水)

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