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◆閑話◆おねえしゃまの いない日

 おねえしゃまのいない日、おやしきの中はすごく静か。


 お外はすごくいいお天気だけど、何だか太陽がかくれてしまったみたいで、広いおやしきが、いつもよりもっと広く感じる。


 おねえしゃまは、シルキーといっしょに朝からお出かけ。

 リリは、まだ危ないからお外にはついて行っちゃいけないって、おとうしゃまが言ってた。


 おかあしゃまのおやしきにいた頃は、よくこんな日があった。


 おかあしゃまの体調がわるくて、いつも遊んでくれる、しようにんの子ども達もみんな、おしごとがあるからって遊べない日。


 じゃあ、リリもいっしょにおしごとする。みんなといっしょがいいって言ったら、リリは“ひめさま”だからダメなんだって。


 でも、みんなが泡だらけになってお洗濯するのが、すごく楽しそうで、とおくからじっと見てたら「姫様もおいで」「一緒にやろう」って誘ってくれた。

 みんなと一緒のお洗濯は思ったとおりすごく楽しかった。


 ……でも、その後でみんなが大人に怒られているのを見て、すごくすごく苦しい気持ちになった。


 リリは“ひめさま”だから、リリがワガママを言うと、リリじゃなくてみんなが怒られてしまう。


 だから、それからそんな日は、お部屋でじっとしていることにした。


 ある日、ロシュカがおとうしゃまからのプレゼントだって絵本を持って来てくれた。


 ちいさな女の子がおねえちゃんと一緒に色々なところにぼうけんに行って、グラグラする橋のうえや、たかい崖の前で女の子がこわがっていると、おねえちゃんが「大丈夫だよ」って手をひっぱって、いっしょにぴょんと飛び越えてくれるような、そんなすてきなお話。


「……リリにも、おねえちゃんがいたらよかったのに」


「……そうですね。いつかきっと、仲良くなれますよ」


 それからリリに本当におねえちゃんがいると知ったのは、もう少し後のことだった。


 しようにんの子たちに、いもうとは出来ても、おねえちゃんは出来ないって聞いていたから、おやしきで「リリのおねえしゃま」にお会いした時はほんとうにびっくりして、夢みたいだった。


 本物のおねえしゃまは、想像していたよりもずっとずっと楽しくて優しい人で、おねえしゃまはとしょ室で本を読むのが好きだったみたいだけど、それだけじゃなくて、リリをおやしきの色んなところに連れて行ってくれた。


 ある日、おねえしゃまと一緒にお庭をおさんぽしている時にお洗濯をしているのを見つけた。

 リリが昔のことを思い出してそのようすをじっと見ていたら、おねえしゃまが「私達もやろう!」と言ってリリの手をひっぱって走ってくれた。


 後ろについていたシルキーはおろおろしてたし、後から来たベラにはやっぱり、


「お嬢様方はそんなことなさらなくて良いのです」


 と怒られてしまったけど、おねえしゃまは、


「でも、もしも家が傾いたり、私が家から追放されたら、自分で洗濯ぐらい出来なきゃ困るでしょ?」


 って、よく分からない、むずかしいことを言いかえしてた。

 ロシュカはそんなおねえしゃまを見て笑うのを我慢しているみたいだった。


 ベラは、「またそんな屁理屈を……」と呆れていたけど、それいじょう怒られることはなくて、その日は、おねえしゃまと一緒に、ぜんぶ泡だらけのびしょびしょになるまでいっぱいいっぱいお洗濯をしてあそんだ。


 また別の日には、庭師のトーマといっしょに、お庭や畑のいろいろな植物のことをおしえてくれた。

 おねえしゃまは本をたくさん読むから色んな植物の名前やお花のことにもすごく詳しかった! やっぱり、おねえしゃまはすごい!!


「マトマの実はね、こういう横から生えている小さな芽を取ることで大きい実が出来るんだよ! そうだよね、トーマ?」


「ええ、その通りです。エルーシャ様は植物にもお詳しいんですねぇ」


「へへ、リリアーナもやってごらん」


 おねえしゃまは教えるだけじゃなくて、こうやって色々なことをリリにやらせてくれる。トーマとおねえしゃまの3人でマトマの芽を取ったり、畑にお水をあげたりした。


「リリアーナが育てたお野菜とか絶対美味しいだろうな〜〜大きくなるの楽しみだね!」


「はい!」


 おねえしゃまとリリはお洋服を着替えてから、トーマにもらったリコラの実を持って、キッチンへとやって来た。


「お! お待ちしてましたよお嬢様方!」


「ごめんなさいバスク! 準備ってもう出来てる?」


 そう言っておねえしゃまが料理長のバスクに声をかける。


「バッチリですよ! お任せください」


 そう言ってバスクは、焼く前のパイ生地の型を出してきた。


「じゃあリリアーナ、一緒におやつを作ろう! 私がリコラの実を切るから、それをパイの上に並べてくれる?」


「はい!」


 手をよく洗ってから、ロシュカに汚れても大丈夫なようにエプロンを着せてもらう。


「しかしエルーシャ様、包丁なんて使ったことないでしょうに、手つきが手慣れてますね〜」


「えっ!? そ、そりゃあ淑女たる者これくらい出来なきゃね???」


 おねえしゃまはリリと違って何でも出来てしまう。

 ……リリも大きくなったらおねえしゃまみたいになれるのかな?


 おねえしゃまといっしょに作ったリコラのパイはすごく甘くておいしくて、ふだんは甘いものをあまり食べないおとうしゃまも、おいしいおいしいって二つも食べてた。



「お嬢様、外にお散歩にでも行きませんか?」


 お部屋でそんなことを考えてボーッとしてたら、ロシュカがお散歩に誘ってくれた。


 お庭に出て、畑の近くを通ると、庭師のトーマが声をかけてくれる。


「おや、リリアーナ様。ちょうど良いところに。お世話して下さったマトマの実が丁度食べ頃なんですよ。収穫されて行かれませんか?」


 だいじょうぶか確認するために、ロシュカを見上げると、笑ってうなづいてくれたので、トーマたちと一緒に畑にはいる。


「わあぁ! まっかっか!」


「大きく育ちましたね」


「ええ、リリアーナ様が丁寧にお世話してくれたおかげですよ」


 リリの手をよりも大きなマトマの実をトーマといっしょに片手で支えて、もう片方の手でロシュカといっしょにハサミでチョキンと切る。ひとりで持ったマトマの実はずっしり重くて、ピカピカしててすごく美味しそうだった。


「……おねえしゃまに たべてもらいたいなぁ」


「いいですねぇ、きっと泣いて喜びますよ」


「泣くだけで済めば良いですけどね〜」


 ロシュカは少しニヤニヤと遠くを見つめたあと、こちらを向いて、にっこりと話しかけてくる。


「エルーシャ様はお昼過ぎには戻られる予定ですし、そのマトマの実をつかって今日のおやつにアイスを作るのはいかがでしょうか?」


「ロシュカのアイス! ひさしぶり!!」


「ええ、氷魔法ならお任せください!」


 それからロシュカはしゃがんで、ないしょ話でもするようにこっそり話しかけてきた。


「リリアーナ様もお手伝いして下さいますか? バスクさんにも協力してもらって、エルーシャ様がびっくりするような、とびきり美味しいアイスを一緒に作りましょう」


「……!! うん!!」


 リリはまだ何にもできないし、いつもおねえしゃまにもらってばかりだけど、リリがアイスを作ったら、おねえしゃまびっくりしてくれるかな?


 ……おいしいって喜んでくれるかな?


 おねえしゃまのことを考えるだけで、こんなにも心がぽかぽかしてくる。


「おねえしゃま はやく かえってこないかなぁ」



 風がサラサラとふきぬけ、小鳥の声や色んな音がきこえてくる。


 そらを見上げると、太陽のひかりがとてもここちよかった。

次回更新:11月25日(月)7:00




【余談】

△→おねえしゃまは本をたくさん読むから植物にも詳しい。


◎→「子どもの情操教育に良いものって何!?やっぱり植物!?でも前世と名前が違うから、何が育てやすいとか全く分からないし、万が一かぶれる物とかあったら危険だし……。全部覚えるしかないか……リリたんのために!!」


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