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15.神学校見学①

 淡い金の瞳と髪を持ち、キラキラとしたオーラを発しながらも、どこか人を安心させる雰囲気を持つ、物思いに耽る美少年──クラウスに声をかけてきたのは、茶色い長い髪を二つに結んだ、素朴で優しそうな雰囲気がなんとも可愛らしい、おそらく街で暮らす平民の女の子だった。


「ちょっと!!」


 クラウスの斜め後ろに座る、気の強そうな縦巻きロールの令嬢がその女の子に向かって声を荒げるが、すかさずそれをクラウスが止める。

 そして、人好きのする笑みを浮かべながら、優しく落ち着かせるような声音でその女の子に声をかけた。


「おはよう、ミア。僕に何か用かな?」


 クラウスが微笑んだ瞬間、その背後に花が咲き誇る。

 これが噂の花を背負うイケメンというやつか……。


 ミアと呼ばれた少女はクラウスのその特殊能力に一瞬たじろぎ、わずかに頬を染めながらも、はっきりとした声で話を続けた。


「い、いきなり話しかけてしまってごめんなさい。その、私、どうしてもクラウス様にお礼を言いたくて……」


「お礼?」


「はい。先週私が教室で泣いていた時、話を聞いて下さって……。その、弟が迷子になった時に魔獣に襲われて怪我をして、でも、その怪我に効く薬草が、魔獣のせいで流通が滞って、どこにもなくて困っているって話……覚えてますか?」


「もちろん覚えてるよ。……その後、弟さんの容態はどう?」


 そう聞くクラウスの声は、心から相手を心配するものに聞こえる。


「私、聞いたんです! あの後すぐに、匿名で魔獣討伐に莫大な懸賞金がかけられて、どこかのお屋敷の執事の方が、その怪我に効く薬草だけじゃなく、滞っていた分の薬草を全部持ってきてくれて、必要とする人に行き渡るようにしなさいって言ってくれたって……」


 そこでミアは一度言葉を切り、クラウスに向かって思いっきり頭を上げた。


「私、話を聞いた時、絶対クラウス様だって思ったんです!! そのおかげで弟も元気になって、だから、本当にありがとうございました!!」


 クラウスは一瞬ぽかんとした後、すぐに優しい声でミアに頭

 を上げてと声をかける。


「別に僕は何もしてないよ。流通が滞っていたなら他の人も困っていただろうし、きっとタイミングが重なったんだろうね。でも、ミアの弟が元気になってよかった。後遺症とかは大丈夫?」


 そう言ってクラウスは、泣き出しそうなミアに声をかけ続ける。


「どうやら、とてもお優しい方のようね」


 シルキーが万が一誰かに聞かれても大丈夫なように、貴婦人を演じながら話しかけてくる。


「……まだ分かりませんよ。本当に偶然タイミングが重なっただけかも」


 私がぶすっとしながら疑り深くそう返すと、シルキーは困った子でも見るように苦笑していた。


 だって、あのリリたんと結ばれるかも知れない相手なのだ。

 万が一にもあのキラキラとした笑顔の裏にとんでもない闇を抱えていた……なんて事があっては困る。


「さて、そろそろ授業を始めますよ。席に着いてください」


 ミアがある程度落ち着いた頃、司祭のラウルが教室の子ども達にそう声をかける。


「今日は見学者の方もいらっしゃいますし、まずは魔法の基礎の復習から入りましょうか」


 ラウルが私達の方に一度視線を向けてから、子ども達の方へ向き直る。


「アクア」


 ラウルがそう唱えると、ラウルの手のひらの上にふよふよと浮かぶ、水の球体が形作られる。


「魔法とは、精霊と一定の契約を結び、対価を払うことで、彼らの持つ超自然的な力──魔力を借りる行為のことを言います。私は今、アクア族の精霊に呼びかけ、対価として自身のマナを分け与えることで、手のひらの上に水の球体を作ってもらいました」


 手のひらの上の球体が大きくなり、今度は水で人形劇で使用するような、大人の人形と子どもの人形を一体ずつ作り出す。


「もう少しみなさんの身近な例で説明しましょう」


 大人の人形は、リンゴのような果物を持っており、子どもの人形は、丸い銅貨のようなものを持っている。


「みなさんがリコラの実が欲しいと思った時、果物屋さんに行って銅貨を渡してリコラの実を買いますよね?」


 子どもの人形が銅貨を渡し、リコラの実を手に入れ喜んでいるような仕草をする。


「魔法も基本的にはそれと一緒です。精霊は私達の目には見えませんが、いつも私達の身近なところにいます」


 大人の人形が、今度は小さなドラゴンの姿に変化する。


「たとえば、みなさんが炎の魔法を使いたいと思ったら、銅貨の代わりに自分のマナを渡して火属性の精霊に力を貸してもらいます」


「フレイム」


 子どもの人形がドラゴンに丸いマナを渡し、それがドラゴンを包み込むと、ドラゴンがフーっと火を吹き、子どもの手のひらの上に本物の炎が灯る。


 ……この司祭、魔法の説明をしながらサラッと2種類の魔法を同時に使ってる。


「しかし、精霊たちはとても気まぐれです。気に入らなければ沢山のマナを渡さなければならなかったり、そもそもマナを受け取って貰えず、魔法を使えないこともあります」


 子どもの人形が先ほどよりも大きなマナを渡すが、ドラゴンがそれをイヤイヤと拒否する。


「逆に相性が良かったり、気に入られると、少ないマナでも沢山の力を貸してくれるので、まずは色々な種類の魔法を試して、自分と相性の良い属性や精霊を見つけることが大切ですね」


 子どもの人形が、最初よりも小さなマナがドラゴンを包み込むが、ドラゴンがその光を受け、大喜びするような仕草をした後、子どもの手のひらの上に更に大きな炎を作り出す。


 そして、炎はどんどん形を変え、鳥のような姿になって教室の中を自由に飛び回りだした。


 その不思議な光景に教室のあちこちから大きな歓声が上がる。


「……すごいですね」


 隣でシルキーが、思わず演技をすることも忘れてつぶやく。


 魔法の制御は難しい。私は一度こっそり使って失敗しているから、それがよく身に染みている。

 それを魔法の説明をしながら、こんなに細やかに操り、挙句の果てにはいくら初級魔法とはいえ、2種類同時に使いこなしたのだ。


「本当、何者なんだろう……」


 あの戦闘力の高さといい、ラウルがただの司祭ではないことは確かだ。

 笑顔が胡散臭い上に、魔法の説明が思っていたより子ども向けに分かりやすく作られていたことが、更にむかつく。


 そんな私の不機嫌な視線をにこやかに受け流しながら、ラウルの授業は続く。


「さて、では復習はこれくらいにして、今日はフレイム族の力を借りて炎の初級魔法を実践してみましょうか」

閑話更新:11月23日(土)10:10

本編更新:11月25日(月)7:00

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