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14.司祭ラウル

 テッテレー! エルーシャは女神の加護を手に入れた! ▼


 いやいやいや、おかしいでしょ!!

 確かに目立たないように行動して、結果目立ってしまう展開とか異世界転生では鉄板中の鉄板だけど、そういう『また私何かやってしまいました!?』系のお約束は求めてない!!


 本来の目的をまだ果たせていないけど、ここは早急に撤退すべきだ。クラウスのことは明日の顔合わせで調べればいい。私は目立たず安全策重視で行く!! いのちだいじに!!


 そう考えてシルキーと頷き合い、私はすぐさま作戦を実行に移す。


「あいたたたた急にお腹がああああああああ」


「まあ!? どうしたの!?」


「おや、いけない。すぐに治癒魔法を」


 突然腹を抱えてうずくまった私に、司祭がそう言って駆け寄って来る。


「いえ、それには及びません。それより、今日はもうこのまま」


「どうか今は私の言うことを聞いて頂けませんかね? エルーシャ・ロスヴェルト嬢」


 私が治療をやんわりと断り、もう帰ることを告げようとすると、司祭は私にしか聞こえない声でそう囁いてきた。


「なッ!?」

「お嬢様!!!」


 私の身体の硬直を感じ取ったシルキーが、即座に司祭に向かって回し蹴りを繰り出す。しかし、ふわりと上へ飛んだ司祭は軽々とそれを躱し、私たちから少し離れた位置へと着地する。


「あなた、一体何者ですか!?」


「おや、申し遅れました。私、この帝都女神教会で司祭を務めております、『ラウル』と申します。どうぞ、以後お見知り置きを」


 シルキーの緊迫した問いに、そう飄々と返すラウルは、貴族男性が行う伝統的なお辞儀、見事なボウ・アンド・スクレープまで披露した。


「くッ!!」


 完全にこちらをおちょくるようなその態度に、シルキーはそのまま追撃を喰らわそうとするが、その目にも止まらぬ速さの打撃や蹴りを、ラウルは全て軽々と躱わしていく。


「私は、貴方方と争うつもりは一切ないのですよ。ただ少しの間、お願いを聞いて頂きたいだけで。……貴方方も、大切な妹君を危険な目には遭わせたくないでしょう?」


「なッ!?」

「ッ!!」


 ラウルの言葉にシルキーの動きがビタリと止まる。

 私は全身の血が瞬間的に沸騰し、身体がワナワナと震え出すのを感じながら、ラウルに向かって叫んだ。


「私の可愛いリリアーナに何をしたってのよ!!??」


 怒りで目の前が真っ赤になっている私に対して、ラウルは相変わらず嫌味なほど紳士的な態度で話を続けた。


「ご心配なさらずとも、聖女様や、女神様の加護を授かった貴方様に危害を加えるようなことは何も致しません。どうかご安心を」


「……お願いと言うのは?」


 いくらか冷静さを取り戻したシルキーがラウルに問いかける。


「当初の予定通り、もうしばらくこの教会内で過ごして頂き、神学校の見学を終えてからお帰り頂く。ただそれだけでございます」


 そう答えるラウルは、相変わらず感情や意図を一切読ませない穏やかな笑みを浮かべおり、その真意を探ることは出来ない。


「さて、お嬢様の腹痛も治ったようですし、神学校へと参りましょうか」


 ラウルは考えあぐねている私達に向かいそう言うと、先にすたすたと歩いてゆき、私達を出迎えるかのように扉を押さえる。


 私は小声でシルキーに、これからどうするかを相談する。

 シルキーの話では、感情や意図などは不自然なほど全く読めないが、ひとまず敵意は感じないとのことだったので、リリアーナの安全のためにも、とりあえず大人しく着いていくことにした。


 女神教会から神学校へと続く廊下を歩いていると、その途中には10歳前後くらいの幼い少女の肖像画がズラリと並べてあった。


「これは……」


「こちらは、歴代の聖女様方の肖像画になります」


「何だか皆様、大人びた表情をしていらっしゃいますね」


「本当だ。緊張してるのかな?」


 シルキーの言うとおり肖像画の聖女達は皆、幼い少女には似つかわしくない表情をしていた。やはり、聖女になってしまった重圧が重くのしかかるからだろうか。


 私達が話していると、ラウルはいつもの感情の読めない笑みを消し、わずかに哀れみの表情を乗せながら静かに言葉を続けた。


「こちらの肖像画は皆、大神霊祭の直前に描かれたもの……。つまり、17歳当時のお姿ですよ」


「……なッ!!」


「17歳……」


 隣でシルキーがそう呟いたきり、言葉を詰まらせる。

 肖像画の少女達はどう見ても10歳前後にしか見えない。

 聖魔法の使用は、思っていた以上に聖女の身体に大きな負担がかかるようだ。


 過度な魔法の使用は、身体の成長だけでなく命にも関わってくる。やはりこんな過酷なこと、絶対リリアーナにさせるわけにはいかない。


「……さて、そろそろ神学校へ参りましょうか」


 私達がしばらく肖像画の前で固まっていると、ラウルはいつの間にか、いつもの感情の読めない笑みに戻っており、神学校へと続く廊下を歩いて行った。




 廊下を通り抜け、神学校の校舎へと入ると、そこは40人くらいの子ども達が学べる大きな教室になっていた。イメージとしては地域の集会所のような感じだろうか。


 広々とした空間に木製の椅子と机が並べられ、教室の中には20人くらいの子どもたちが各々自由に過ごしていた。


「あ! 司祭様おそ〜い」


「後ろの方達はお客さまですか?」


 ラウルが教室へ入ると、数人の子ども達がラウルの元へと駆け寄って来る。どうやら子ども達には慕われているようだ。


 私とシルキーは教室全体が見渡せる、真ん中の列の一番後ろの席へと案内された。


 何人かの子ども達が、興味深そうにこちらをチラチラと見ているのを感じながら席に着くと、教室全体をざっと見渡す。


 どうやら服装を見る限り、教室前方の出入口側の席に貴族の子たちが5人ほど固まって座っており、その反対側、教室前方の窓側の席に街の子──いわゆる平民と呼ばれる子ども達が集まっているようだ。


 そして、窓側の一番後ろの席には何故か1人、左腕に金属製の大きな腕輪を付けた黒髪赤目の少年が、さながら一匹狼のように窓の外を眺めて黄昏れていた。


「ヒイラギ、おはよ!」


「はよ」


 何人かの子ども達がその子──ヒイラギ少年と挨拶を交わしながら、自分の席へと走っていくので、どうやら除け者にされているのではなく、自分の意思でその場所にいるようだ。


 まあ……うん。どこの世界にもいるよね。ちょっと早いけど、そういうお年頃ってことなのかな。


 心の中でヒイラギ少年に温かい目を向けながら、私は当初の目的であるクラウスを探すことにする。


 半ば脅される形でここまで来てしまったが、こうなったらどうせやることは変わらないのだ。ついでに本来の目的を果たしてしまおう。


 といっても、私は血眼になってクラウスを探そうとは、最初から思っていなかった。

 曲がりなりにも物語の主要人物候補なのだ。何もせずともすぐに見つかるだろうと高を括っていたのである。


 というか、教室に入った瞬間から既にそれっぽい人物に目星は付いている!!


 ふと私の隣を、ここまで急いで来たのであろう少女が、息を切らせながら走り抜けていく。

 そして、その少女が出入口側一番前の席に座る、やけにキラキラしたエフェクトを纏った美少年に声をかけることで、私の予感は見事、的中するのだった。


「あ、あの! クラウス様!!」

次回更新:11月22日(金)7:00

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