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13.女神教会

 教会の中は外とは空気が違った。


 荘厳な雰囲気というのだろうか、ピンと張り詰めた空気の中に神々しさを感じて、私は柄にもなく緊張してしまった。

 遠く離れた建物からは、子ども達の笑い声がかすかに聞こえる。おそらく、神学校に通っている子ども達の声だろう。


「ようこそ、いらっしゃいました」


 私たちが教会の奥へと進むと、にこやかな笑みを浮かべた優男風の司祭が出迎えてくれた。


「今日は女神様へのお祈りと、僅かばかりの寄進を。それと、来年この子が神学校へ通う歳になるので、出来れば神学校の見学させて頂きたいのですが」


 シルキーが普段のおどおどした態度を全く感じさせず、堂々とした貴婦人を演じる。


「そうでございましたか。それは、ありがとうございます。貴方様方の善行に女神様もさぞお喜びになられることでしょう」


 そう言って司祭は、私たちに向けて頭を下げる。司祭は終始穏やかな態度を崩さない。しかし、何だろう私の色眼鏡かも知れないが、こういうタイプの司祭はどことなく胡散臭く感じてしまう。


「神学校の見学についてもどうぞご自由に。私が校舎の方までご案内致しましょう」


 子ども達はもう集まってきているが、授業の始まる時間まではまだ少しあるとのことだったので、私たちはまず女神様へのお祈りを先に済ませることにした。


 司祭が扉を開け、大聖堂のさらに奥にある祈りの部屋へと通される。


 そこは、3、4人程度が広がって通れる道の先に大きな女神像が安置された小さな部屋で、部屋の両脇にはサラサラと水が流れ、その上には見たことのない光る植物が植えられていた。


 部屋の中は魔法なのだろうか? 白く光る丸い物体がふよふよと漂いながら、部屋の中を照らしている。


 大聖堂までは両親と共に何度か入ったことがあったが、その奥の祈りの部屋に入ったのは今回が初めてだったため、私はその不思議な光景に、幼子のように辺りをキョロキョロと見回してしまった。


 その様子を後ろで見ていた司祭が、微笑みながら私に話しかけてくる。


「この祈りの部屋は教会の中でも特に神聖な場所で、女神様の御威光により、このように丸い光として可視化出来るほどマナに満ちております」


 なるほど。この光は魔法じゃなくてマナだったのか。マナの存在は何度も話に聞いていたが、こうして実際に目にするのは初めてだ。


「では、この植物もマナで光っているのですか?」


「ええ、この精霊草は、マナの豊富な場所でのみ育ち、聖水を与えることにより、万能薬(エリクサー)の原料となります」


「あの、そんな貴重な部屋に入れて頂いて、本当に大丈夫なのでしょうか?」


 シルキーが恐るおそる司祭へと尋ねる。万能薬(エリクサー)と言ったらどんな怪我や病気でも治せると噂の超高級品だ。その原料になる薬草なんて売ったらいくらになるか計り知れない。


「もちろん、構いませんよ。そもそもこの部屋には、女神様がお招きになった者しか入れない魔法がかかっているのです。この部屋へと扉が繋がったことが、お二人があつい信仰心を持った善人である何よりの証。そんな方々をどうして女神様の使いである私が拒めましょうか」


 信仰心も何もどちらかといえば女神様には言いたいことが沢山あるのだが……。あ、だから繋がったとか?


 というか目立っちゃいけないのに、そんな部屋に招かれるとか司祭に目をつけられてなきゃいいけど……。ここはもう、さっさとお祈りを終わらせて本来の目的を果たそう。


 私とシルキーは、女神像の前に片膝をついて跪き、顔の前で両手を合わせて握り、目を閉じる。


(えーと、女神様。貴方が私をこの世界に呼んだのかどうかは分かりませんが、まず転生してくださるなら、何か事前説明が欲しかったです。言葉も分からず、見ず知らずの人間に生死を委ねるしかない赤ん坊にされる状況は結構キツイし、せめて言語チートぐらいは欲しかったです。


 あとリリアーナのことも! あんなに小さくて可愛くて優しくて良い子なのにお母さんと離ればなれで生活しなきゃいけない状況は酷いと思います。そちらの教会関係者のやらかしなんですし、何とかしてあげて下さい。


 そもそも、あんな小さな子一人に世界の命運を預けるのが間違っているのではないでしょうか? 結局何の物語かも思い出せないから、リリアーナがピンチになっても助けられるか分からないし、チートをくれとは言いませんが、せめてもう少し転生者の優遇特典を付けてくれても──)


「きゃっ」


「これは……!!」


 シルキーと司祭の驚く声で目を開けると、丸いマナの光がザワザワと揺れ、精霊草が今までよりもさらに強く光り輝いていた。

 そして、わたしの頭上には特大の光の球が出現しており、それがゆっくりと私の方へ近づいてくる。


「えぇ!?」


 何これ!? もしかして、不満ばかり言うから女神様怒らせちゃった!!??


 嘘嘘嘘優しい両親と天使のように可愛い妹に囲まれて毎日超ハッピーです!! もうリリアーナと出会えた奇跡こそが何よりの優遇特典ですよね!! ほんと感謝してます!! いやー女神様最高! だからマジで許して下さい!!!


 私がギュッと目を閉じて固まっていると、光の球は私を包み込み、そして私の中へと吸収されていった。

 おそるおそる、目を開けてみるが、私の体に特段変化は見られない。


「い、いまのは……?」


「加護です……」


「はい?」


 私は思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。


「女神様がお嬢様に、ご寵愛の証である加護を授けたのです」


 かご……? 籠? あ、加護か……。加護??????


「あの、それは具体的にどのような……」


「それは人によって様々ですので、私からは何とも」


 シルキーが司祭に尋ねるが、具体的な加護の内容は人によって違うらしい。


 ……確かに優遇特典が欲しいと言ったのは私だ。うん、それは間違いない。

 女神様はただ私の願いを叶えてくれただけだ。

 ただし、どんな加護かは分からない上に、私は今絶対に目立ってはいけない。


 そう、特に教会関係者の前では!!


「…………」



 今じゃないでしょ女神様ああああああああああ!!!!!

次回更新:11月20日(水)7:00

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