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11.婚約者

 リリアーナとお茶会をしてから5日程が過ぎた。


 私と母は、リリアーナとすっかり打ち解け、仕事でお茶会に参加できなかった父は、案の定拗ねた。


 自分も娘たちと仲良くなりたいと毎日プレゼントを送って来たり、ここ最近の努力が涙ぐましいので、次回開催する時はちゃんと誘ってあげようと思う。


「おはようございます! おねえしゃま」


「おはよう。あ、リリアーナもそのリボンにしたんだね」


「はい、おねえしゃまと おそろいです!!」


「すごく似合ってよ! 可愛い!!」


 リリアーナとの関係も今のところすこぶる良好だ。

 最近は、髪型や服装など何でも私のまねっこをしたいらしく、毎朝ロシュカに「おねえしゃまと おそろいがいい」とねだっているらしい。


 その話をロシュカから初めて聞いた時は、幸せを噛み締めすぎて菩薩の微笑みを維持したまま泣いた。

 オタク特有の誇張表現ではなくガチ泣きだ。リリアーナがその場にいなくて本当に良かった。


 そんな毎日幸せを届けてくれる私の天使様は、今日も早速、昨日の父の貢物であるお揃いのリボンを身に付けて、100点満点の笑顔で朝の挨拶に来てくれた。


「きょうも ごいっしょしても いいですか?」


「もちろん」


 最近の私とリリアーナは朝食を食べた後、図書室で過ごすことが多い。

 というのも、リリアーナはまだ屋敷の敷地外に出ることが出来ないのだ。リリアーナの護衛が中々見つからないらしく、外だけではなく庭にも子どもだけで出てはいけないと言われている。


 私は元々本を読むのが好きでよく図書室に籠っていたインドア派だから良いのだが、リリアーナは前のお屋敷では、使用人の子どもたちと自然の中を走りまわって遊んでいたらしい。リリアーナはお淑やかな見た目の割に木に登れる系令嬢なのだ。


 だからきっと、今の引きこもり生活はリリアーナにとってはしんどいだろうに、そんな態度はおくびにも出さない。


 せめて、私以外にも歳の近い遊び相手が居れば良いのだが、この家に私たち以外の子どもはいないし、今は人の出入りも厳しく制限されているから誰も遊びに来ない。子どもの健やかな生活環境としては今の状態はあまりよろしくないものなのである。


「そういえば あさってですね、おねえしゃまの こんやくしゃが いらっしゃるの」


「え? あー、そういえばそうだったね」


 手を繋いで図書室へ向かっている道すがら、リリアーナが話しかけてくる。そういえばもう1人いた。この家に出入りを許された子ども。


 クラウス・アーレンバッハ。アーレンバッハ公爵家の四男で、私の2つ上の7歳らしいから、リリアーナの遊び相手をするには少し大きい気もするが、まあ、大人とばかり遊ぶよりはマシだろうか。


「おねえしゃまは、おあいするの たのしみではないのですか?」


「うーん、だっていきなり婚約者って言われてもなぁ〜」


 そう、クラウスは婚約者なのである。

 誰の婚約者かって? 私の婚約者だ。つまり、クラウスは私とは結婚しない。何を言っているか分からないと思うが、異世界の婚約とは破棄されるものなのだ。


 だから正直、最初に話を聞いた時も厄介ごとの気配しかしなかったし、リリアーナに出会ってからはリリアーナのことで頭がいっぱいだったため、存在自体すっかり忘れていた。


 こういう場合の婚約者のタイプは、大概以下の2通りのどちらかだ。


 ひとつ目は我が侯爵家の地位や資産にしか興味がない、どうしょうもないクズ野郎タイプだ。

 我が家には現状、嫡子は私しかいないため侯爵の地位や資産は私か、私の結婚相手である婿養子が継ぐことになるらしい。


 父と母の選別に通った相手であるため、こちらのタイプの可能性は低いと思うが、万が一こちらだった場合は地獄が確定する。先ほどと言っていることが矛盾するが、家同士の婚約はそう簡単には破棄できない。

 実際父と母だって互いに好きな相手がいたのに、結局は政略結婚をして私が生まれている。


 この場合は数年耐え忍びながら、婚約破棄できるだけの証拠を集めて、相手の非を白日の元に晒すしかないだろう。考えただけで今から頭が痛い。


 もう一つは、非の打ち所がない完璧タイプである。乙女ゲームの攻略対象とかやってそうなアレだ。こちらの場合は、さらに私と結婚する可能性は低いだろう。なんせ、その場合、彼の運命の相手は私ではなく──


「おねえしゃま??」


「ううん、なんでもない!」


 図書室の前に着き、後ろに控えていたシルキーが扉を開けてくれる。

 私たちは靴を脱いでいつものラグの上に上がり、リリアーナはいつの間にか図書室に設置されていたおもちゃ箱へと駆けてゆく。


 でも実際、3歳児に惚れる7歳児ってどうなんだろうか。

 いや、別にすぐにそういう関係になるとも限らないか。なんせリリアーナはめちゃくちゃ可愛い。将来はとんでもない美女になることも確定している。

 共に過ごす内にだんだんと魅力に気付いて恋に落ちるという線も十分あり得る。


 17歳と21歳って考えたら……あ、だめだ前世基準だとまだ犯罪臭い。でもまあ、こちらの世界で考えたら十分あり得る年齢差だ。


「そうなると問題は、私の立ち位置だよなあ……」


 私は誰にも聞こえないように気を付けながら、小さく呟く。

 クラウスは表向きは私の婚約者だ。婚約破棄をするにしてもそれなりの理由がいる。


 もしもだ、もしも仮に本来の物語でリリアーナとクラウスが運命の相手であった場合、私の役割は2人の恋の仲を盛り上げるための悪役令嬢的ポジションなのだろう。


 リリアーナが、クラウスと一緒になることで幸せになれるなら、まあいい。

 あの可愛い可愛いリリたんを横から掻っ攫っていくのは非常に腹立たしいが、それがリリたんの幸せに繋がっているのなら、私は断腸の思いでそれを祝福しよう。


 しかし、それで私が断罪や追放をされてリリたんと一緒にいられなくなるのは困る!! なんせ私は、リリたんに、聖女になってもずっと一緒にいると約束してしまったのだ。

 リリたんがあれをどう思っているのかは分からないが、私は約束を破るつもりは毛頭ない。


 さて、では断罪・追放を避けるために、私が貞淑な淑女でいた場合はどうなるか。


 そう、私とクラウスが結婚することになる!


 私が! リリたんの運命の相手を!! 掠め取ることになるのだ!!!!


 私がリリたんの幸せを邪魔するなど、そんな極悪非道で悪魔に魂を売るような行為、絶対に許されるはずがない。


「何か対策を考えないとだよなぁ……」


「なんのですか?」


 いつの間にか今日のおもちゃを選び終えたリリアーナが戻って来ていた。危ない危ない。


「なんでもないよ」


 私は誤魔化しつつリリアーナが持ってきた人形を片方受け取る。


「ごきげんよう おひめしゃま。いっしょにぶとうかいに いきませんか?」


「あら、お誘いありがとうございます 隣の国のお姫様。ぜひご一緒させて頂きますわ」


 どうやら今日のリリアーナはお人形遊びの気分らしい。


 ああ、こんなに可愛いリリアーナもいつかお嫁に行ってしまうのか……。あ、そう考えたらやっぱりクラウスに腹が立って来た。


 そもそも本当にクラウスがリリアーナの運命の相手だったとして、婚約者がいるのに他にふらふらするような奴がはたしてリリアーナに相応しいと言えるのだろうか?


「やっぱり、事前調査が必要よね」


「?」


 動くならやっぱり先手必勝! リリアーナに相応しくないような奴だったら完膚なきまでに叩き潰してやる!!


 まだクラウスが運命の相手と決まったわけでもないのに、勝手に使命感に燃える私は、不思議そうにこちらを見上げるリリアーナを誤魔化しつつ、頭の中で着々と計画を練り上げていくのだった。

次回更新:11月15日(金)

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