表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/7

6話 騎士と剣って憧れるよね

 



 シルヴァと熱い握手を交わしたボクは、午後の授業の為にこそこそと空き教室で着替えをしていた。

 流石に男装がバレると困るので、一人で着替えが出来る場所を探していたら偶然見つけたのだ。


 元の世界で言う体育の授業は主に剣を扱う為、ご令嬢達はレースのパラソルを広げて優雅に見学をするのだ。

 見学しかしない体育の授業なんてそれでいいのか、なんて思うけど、お嬢様が体操服を着て走る姿というのはなかなかに想像が出来ない。いや、見てみたい気はするけれど……。


 そんな中で男子として授業を受けるボクは、想像していた体操服などではなく、適度にかっこよくて動きやすい騎士のような服装に腕を通す。


 確かにどんなに格好よく剣を振るっていても、体操服だったらスチルが台無しだもんなぁ……なんて、乙女ゲームらしい服装に笑みがこぼれる。


「おっ、リーリオ! いたいた! もう授業始まるぞ。どこに行ってたんだ?」


 どうやら、ボクを探してくれていたらしいレックスが手を振りながら向こうから駆け寄ってくる。


「ごめんごめん。別の部屋で着替えてたんだ」


「なんでわざわざ……」


 なんて言い訳をしようかとボクが俯いて考えていると、レックスは何かを察したように声をひそめた。


「……悪い。人に見られたくないってことは、なんか大きな傷跡とかがあるんだよな。気づかなくって悪い」


「え?」


 どうやら、ボクが言いづらそうにしていたのだと解釈してくれたようで、レックスは申し訳なさそうにボクの肩をぽんと叩いた。


 なんていい奴なんだ……。心配してくれたのに悪いけど、大怪我を追ってることにしておこう。


「そ、そうなんだ。子供の頃に拉致された時に、逃げようとしたら背中に大怪我を負わされちゃってさ。ちょっと皆には見せたくないんだよね」


 ボクのバカ。設定を盛ってどうするんだ。そんなの信じる奴なんかいないぞ、ほら、レックスだって呆れて……。


「そ、そんなことがあったのか……。辛いこと思い出させちゃってごめんな。それなのに、俺に話してくれてありがとな」


 あぁ、レックス。君はなんていい奴なんだ。

 ボクはレックスの単純さ……じゃなくて、純粋な心に感謝した。


「気にしないでよ! それより早く行こう! ボク、剣を持つのが初めてだから凄く楽しみなんだ」


「初めて……? あぁ、大怪我で今まで持たせて貰えなかったのか……。そうだな! こう見えて剣は得意なんだ、俺が教えてやるよ!」


「いいの? ありがとう!」


 初めての剣にわくわくと心を弾ませて、ボクは意気揚々とグラウンドへと駆け出した。




 ◇ ◇ ◇




「剣の握り方は反動で手を離してしまわないように、ここに力を込めて……。えぇと、こっちからだと分かりづらいな」


 なんということでしょう。

 キラキラと汗が輝くレックスのスチルをこんなに間近で拝めることになるとは。


 しかも、レックスが後ろから抱きしめるかのようにして、剣の握り方から教えてくれるという、乙女ゲームのヒロインではありえない状況に、ボクはテンションが上がっていた。


 凄い、新スチルだ!


「おい、リーリオ。聞いてんのか?」


 ニマニマと新スチルを堪能し過ぎていて、説明をしっかりと聞いていなかったボクを、後ろからレックスが覗き込んだ。


「ご、ごめん! 聞いてはいたんだけど、頭に入ってきてなかった!」


「なんだそれ。まったく……今度は理解しようとして聞いてくれよ?」


「うん、わかった」


 ピッタリとくっついた背中から伝わる体温にドキドキしながらも、流石に二度も説明をさせるのは悪いと、ボクは真剣に耳を傾けた。


 どうやら、本当にレックスは剣の心得があるようで、初心者のボクにも分かりやすいように噛み砕いて教えてくれた。

 感覚で生きるタイプなのかと思っていたから、丁寧な教え方にボクは内心驚きを隠せなかった。


「凄いよ、レックス! 分かりやすいし、なんだか強くなったような気がする!」


「おう、そりゃよかった。リーリオは結構筋がいいぜ。まぁ、強くなった気がすんのは気のせいだけどな!」


 わはは、と太陽のような笑顔で笑うレックスに思わずつられて笑ってしまう。


「俺の兄貴が騎士だからさ、よく稽古つけて貰ってたんだ。俺もいつか、兄貴みたいな騎士になるのが目標なんだ!」


 ボクは騎士団の制服に身を包むレックスを想像して、首がもげるほどに激しく頷いた。


「似合う! レックスだったら絶対になれるよ!」


「そうか?」


「うん! 一番弟子のボクが保証するよ!」 


「ははっ、なんだそれ。まぁ、あんがとな! ……じゃあ、一番弟子をもっと鍛えてやらないとな」


 そう言って、レックスがあんまりにも嬉しそうに笑うから、騎士団の制服を着て剣を掲げる姿を妄想して、似合うと言ったことは内緒にしておこうとボクは心に誓うのだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ