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1話 しつこい勧誘と悪役令嬢はお断り!

 



 今流行りの乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった私は、これがまだゲームの始まる前のオープニングだということに気づいて、潔く決意を固めた。


「よし、決めた! バックれよう!」


 白百合のような真っ白な髪、透き通るような瞳。儚くも美しいリリー・アスセーナの顔に似つかわしくない台詞を吐いて、私は一目散に学園の入口へと引き返した。


 完全無欠の金髪の王子様も、主人公をはれそうな性格の赤髪の同級生も、物腰の柔らかい紺色の長髪ポニテの先生も、攻略対象のイケメン達を一目見たい気持ちはあったものの、背に腹はかえられなかった。


「私の馬車は!?」


 白百合の家紋の馬車は、幸いにもすぐに見つかり、私は馬車へと駆け込んだ。


「お嬢様、どうなされたのですか? その……」


 馬車で待っていた侍女が、おずおずと私の身なりを指摘する。完璧な淑女であるはずのリリーが、髪を乱して走ってくるわ、足を広げて馬車に座っていれば、そういう反応にもなるだろう。


「お願い、何も聞かないで! 家に戻って!」


 なりふり構わない私のお願いに、侍女はふるふると首を横に振った。


「お嬢様、申し訳ありません。この学園に入ったら、お屋敷には帰らないのが仕来りですので……」


 そういえば、お嬢様や王子様がいる学校のくせに、全寮制だとかよくわからない世界観だったような気がする。

 この世界のご令嬢達は、ちゃんと自分で身支度が出来るのだろうか。


「お父様には私から伝えるから! お願い!」


 地面に頭を擦りつけてしまいそうな勢いの私に焦った侍女は、慌てて通信魔道具をお父様へと繋いだ。

 この世界に携帯電話みたいな、即時連絡できる手段があって本当に良かった。


「お父様! 私、この学園を辞めたいの!」


 確か、この父親は娘を溺愛している設定だったはずだ。私はきゅるんと上目遣いをして、可愛らしくお父様にお願いをする。


「おぉ、可愛いリリー。私だって、全寮制の学園にお前を入れたくはないんだよ」


「それなら!」


「けれど、この国で貴族が通える学園はそこだけなんだ。その学園を卒業したことが、立派な貴族としての証明になるんだよ」


「それなら……病気だって言って休ませて!」


「どうしたんだい、リリー。出席日数の管理があるのは、君も知っているだろう?」


 くそっ。何が出席日数だ。日本の学校じゃないんだったら、単位制に変えてくれ。

 心の中で悪態をつくと、私は他に手がないかを考えた。


「そんなに学園に通いたくないのかね、リリー」


「学園が嫌って訳じゃないんだけど……」


 ふと、私の中にある妙案が思い浮かんだ。


「そうか、私が()()()()()()()()()()()()()!」


 そう叫ぶと、私はお父様を必死に言いくるめて、必要なものを今日中に揃えるように侍女へとお願いをした。無茶ぶりとも言える内容だというのに、あちこち走り回って準備をしてくれた侍女達には、今度美味しい差し入れでも用意することにしよう。


「お嬢様がご乱心に……」


 嘆いている侍女を見て見ぬふりをして、私は馬車からぴょんっと足取り軽く飛び降りた。


「悪役令嬢が駄目なら、友人キャラになっちゃえばいいんだよ!」


 悪役令嬢リリー・アスセーナの明日は明るかった。




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