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第2話 出発の準備と因縁をつけてくる奴


 その翌日から俺は行方不明になった勇者アデルの捜索に出るための諸々の準備を始めた。

 レンドルが俺の所に来て任務を言い渡してから三日、あれからミノンは俺の所に顔を出していない。

 そう言えば勝負に勝った時の約束について何か話しかけていたけどそれは何だったのか?

 レンドルのあの只ならぬ威圧感に臆してしまったのか? 

 いや今はそれでいい、俺が繰り上げで勇者に成り勇者アデルの失踪の捜査に出るのは極秘中の極秘、ミノンに話す訳にはいかないからな。


 それで今は街中に繰り出している訳だが店を周って当面の携帯食料や携行薬、装備品などを買い出し袋に詰め込んだところだ。

 それを肩に担ぎ帰路に帰ろうとした時だ。


「おい、お前!!」


 掛けられた男の声に振り向く。

 そこには俺より少しだけ背の高いガタイの良い男が一人、腕組みをして仁王立ちしていた。

 はて? 何となく見覚えはあるのだが誰だっけコイツ?

 よく覚えていないという事は大した関係では無いのだろう。

 再び振り返り家路を急ごうとしたその時。


「てめぇ!! 無視してんじゃねーーー!!」


 その男が猛スピードで俺の前に回り込んできた。


「何だいあんた? 俺に用か?」


「なっ……お前……俺の事を覚えていないってのか……?」


 男は先ほどの威勢もどこへやら、ワナワナと震えたショックを受けている様子だ。


「俺だよ!! 勇者選抜試験の最終トーナメントで準決勝で当たったザイラスだよ!!」


 思い出した……そう、トーナメントでアデルと戦う一つ前、準決勝で俺と当たり俺が秒殺してしまった対戦相手だ。


「あーーー……どこかで見た顔だとは思ってたんだ」


「だったら無視しないで少しは俺に向き合えよ!!」


 頭から湯気が出そうな勢いで激怒するザイラス。


「いやそうは言うけど俺とお前はあの時が初対面だろう、久しぶりに会った親友の様に喜べるか」


「ウッ……」


 それを聞いて再び意気消沈するザイラス、感情の乱高下が激しい奴だな。

 だが今は旅立ちの準備で忙しい、正直構ってられない。


「ひとを引き留めておいて何の用も無いんなら俺は失礼するぜ、じゃあな」


「待て待てぃ!! 俺はあの時の屈辱を忘れた事は無い、飯を食っている時も風呂に入っている時も!! 寝ている時も!!」


「何だよ俺に惚れているのか? 済まんが俺にそっちの趣味は無いぞ?」


「ばっ……!! 馬鹿な事を言うなぁ!!」


 ザイラスは顔が真っ赤だ、コイツからかい甲斐があるな。

 

「ええい埒が明かん!! 単刀直入に言う!! 俺と勝負しろ!!」


「はぁ?」


 ザイラスは俺を指差し怒鳴り声を上げた。

 おいおい勘弁してくれよ、何度も言うが俺は忙しいんだよ。

 あ、コイツにはいって無いか、仕方ない。


「俺は仕事で暫くこの町を離れる、お前に構っている暇は無いんだよ」


 肩に担いでいる袋をザイラスに見せつける。


「仕事だと? まさか俺が怖くて夜逃げをする気じゃないだろうな?」


 腕を組みこれでもかという憎たらしい顔で俺を蔑むように見下ろしてくる。


「何でそう言う思考になるんだ? 馬鹿かお前は?」


 俺に試合で軽く捻られた癖に大口叩きやがって、ちょっとカチンときた。


「そんなに言うなら相手をしてやる、そこの空き地で勝負だ」


「そう来なくっちゃな!!」


 のっしのっしと蟹股で歩き空地へと歩を進めるザイラス、その後を俺は辟易した表情でトボトボとついていく。


「さてと、獲物はどうする?」


「街中で騒ぎを大きくしたくない、コイツで来い」


 俺は両手の拳を握り締めファイティングポーズを取って見せた。


「そうか!! ステゴロか!! いいぜ!!」


 ザイラスも両腕を高く掲げ戦闘態勢に入った。

 ガタイは圧倒的に相手が上、一見したらどう転んでもザイラスが有利と誰もが思うだろう、しかし俺は試合でコイツを簡単に倒している、どういう事か分かるか?


「うおおおおおっ!! 行くぞぉ!!」


 両手を上げたまま熊の様に突進してくるザイラス。

 試合では柄の長い斧を使っていたが素手でも戦法は変わっていないな。

 ザイラスは手を頭の上で組むとそのまま俺の頭に向けて振り下ろして来た、まるでハンマーの様だな、喰らったら一溜りも無いだろう、そう《《喰らったなら》》な。

 俺は素早くその拳を躱すと的を失った拳は激しく地面を打ち付ける。

 派手に砂埃が宙に舞った。

 

「ぐへぇ……」

 

 蛙を潰した様な呻き声が聞こえる、もちろんザイラスのものだ。

 砂埃が収まると徐々に俺とザイラスの姿がはっきりとしてくる。

 俺の右の拳が深々とザイラスの鳩尾に突き刺さっていた。

 俺が拳を引き抜くと奴の巨体はまるでスローモーションのようにゆっくりと崩れていき空き地の地面に顔から倒れ込んだ。


「お前全然進歩してないな、攻撃が単調で大振りなんだよ、どんな強力な攻撃も当たらなきゃ意味ねぇ」


「お……おのれ……」


 ザイラスなそう言い残すと白目をむき泡を吐いて気絶した。

 まったく余計な時間を取られたな、さっさと家に帰って旅の準備を再開しなければ。


 数時間後の夜。


「よし、誰も歩いていないな?」


 すっかり夜が更けて暗くなった路地をキョロキョロと辺りを警戒しながら進む俺。

 壁に背中を貼り付け、別の路地に進むと素早く身を翻しまた別の壁に背中を預けながら町の外を目指す。

 人通りのほぼ居ない夜道だからいいがこれが昼間だったらただの不審者だな、すぐさま町の住人に衛兵を呼ばれている事だろう。

 済まないなミノン、別れも言わずに旅立つのはお前の為、お互いの為だ、許してくれ。

 やがて町の出入り口にあたる門に差し掛かる、門には大きな扉が閉まっておりそこには槍を持った衛兵が警護に当たっている。

 流石にここは無理に通る事は出来ない、昼間であっても通行許可の無い者は通る事はまかりならないのだ。

 そこで俺は覚悟を決めて衛兵の前に姿を現す。


「貴様、何者だ? 怪しい奴め」


 衛兵は如何にも不審者を見つけたという訝し気な表情で俺に近付いてきた。


「……これを見せればいいんだろう?」


 俺は懐からある物を取り出す。

 鷲が大きく羽ばたいた様な細工が施されたアミュレットだ、首などに下げられるよう鎖が付いている。


「はっ、これは失礼しました!! どうぞご自由にお通りください!!」


 衛兵は先ほどとは真逆に俺を敬うような態度で接して来た。

 先ほどのアミュレットは勇者の証といい勇者である事を証明する身分証明書の様な役割を持っている。

 しかもかなりの権威があり今のように本来王族や貴族の許可が必要な状況であろうともそれを見せるだけで顔パスなのである。

 コイツはレンドルの持って来た金貨の入った革袋に一緒に入っていたものだ。

 これがあれば関所や各地の権力者などの謁見で許可待ちで足止めといった煩わしさから解放されるのである。

 知ってはいたが実際に効果を発揮するまでは心臓がバクバクしていたがどうやら取り越し苦労だったようだ。


 さてと、確か勇者アデルが最初に目指したのは北の方角にあるバスタの村だったな。

 アデルの足跡を辿りながらあいつに何があったのかを突き止めてやる。

 通った門が閉まる音が背後から聞こえる、俺はランタンに火を灯し一路バスタ村を目指すのであった。

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