戦闘
「少し待ってもらおうか」
ライラックが筋肉だるまに声をかける。
筋肉だるまはまだ多少の理性は残っているのか進行するのをやめて俺たちの方をくるりと振り返り見た。
そして、唾液を口からドバドバと垂れ流す。
「うわ、汚いな」
私は思わず声を出す。
そしてその唾液が落ちた部分が変色する。
何か特別な成分、毒成分か何かが含まれているのは間違いないようだ。
「体のいろいろな部分の性質が変化しているみたいだ。ほかにも何があるのかわからない距離は取っておこう」
「わかってるって」
私たちが話している間にあいつはまた前を向き進んでいく。
「おい、待てよ」
私たちが声をかけるとまた振り返る。
ここで私は確信する。
おそらくこいつに知性はもう残っていないのだと
こいつはただ単に私たちの発した声に反応しているだけだ。
これで人間に戻るかもしれないというわずかな希望はついえる。
こいつを殺す。
それしか選択肢は残されていないだろう
「ライラック、こいつはもう人間性を完全に捨てているようだ。殺すしかないが、それでいいな?」
「ああ、もちろんだよ。到底捕獲できる相手じゃないだろうし」
「同感だ。俺とお前の二人係でも些か不安だな」
こいつは全く原作に出てこなかった。
一体どうなっているんだ。
ここ最近、現作にないイレギュラーが多い。
まぁ、考えても仕方がない。ひとまずこいつを倒すことに集中しないとな。
「じゃあ、どっちが後衛を務める?」
「俺だ。接近戦はそこまで得意じゃない」
「わかった。それじゃ、私が接近戦を担当するよ」
そう言って二人で役割を分担する。
そして、ライラックは相手の無防備な背中を狙う。
「豪華なる火!」
一気に相手を含むあたり一帯を焼き付くす。
私のところまで熱風が伝わってくる。
なかなかの火力だ。
土煙がはれ、相手の様子が見える。
当然のように無傷。
おそらく、熱に対してもあの鎧は熱耐性があるのだろう。
「はは、多少は傷付いてほしかったな」
次の瞬間、相手の姿が変わる。
体を覆っている筋肉が触手のようになりライラックに押し寄せる。
だが、ライラックは相手の攻撃を辛うじてよける。
「ライラック耳を防いで横に離れろ!」
私はライラックに声をかける。
ライラックはその指示通り動いてくれる。
「即興物だけど、効いてくれよ!」
私は自分の能力『生成』でバズーカーを作り出した。
大きさとしては片方の型で担げるぐらいのサイズだ。
即席ということもあってそこまで大型ではない。
なので1つでは心細かったので3つほど生成し、弾薬も作った。
毎日大量の武器を作っているおかげで生成速度は桁違いに早くなっている。
おそらく、この世界で見てもトップクラスだろう。
だが、相手はあろうことか私が放った砲弾を爆発する前に、触手の形を変えてキャッチした。
そして、私の方に投げ返してきたのだ。
「噓だろ!?」
私のところで爆発する。
「クルーゼ!」
ライラックが私の名前を呼ぶ。
っぶね~。
私はあらかじめ作っておいた金属の壁を発動した。
間に合うかどうかかなり賭けの要素もあったが何とか砲弾が爆発する前に何とか取り出せた。
一進一退。
まさにそう言える状況だ。
相手も私たちも無傷。お互いに決定打にかけている。
「このままじゃらちが明かない。フルスロットルで行くからついてきて」
そう言ってライラックは、消える。
先ほどまでとは比べ物にならない速度。
おそらく、速度だけなら相手を上回っただろう。
「悪いが勝負をつけさせてもらう」
空気を思いっきり後ろから出して相手の態勢を崩す。
今の相手の体重は優に100キロを超えているだろう。
その相手がずんと倒れる。
そして倒れたところは泥になっている。
相手は体全体が泥につかり、身動きができなくなっているようだ。
「うぐるぁ、ごがぁ!」
否、わずかにだが前進している。
このまま泥上になっているところから抜け出すつもりなのだろう。
「ワイゼル!」
私の名前が呼ばれる。
その声はひっ迫しており、焦っていることがわかる。
「OK。時間稼いでくれてあんがと」
作ったのは前々から試してみたいと思っていた0距離ミサイルだ。
名前の通りの効果を発揮することができる。
見た目は真っ黒ないかついフォルムをしている。
7メートルほどの大きさがあり、本来は地面に固定するための鉄線が4本ある。
だが、今は下は泥沼で鉄線をさしても安定しないだろう。
なので4本とも動けなくなっているこいつの筋肉の下にある骨の部分に打ち込む。
「ごるぁ?!」
さすがに骨に金属を撃ち込まれたのは痛かったのかそんな悲鳴を上げる。
そして発射口を筋肉だるまの筋肉に直付けする。
中では3メートルほどのミサイルが回転を始める。
「こいつの威力は半端ないんでね。実際に使ったことは今までないんだ」
中ではあまりの速さで赤い火花が飛び散る。
金属と金属がぶつかり合うキーンという耳鳴り音のような音がする。
「ごる、ゴルァ、ゴわぁ!」
さすがにまずいと判断したのか泥から抜け出そうとする。
だが、先ほどよりも泥の部分が広がっており、抜け出すためにはかなり動かなければならない。
しかし、そんな時間を与えてあげるほど私は甘くない。
「よっしゃぁ、十分回転つけれたな。発射!」
私はスイッチをカチッと押し、その場から離れる。
その瞬間、止めていたミサイルが一気に加速され外へ押し出される。
その時の速度は音速をはるかに超えている。
そのまま筋肉だるまの筋肉に突っ込む。
多少硬いものの所詮は筋肉。
音速を超える金属に耐えるほどの強度はない。
当然ながら天然の鎧を破壊し、彼の体内に突っ込む。
「ぷぎやぁ!?」
その悲鳴のわずかコンマ数秒後、体内から爆発を起こす。
相手の体は一瞬でブクブクと膨れ上がり、パァンと大きな風船が割れたような音をさせて、真っ赤な液体が悪臭と熱風を放ちながら付近に飛び散る。
そして、金属の破片も飛び土煙が舞い起こる。
私は事前に作っておいた金属の壁の後ろ側に隠れておく。
びちゃびちゃと壁の外側の部分に様々なものが付く音がする。
徐々に土煙がはれ、視界が確保され始める。
私はまだ相手が生きているかもしれないことを考えて壁に隠れながら相手の様子をうかがう。
それらしき姿は確認できない。
確認できるのはかつて筋肉だるまだった肉片の塊だけだ。
「どうやら、倒せたみたいだな」
「みたいだね」
私は敵が死んでいることを確認してふぅと息を吐き、安心する。
これでこの兵器がいかに強力であるかがわかったな。
とはいえ、この兵器を使える機会は限られている。
なにせ、相手が動かないでくれないとしっかり固定できず、ミサイルを打ち込むことができないのだ。
もちろん、近くで爆発するだけでも効果はあるのだが、やはり体内から爆発させなければ、あまり効果は期待できないだろう。
だが、ひとまずは……
「もう少し体内に威力が押し殺されるように改良しないとな」
見渡す限り一帯に肉片が飛び散っている。
これは後片付けが大変だろう。
異臭も漂っており、何とも嫌な空間ができてしまっている。
「ワイゼル、もう少し肉片が飛び散らないようにできないのかい?」
そう言ってライラックが私に声をかけてくる。
私がライラックの方を見ると、そこには血まみれになっているライラックがいた。
全身真っ赤で声を発していなければ、誰なのかわからなかったぐらいにだ。
それを見て思わず私は叫ぶ。
「ライラック、大丈夫か!」
もしかして私の攻撃の影響だろうか。
彼は私と違って金属の壁など作っていなかったから爆風が直撃しただろうし。
全身に金属の破片が降り注いだのかもしれない。
そう思い、私は少し焦る。
「いや、これ全部返り血だから大丈夫だよ」
「そ、そうか」
どうやら私のはやちとりだったようだ。
ホッと安堵のため息をつく。
ここで死なれたらたまったものではないからな。
「それよりも私は一度寮に戻ってシャワーを浴びたいかな。さすがにこの状態で授業を受けるというわけにはいかないからね」
「そうだな。じゃあ、いったん戻るか」
そう言って私たちが踵を返そうとしたところで呼ばれる。
俺たちはくるりと振り返る。
そこには30ぐらいの見た目のお姉さんが立っていた。
「君たち、ここで戦いがあったそうなんだけど、戦っていたのは君たちかな?」
「はい。私たちのことだと思いますがどうかしましたか?」
「そうか、話を聞きたいから少し来てくれないかな」
「分かりました」
そう言って私たちは彼女の後について行く。
そして、学院長室に入っていきましたとさ。