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入学試験3 

結局、あれからまともな試合ができたのは数人だけだった。

しかもそのほとんどが試合にはなっていた者が全員負けてしまった。

そして、私の番が回ってくる。


相手になるのはマリと呼ばれていた教師だ。

彼女はあれから数戦したものの体のどこにも傷を負っていない。

魔力も見たところ8割は残っているだろう。


「それじゃ、かかっていきなさい」


そう言ってマリはいつものように俺に先行を許す。

そこで私は原作のセリフを言い放つ。


「いや、あなたからでいい」


「なんですって?」


「聞こえなかったのか?来い、と言っているんだ」


「……っ、王子様は優秀だって聞いていたけど、ただの自信過剰な人だったみたいね。じゃあ、お言葉に甘えて」


そう言って彼女は魔力をため始める。

ヒェッ。

思わずそんな声が出そうになるほどの殺意マシマシの攻撃。


カッコつけて言ったが、大丈夫なんだよな?

私は今更不安になる。

だがそれを表に出すことなく口元には微笑を浮かべる。


「偉そうに笑って、それほど余裕ってことね。見ていなさい、今にその笑みを崩してあげるんだから」


そう言って彼女は俺の方に手を差し出して唱える。


「風の大砲ウィンドウズ・バズーカー


次の瞬間、何かが来る。

目には見えない。だが、それは確かに来る。

私の髪をブワッと上げながら。


その見えない何かは次の瞬間爆発を起こす。

辺り一帯は砂煙が巻き上がり見えない状況になる。


「ゲホゲホ、みんな大丈夫か?!」


「あー、疲れた」


講師陣たちも困惑の声を上げる。

受験者たちはその様子を見てみんなは同じことを思う。


『王子、死んでないよな?』


先ほどの攻撃は桁違いのレベルだった。

少なくともあんな魔術は先程までの受験者との戦いでは使っていなかった。


如何に王子が稀代の天才だと言ってもまだ13歳。

子どもであり、実戦経験も乏しい。

そんな王子にあんな攻撃を打つなんて……

そう誰もが思っていた。


「おお、素晴らしいものだ」


だが、砂煙が晴れたところからはかすり傷一つない王子が出てくる。

それを見てみな一様にほっと一息つく。

それはこの攻撃を放ったまりもまた然りである。


少しイラっとしたことと、彼が稀代の天才と聞いていたので大丈夫だろうと心のどこかで思っていたことで魔術を打ってしまった彼女。


少し怒りっぽいが彼女も一応しっかりとした大人。

打ってしまった後でこれはまずいと気が付いた。


ここは国立の学院。

それを出しているのは王国。

当然ながら、王の許可を得て資金を出してもらっている。

だが、その王の子供をその学院の講師が殺してしまった。


そんなことになれば、資金を打ち切られる可能性が高い。

学院は廃校せざるを得なくなる。

そして、彼女は王子を殺した殺人鬼として処罰される。

もっと言ってしまえば、公開処刑をされるだろう。

その影響は家族にも及び、平穏な生活を送ることは不可能だろう。


だが、彼は生きていた。

その事実に彼女は安心するとともに驚きもあった。


魔術とは術式と魔力の掛け算によって導き出された結果である。当然ながら術式が良ければ魔力が少なくとも規模の大きい魔術を引き起こせる。それは魔力が多くても同様のことが言える。そして先ほどの攻撃には自身の魔力の4割を使った。それだけの攻撃だったわけである。


事実今までこの攻撃で多くの敵を屠ってきた。この攻撃を受けて無傷だったのは彼が初めてである。どんな相手でも当たれば必ず傷をつけてきた。

それを彼は無傷で受け切った。

その事実に彼女はぶるっと身震いをする。


「では、こちらの番かな」


そう言って相手が構えようとしたのを彼女は手を彼に向けて辞めさせる。

そして、彼に言う。


「OK。もう、あなた合格よ」


「なっ……正気か?」


「我々1人だけでは合格を出せる立場ではないでしょうに」


周りはざわめく。というのも受験生の合格を決めるのは一人の教師だけでなく複数の教師が試験の結果を見て判断するからである。それ故に、結果が出るまでに1か月も要する。


にもかかわらず、この教師は一人で勝手に合格判定を出したのだ。

それはその受験者を認めたことでもあるわけだ。

その事実にほかの教員は驚きを隠せない。


「マリ正気か?」


「ええ。教師である私に勝ったのよ?実技試験は満点と言わざるを得ない。

これで50点は確実よ。

例年であれば、もうこれだけで合格点を超えているでしょう?」


「まぁ、そうだな」


「それに……」


他の教員たちはマリのもっともな説明に黙る。

マリはワイズル・クルーゼである私の方を見る。

そして、薄く笑みを浮かべる。


「まだ余裕がありそうだし」


「それでは合格だな?」


私は彼女に問う。

彼女は私の問いに返答する。


「ええ、そうよ」


マリは私に答える。

私はそれを聞くと、元居た列の後ろに並ぶ。


「今年の主席は決まったかな?」

「そうですね」


教員たちは私の後姿を見ながらそんなことをつぶやく。


怖かったぁ。何なんだよ、あの攻撃。反則だろ!?

受験者に対してあんな危険な魔術をぶっ放すやつが講師なのか?

受かったとしても、どんな学生生活が待ってんだよ。


何が『OK。あなたはもう合格よ』だ。

合格してもろくなことが待っている気がしない。

そのうえ『今年の主席は決まったかな?』だと?

主席になったらまたなんかやべぇことが起こるんじゃねえの?


おっと、怖かったからつい口調が荒くなってしまった。

そんなことを心の中でつぶやく。

表では自信満々な笑みを浮かべている。

我ながら大したポーカーフェイスだ。


先程の攻撃だが、私は予め作っておいた複数の金属の壁で防いだのだ。

だが、まさかあらかじめ作っておいた金属の壁全てを壊されるとは思っていなかった。

結局、壊されている間に新しい壁を作って対応するしかなかった。

それでも大部分は壊されてしまったが……


視線を先生たちの方に戻すと、ライラックが戦うようだった。

剣を持ち、先生の方に構える。

相手はあの大柄な男の先生だ。


「来なさい」


相手がライラックに声をかける。

それに対して、ニコッと笑い返答する。


「では、お言葉に甘えて」


そういって木剣を教師めがけて付く。

当然ながら相手はそれを難なくかわす。


「こんなものか?」


そう言って後ろに回り込み、ライラックに手を伸ばす。

だが、ライラックは後ろにいる教師に手を向ける。

すると風がコメリの手から出て教師の体を吹き飛ばす。


「お、おお」


まさか大の大人が飛ばされるほどの出力を持っているとは思わなかったので、教師は戸惑う。

そのすきをコメリは逃すことなく剣で突く。


先ほどと同様かわそうとするが、足元が動かない。

男性教師の足がコンクリートにはまってしまったかのようになっている。


「先ほどと同じだと思って足元の警戒を怠りましたね」


ライラックはそう言って脇腹めがけて剣を振る。

教師はそれを受けようとするが、体勢が悪く受けきれない。

結果、剣は彼の脇腹に直撃する。


「ごへっ」


先生はわき腹を抑えてその場に崩れ落ちる。

そして、顔の方に剣を向ける。


「降参してください、先生」


「ま、参った。降参だ」


どうやら彼も先生に勝ったようだ。

さすが、の一言しかない。

ワイズル・クルーゼに唯一、単独で追いついて来ていたライバルの実力は本物だ。


ライラックの実力は何といってもその魔術だろう。

風と土のどちらも使っているかのように見えただろうが、彼の魔術は一つだ。

彼の魔術は『模倣コピー


ありとあらゆる魔術を使う事ができる。

条件としてはその魔術を実際に見て、理解すること。

なので、見たとしてもその魔術の術式があまりにも難解すぎると理解できず、使いこなせない。

だが、彼は頭がいいので大抵の魔術は見たら使えるのだ。

周りの先生は教師がまた負けた光景を見て驚いている。


「なっ、また生徒が教員に勝った……」

「過去一番で優秀かもしれないな」「魔術を二つ使わなかったか?」

「今年の一年生は豊作すぎるだろ……」


そう、私たちの世代は過去一という評判を原作でもされていた。

彼のほかにも全体的に優秀な人が例年よりも多かった。


そして、お決まりだが、こういう世代には名前が付けられるのである。

私たちの世代は『黄金世代ゴールドジェネレーション』と言われていた。

何とも恥ずかしい名前である。


というか、ああいう世代名って誰が決めるんだろうか?

やっぱり、教師?いいや、いい大人があんなネーミングセンスか?

あんなのをつけるとしたらやはり、まだ幼い学生たちだろう。


私がそんなことを考えているうちに、ほかの人の試験は終わる。

そして、試験監督の教師が私たちにねぎらいの言葉をかける。


「それでは本日はこれにして試験を終了とさせていただきます。

皆様お疲れ様でした。

試験結果は約一か月後に郵送いたしますのでそれを見て各自入学初日までに必要な準備を整えておいてください。

それではここで各自解散ということで」


そう言って彼は去る。

やっと、終わった~。

私は肩を回してぱきぽきと音を鳴らす。

そして、迎えに来てくれているセバスの方へ向かう。


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