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入学試験2 

 私も休憩する。

 まだ13歳の子供にはこの受験のプレッシャーはなかなか重いのだ。(中身は全然違うが……)

 私は肩を回して肩の凝りを取る。

 肩を回していると一人の生徒が話しかけてくる。


「やぁ、初めまして。もしかして、ワイズル・クルーゼ王太子ですか?」


 私はその人物の方を見る。

 誰なのかわかっていたが、それでも実際に見るとこみあげてくるものがある。


 白い髪に黒い目。加えて透き通ったようなきめの細かい肌。

 顔立ちは非常に中性的だが、中身はしっかりとした男の子である。

 元女性の私から見てもう、美しいと漏らしてしまうほどだ。


 彼の名はライラック・サイゼル。

 後にワイズル・クルーゼの親友となる人物だ。


 彼の実家は公爵家。

 いくつか存在する公爵家の中でも特に力を持っている家柄だ。

 彼はそこの長男である。


 いわゆるお坊ちゃんであるが、いわゆる世間知らずな子供ではない。

 それには彼の実家の教育方針が関係している。


 サイゼル家のモットーはノブリスオブリージュ。

 高き地位に生まれたのならば、それ相応の責務を全うしろ。

 そういう考えなのだ。


 そこの長男として生まれた彼は厳しく指導された。

 だが、彼もまた私、ワイズル・クルーゼと同様に類まれな才能を持っていた。

 ワイズル・クルーゼと立場が似ていることからも、比較的すぐに仲良くなった。

 まだまだ語りたいこともあるが、彼についての話はひとまずここでは終わりにしよう。


「ああ、そうだよ。君はライラック・サイゼルかい?」


「驚いた。まさか、こちらの名前を知っていらっしゃたっとは」


「君は有名人だからね。それに特徴的な白い髪に黒い目、気品のある立ち居振る舞い。パッと見ただけで誰なのかわかったさ」


「それは、どうも。それではそろそろ試験が始まりそうなので、ここらへんで」


 そう言って彼は去っていく。

 私も実技試験が始まる前にトイレに行き、用を済ませる。

 すると、前に立っていた教師が口を開けてしゃべりだす。


「それでは、実技試験を始めたいと思う。

 ひとまず、この教室から退室して、訓練場へ行こう。

 話はそれからだ」


 そういうとその教師は教室から出ていく。

 私たちはガタッと音を立てて、席を立ち先生の後について行く。

 ぞろぞろとついて行き、開けた場所に出る。


「ここが訓練場だ」


 そこはいわゆる学校のグラウンドのようなところで、日光が照り付けている。

 地面には柔らかい砂が敷かれており、転んでも痛くないだろう。

 建物からグラウンドに先生は降りる。

 私たちもそれに続いて、訓練場に降り立つ。


 訓練場にはすでに数人の教師が訓練場に立っている。

 見たところ30代ぐらいの中堅の教師たちだろう。

 みなそれぞれ木製の剣や弓、魔術の本、杖などの武器を持っている。

 そして、私たちを案内していた教師がくるりと振り向き、俺たちの方を見る。


「それでは訓練の説明を始めていきたいと思う。

 実技試験では緊急時の対応力を示してもらいたいと思っている。

 だが、そもそも基礎的な力がないと話にならない。

 なので、ひとまずはここにいるわが学院の教師陣と打ち合ってみてくれ」


「あのぅ」


 そう言って一人の生徒が手を挙げる。

 教師はその生徒に発言するように促す」


「打ち合う、という事は剣を使って打ち合うということですか?」


「ああ、いえ、少し言い方が悪かった。

 打ち合う、というのは魔法でも剣術でも君たちの得意なもので攻撃してくれ、ということだ。

 ここに木製の武器があるから好きに使ってくれて構わない」


 そう言って近くの箱から武器などを取り出す。

 そして、受験者達は受験番号が若い人から順に始めることになった。


 1人目の受験者が相手にするのは大柄な男の教師だ。

 筋肉質で服から見えている腕は太くごつごつとしている。

 肩幅は広く、胸板は分厚い。

 肩も筋肉のせいか尋常ではないほどに隆起している

 身長はおそらく2メートルは超えているだろう。


 まるで大人と子供だ。

 受験者は見たところ15,16歳で一応大人だろうが、相手の教師と比べるとどうしても子供に見える。

 特に受験者を彼とでは横幅が二倍ぐらい違う。

 彼はにこにことさわやかに笑いながら言う。


「よし、かかってきなさい。本気でかかってきても木で作られているので大丈夫ですよ」


 そう言ってその体格にふさわしい大きな木剣をくるくる回す。


「っ、行きます!」


 そう言って彼は剣を持って彼に突進する。

 彼の動き自体は悪いものではない。

 むしろ、年の割には優れているといえるだろう。

 ただ、強いて言えば相手が悪かった。


「おっと」


 相手は受験者の剣を片手で受け止める。

 わき腹を狙った攻撃だったが、剣をつままれて簡単に止められた。


「ぐぎぎ」


 受験者は精一杯剣を動かそうとする。

 だが、本気で動かそうとしても彼の指2本の腕力にはかなわない。

 顔を真っ赤にしていると教師が言う。


「やれやれ、怖いものだ」


 そう言って教師は受験者のみぞおちに素早くこぶしを入れる。

 すると、受験者の体は宙に舞い、顔をたたき、地面にたたき落とす。


「ごへっ」


 受験者はうめき声をあげる。

 そして、そのあとピクリとも動かなくなる。


「ああ、心配せずとも、死んでなどいない。

 ただ、気絶しただけだから心配しないように」


 先ほど私たちを案内していた教師がそう告げる。

 そういうが、受験者たちは顔を引きつらせている。

 あるものは失禁してあるものは顔を青ざめている。


「さて、次は誰かな?」


 先ほどの教師が次の受験者の方を見る。

 次の受験者は小さい女子の受験者だった。

 大きな男性が小さい女子受験者の方をらんらんとした目で見る、という構図になっている。


 女子受験者は足をぶるぶると震わせている。

 まるで、蛇に睨まれた蛙だ。


「ちょっと、受験生の子たちを怖がらせてどうすんの」


 その男性に杖を持った女の人が声をかける。

 男性教師は視線を女の人の方に向けて謝る


「お、すまん、すまん。つい無意識のうちにな。だが、マリだって時々こうするだろう?」


 マリと呼ばれた女性は返答する。


「いやいや、それは敵とかの場合にはね。でも今は入学試験でしょ?時と場合を考えなさいって話」


「それはそうだな」


 男性の方は女性に説得される。

 そして、女性の方は先ほどの受験者の方を見て声をかける。


「良ければ、私が相手してあげるわよ。それでいい?」


 女子生徒はコクコクと頭を上下する。

 マリはニコッと笑う。

 そして、女子生徒と向かい合い、声をかける。


「先に魔術を打ってもいいわよ。


「ありがたいです。水魔術……」


 受験者は魔力をため、彼女の頭上に水の塊が現れる。

 そして、教師の方に両手を差し出して構え、狙いをつける。

 私たち王家からしたらそこまでだが、一般人からすれば文字通り奥の手だろう。


水圧力ウォーターズ・プレッシャー!」


 その瞬間、水の塊がはじけたかと思いきやいくつもの小さい水の塊になり、まっすぐに彼女の方に軌跡を描きながら凄まじい速度で飛んでいく。だがその軌跡はスルッと不自然に曲がり、全て教師にあたることなく、後ろの地面に直撃する。


 地面で当たったところはぽっかりとそこだけ穴が開いている。

 どれだけ、その威力がすごいのかはその穴を見たらわかるだろう。


「フー、危なかった」


 その穴の方を見ながら教師はそうつぶやく。

 対する受験者はというと絶望的な表情をしていた。

 それはおそらく、彼女の魔力が枯渇寸前だからだろう。


「そんな、なんで外れるの?私は確かに……」


 下を向き、ぶつぶつつぶやいている。

 魔力が尽きても何か武術に秀でていればまだ希望はあったかもしれない。

 だが、彼女の体つきは到底何かしらの武術をしているものではなかった。


 ペンよりも重いものを思ったことがなさそうな細い指。

 苦労したことがないようなしわのない肌。

 あまり筋肉のない、脂肪もない体。

 これでは相手の攻撃を素で防ぐのは無理だ。


「じゃあ、私の番ね。風球ウィンドウボール


 彼女の方に手をかざして放つ。

 目に見えないが確かにあるその球体上の物は彼女の体にクリティカルヒットする。

 小さい体の彼女はなすすべなく吹っ飛ばされる。


「ぶへっ」


 そう言ってから白目になって気を失う。

 その様子に対して男性教師が声をかける。


「マリ、お前俺に怖がらせるなとか言っておいて自分自身は手加減してやらないんだな」


「あら、私は怖がらせるなと言っただけでしょ?試験と威圧するな、というのは別問題。試験になったら容赦なくやるのが普通でしょ」


「それはそうだが……」


「それに小さくてかわいい子を見つけるとついついいじめたくなっちゃうものでしょ?」


「鬼だな……」


 そう言ってマリは笑みを浮かべる。

 それに対して若干引きつつ飽きれた顔を男性教員はする。


 これがマジカル学院の講師の実力か!


 私は思わずそのレベルの高さにうなる。

 国一番の学院で生徒を教える教師。

 有名な貴族の出身地の多くはマジカル学院だ。


 未来の国を担うであろう人を輩出する。

 それを学院側もわかっているので、当然講師陣たちも当然ながら手練れぞろいだ。


『有事の際は下手に腕っぷしのあるやつのところへ行くではなくマジカル学院へ行け』


 施設や力のある人のいるマジカル学院の方が頼りになるという意味である。

 原作でもその実力は確かなものとして信じられていた。

 生で見ると彼らの技術の高さに驚かされる。


「面白い」


 原作通りのセリフを私はつぶやく。

 これと戦うのか!

 と思い、身震いをする。


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