入学試験1
ついに、入学試験を迎えた。
やれることは全てやった。
後はどれだけ私の実力を発揮できるか、だ。
「クルーゼ様、お支度が整いましたか?」
「ああ、今行く」
セバスの声を聞き、私はそれにこたえる。
そして、用意された馬車に乗り込む。
それに続いてセバスも同じ馬車に乗り込む。
乗り込む際に後ろをちらりと見る。
そこには誰もいない。
誰も私を見送りに来ていないのだ。
やれやれ薄情なものだ。
妹がどこかに行こうと馬車に乗ったら、様々な人が見送りに来るというのに。
私は改めて自分と妹の差を痛感する。
「それでは向かいましょう」
そう言ってから、セバスは馬車遣いに発車の命を出す。
俺とセバスは馬車に乗り、揺られながら出発する。
しばらく馬車に揺られる。
うん?妙だな
私はそう思う。
王族が移動するとなったら民衆が押し寄せる可能性があるので路地裏を使った。
ここは原作通りだ。
そのあと原作では、路地裏を高貴そうな馬車が移動しているということで路地裏にいた不良どもが馬車を襲うはずなのだ。
そして、それをワイズル・クルーゼがぼこぼこにして圧倒的な力を示す。
そんな感じだった。
だが、今は全く不良に襲われる気配がない。
どういうことだ?
ここにきて原作と違う展開になっている?
些細な事でも原作と明確に違うことは今までなかった。
これは、何かあるかもしれないな。
私はそう思い気を引き締めた。
それから少しして私たちはマジカル学院に到着した。
馬車は学院の門の前に揺れを感じさせないように繊細につく。
私は馬車から出ると、伸びをして体の凝りをほどく。
すると、私のもとにある人物がやってくる。
ここは原作通りだ。
「始めまして。僕の名前はバッキング・バーグ。これからよろしくお願いします」
バッキング・バーグ。
伯爵家であるバーグ家の跡取りだ。
この世界には家の格式ごとに順位がある。
まぁ、みんなが大体想像している通りだが紹介しよう。
1番えらいのはもちろん私たち王族。
それに続き、王族の近い親戚にあたる公爵。
続いて、王族から見て遠い親戚の侯爵。
ここで一段区切られる。
ここからは王族の親戚ではない。
いわゆる武功を収めて成り上がった人たちだ。
武功で成り上がれる最上位の位、伯爵。
続いて子爵、男爵という形だ。
見た目は茶髪で優しそうな顔をしている。
第一印象としては優しそうな好青年だろう。
しかし、本当の性格は2重人格ともいえるほど表と裏の性格の差がある人物なのだ。
表ではこんな風にやさしく接している。
だが、裏では陰口を言ったり、気に入らない相手を虐めたりしている。
何とも陰湿なやつなのだ。
こうやって近づいてきたのも私が王子だと知っているからだ。
私は王宮どころか、決められた場所からほとんど出ていないのに、なんで伯爵ごときが王子の素顔を知っているのかって?
簡単だ。先ほど乗っていた馬車の模様が王家の物だから、私が王族であると分かったのだろう。
王家の文様は天使の羽が後ろに数組書かれており、中央に王家の人間が描かれているのだ。
そして、私の見た目から年齢を推察すれば大体私が誰なのかわかるというわけだ。
王族、それも王位継承権第一位と親しい。
この事実だけで、貴族社会では甘い蜜を吸える可能性が高いからな。
「ああ、そうだな。だがお前も俺もまだ受かっていないから何とも言えんがな」
「その通りでございますね」
「それではな」
俺はそう言ってその場を去る。
彼は俺の後ろ姿に軽く礼をする。
彼は伯爵家で俺は王族。
王族は伯爵以下とはあまり気楽にしゃべってはいけない。
そんな暗黙のルールがこの国にはある。
主な理由としては血縁関係にないからだろう。
何かしら血がつながっていれば有事の際助け合う。
だが、血が全くつながっていない赤の他人は有事の際裏切る。
そんな何とも古臭い考えがこの国には残っている。
原作ではそんな設定だったはずだ。
「クルーゼ様、わたくし目はここまでしか来れません」
セバスは建物の前に立ってそういう。
私はくるりとセバスの方を向いて言う。
「セバス、行ってくる」
「ええ、行ってらっしゃいませ」
そう言って私は校舎の中に入っていく。
最初にあるのは筆記試験からだ。なので、受験する部屋へと向かう。
原作通りに堂々と道の真ん中を歩く。周りの人は、私の服にある王家の紋章を見てわきに逸れていく。
そして、自分の受験する部屋に入る。
部屋の中は少しピりついている印象を受けた。
やはり、みんな緊張しているからだろう。
私の方へ向ける視線も好奇のものが大多数だ。
勉強をするために参考書を見始める。
大部分は覚えているが、時折抜けているところがある。
そういった箇所をきちんと頭の中に入れる。
「大丈夫だ」
口に出して私は自分自身を落ち着かせる。
やはり、わたしも緊張しているのか汗を少しかいている。
情けないものだ。
原作のワイズルはもっと堂々としていたというのに。
そして、トイレへと席を立つ。
トイレへ向かう際に廊下にいた人たちはどれも正気ではない。
あるものは足取りがおぼつかない中歩き、あるものはぼそぼそとつぶやいていた。
トイレの中に入ると、トイレの個室ではトントンと壁をたたく音がする。
やっぱり、みんな緊張具合が半端ではないな、そう思いながら用を済ませる。
用を済ませて席へと戻り、私は再び参考書を開く。
「それでは、皆さま今から筆記試験の説明をさせていただきます」
しばらく参考書を見ているとそう言って講師が入ってくる。
見た目はひげの生えた初老の男性だ。
背筋はピンとしており、礼儀正しくきちんと歩いている。
私はそちらに目をやり開いていた参考書を閉じる。
そして、彼は説明を始める。
長々と説明していたが、要約するとカンニングをするな。
何かあったら手を上げろ、ということだ。
「それでは、皆さまに試験用紙を配らせていただきます」
そう言って和退社参考書をしまい筆記用具だけを机の上に出しておく。
問題用紙が私たちに配られる。
今はまだ裏返して、問題が見えないようになっている。
「それでは、はじめ!」
その掛け声と同時にみんな一斉にひっくり返す。
私もひっくり返し、問題を解き始める。
カリカリ。
そんな音をしながら私は問題用紙に書き込んでいく。
なかなか難しい。
分からないところは飛ばして、わかるところを先に書いていく。
一周したタイミングで時間をちらっと確認すると、既に30分を過ぎている。
そして、今埋める事ができているのは6割程度。
このままいけば合格ラインには届くだろう。
だが、慎重にいかねばならないだろう。
入試は何があるかわからないのだから
私は残りのパッと見ただけではわからなかった問題の方を解いていく。
難しい。
問題文を何度も読み直すがどうしても解けた!と思えない問題が残ってしまう。
ちらっと時計を見ると残り時間はすでに3分を切っている。
私はこの解けない問題を捨てることに決め、すでに解けた問題の見直しをする。
「そこまで!」
そんな声がして試験が終了する。
私はペンを置き、試験を回収されるのを待ち、フーと息を吐く。
大体8割ぐらいは埋める事ができた。
見直しもした。
どんなに悪くても5割。
良かったら、8割を取れていることも間違いないだろう。
私は自分の力が確かなものだと思いヨシッと手で拳を作り、小さくガッツポーズをする。
「それでは少しの休憩の後に、実技試験のある部屋まで移動します。10分後には今と同じように席に着席しておいてください」
そう言われて私を含め、受験者のみんなはひとまず緊張を解く。
そして、10分後までの間各々の好きなように過ごし始める。