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意外と大変

「クルーゼ様、お父様からの伝言を預かっております」


ある日、私の執事であるセバスが私に言う。

もう、そんな時期かと思いつつ、私が実力を示した日から5年たったのだから、そんな時期だろうと一人で納得する。

私が実力を示したあの日から父は私と顔を合わせることはほとんどなくなっていた。


息子の力を見て恐怖したのだ。

あの子の力はこの国どころか世界を滅ぼしかねない。

父はそう考えた。

だが、あの子の力を使えば、この国は大きく発展できる。同時にそうも考えた。


なので、あの日から父は私に武器を作るように命じた。

私は渡された武器の設計図を見て大量の武器を製造した。

その要求は日に日にエスカレートしていった。

1日に10個から20個、30個、50個……とどんどんたくさんの武器を要求された。

だが、そのことごとくを余裕ですべてクリアして見せた。

原作では、この時点ですでに50万を超える武器を私一人で作っていたはずだ。


その結果としてマジカル王国は瞬く間に武器の供給国として大国になった。

また、味方の兵にも作った武器を渡したりしているので軍事力も世界トップクラスになっているそうだ。


王は自分の無茶すぎる要求をすべて完遂する息子を見て、ますます恐怖した。自分よりも優れていると思い、自分に自信がなくなっていった。

そして、息子を自分と同じ人間と見れず、ついには『気持ち悪い化け物』と言ったことを息子に聞かれ親子の溝はより一層深まるのだ。


しかし、あの後直ぐに私には妹が生まれた。

妹はごくごく平均的な才能しかもっていない妹だ。

だが、その妹を父も母も愛した。


いや、愛したというよりも安心したのだろう。

年の割に、やけに大人びており、実力はすでに世界最上位、大量の武器を作り国を支える息子。

そんな自分たちの手に余る規格外の存在よりも常識の範疇に収まる、いわゆる普通の子供の方が安心して可愛く見えるのだ。


私は前世で見たから知っているが、その妹をこの世界では見ていない。父がどんな影響があるかわからないとして私と妹を合わせないようにしているのだ。


そして、愛情を全く注がれなくなったワイズル・クルーゼは表面上は変わらずふるまうが彼の心は少しずつ蝕まれていく……


そんな感じのストーリーだった。

そして、原作通りに私はすべてふるまっている。

これは彼が闇落ちした原因の一つになっていたはずだ。私は思い出しつつ、セバスに尋ねる。


「それで、父上からは何と言われているんだ?」


なんと言うかはわかっているが私はあえて聞く。

セバスは私の質問に答える。


「はい、国王様からはマジカル学院へと進学なさるようにと言われております」


「マジカル学院か……」


進学するのかどうかはもう決まっているのだが、わたしは原作通りあえてつぶやく。

そして、少し考えこむふりをする。


マジカル学院。

学校の名前で我が国の名前を冠していることからもわかる通り、この国で最も優れているといわれる学院だ。3年制で卒業試験を受けて受ければ見事合格というわけだ。最も優れていると言われているだけあってこの学校の卒業者というだけで貴族社会では一目置かれる。


倍率は10倍ほどで、毎年1000名ほどの受験者がたった100席の合格の椅子を勝ち取るために受験する。

だが、入学してからも大変で卒業試験では半分は落とされて留年となるのだ。


一般的には大人になったタイミング、15歳で受験するはずだ。

この世界では15歳から大人として扱われる。


だが、私はまだ13歳だ。

受験できないわけではないが、それでも2年違ったらいろいろ違うだろう。


その理由としては私の妹の存在だ。

妹は今年で5歳を迎える。

5歳ともなればそこら中を駆け回るようになる。


王宮は広いとはいえ、わたしとどこで会うのかわからない。かと言って、歩き回るな、と溺愛している娘には言えない。なので、目障りな私を立ち退かせようというわけだ。


「なぜ、父上はこのタイミングで言ってきたんだ?」


「はっ。あなた様が優秀だから、王宮では特に学ぶことがないだろう、と。なので、学院に行かれてはどうでしょうか?」


もちろんこれは建前だ。

さすがに、妹のために去れ、などと言えないからだ。


だが実際に、この王宮にある本はすべて読みつくしてしまった。

なので、原作では新たに学ぶために学院に行くことを了承したはずだ。

私は忠実に原作通りにふるまう。


「分かった。学院へ行こう。それで聞いておきたいのだが、その間の武器の作成はどうする?さすがに学院に通いながら武器を作ることは不可能に近いが……」


「それに関しては、問題ありません。寮暮らしをして頂き、武器製造専用の建物が学院に建設されているそうなので、そこでおつくりくださいとのことです」


「はぁ」


私はため息をつくのを忘れない。

今や、武器売買はこの国を支える重要な産業だ。

それを失うことはこの国の痛手になると考えたのだ。


やれやら、虫のいい話だな。

お前と妹を合わしたくないから王宮からはされ。

だが、この国のために今まで通り奉仕し続けろ、か。だが、わたしにとって都合の良い話でもある。

この王宮は少し心苦しい。


それにしても、ストーリーはわかっていたが、なかなかつらい。

誰よりも努力しているのに、ほとんど認めてもらえない。

それどころか、腫物のような扱いを受けている。

私が同じ立場だったら発狂して力を使い理不尽な扱いをしたやつら全員を殺すだろう。

ワイズル・クルーゼはよくこれに耐えれていたものだ。

13歳とは思えないほどの忍耐能力の高さだな。


「武器の受取人がそこまで向かうから今まで通り作ったものを受取人に渡してくれたらそれでいいそうです」


「はぁ、分かった」


私はきちんとタイミングを見計らって返事をする。

私はめんどくさそうに返事をしたが、実は学院に行くのは楽しみである。

悪役が主人公ということもあってどうしてもストーリー自体が少し重くなって初見の時は少し憂鬱な気持ちになった。

だが、この後に始まる学院編では、そこまで憂鬱ではないので好きだ。


「受験の日程は今から半年後でございます。必要とあらば、家庭教師も付けますがどうなさいますか?」


「いや、いいよ。ありがとう」


「かしこまりました。それでは」


そう言ってセバスは退室する。

私はフーと息を吐く。


心配があるとすれば自分は受験に受かるのか、ということだ。

何せ、どんな問題が出るのかを知らないので合格できるか不安だ。

まぁ、それが普通なのだけれど。

何分、今まで全て原作を読んである程度知って行動していたせいで、より一層不安だ。


マジカル学院の入学試験では試験を二つ受ける必要がある。

筆記試験と実技試験。

配点は50点ずつで合計100点満点で出される。

試験時間は筆記は50分で実技試験は年によって時間が変わる。例年では合格点は30点台前半から30点台後半だ。


決して受験者がバカで実力がない奴だらけというわけではない。問題が難しすぎるのだ。年によっては最高得点が50点を切ることもあるぐらいだそうだ。


筆記試験は基本的なマナーや計算読み書きなど幅広く試される。

実技試験は年によって異なるそうだ。

それを教師が見て採点をするという内容だったはずだ。


この試験は原作では深く触れられずに、ワイズル・クルーはが首席で合格した、と書かれたぐらいだった。


そう、首席で、だ。ここが難しいところだ。

合格するだけなら地位もあり、前世の知識もある私は普通に勉強すればまず落ちないだろう。

だが、首席で合格できるか?となると話は変わる。


この試験を受ける人の年齢制限はない。

なので、年の取ったたちも受ける事ができる。

当然ながらこの世界で長く生きた人の方が要領を得ているだろうし、そういう意味では若い私は不利なのかもしれない。


だが首席で合格しなければならない。

そうでなければいくつかのイベントが発生しなくなってしまうのだから。

それは嫌だ。あの世界観を壊されたくはない。


本当に王宮の本すべての内容は頭に入れてあるとはいえ、受験は必ずしも勉強を多くした奴が受かるわけではない。

馬鹿なやつでも運がよくてたまたま受かるやつもいれば、賢いが勉強したことが全くでなくて、落ちてしまう、なんてこともある。

先ほどは原作通り家庭教師を断ったが、大丈夫なのだろうか。


いや、そんなことを心配してもしょうがない。

時間はまだある。私は勉強に取り掛かり、その不安を払拭する。


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