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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

とある呪いのお話

感情の名前はまだ分からない

作者: 高月水都

タイトルの当初の予定は、愛は不変と言うけれど。とか、打算無しで愛は語れない。とかにしようか迷った。


唐突に変更するかも。

「う~ん。呪術王の呪いって鎧まで効果あるなんてマジサイコー。いっぺん会って見たかったわ」

 うきうきと鎧越しに触れてこようとするが触れれない現状にクルルは楽しげに声をあげて笑っている。


「ほんと面白い!! 下着一枚の状態でも鎧でも変わんないなんて。呪術王の呪いってほんと才能ある~♪」

 何度も何度も試して笑っている様に苛立ってしまう。


「いい加減にしろ!!」

 人の不幸がそんなに面白いのかと近くの机を思いっきり叩くと机の上に乱雑に置かれていた道具が飛び落ちていく。その際、金属の破片が当たって痛くはないが顔をしかめると、

「やっぱ、物はぶつかるんだね~。――ちょっと鎧脱いでみて」

 クルルは近くに置いてあった眼鏡を掛けて、口調を変えて告げてくる。


 どうやら、本気になったようだな。


「ほらよ」

 慣れた手つきで外すと、クルルはすぐに受け取ってそれをしげしげと観察する。


「やはり、外せば鎧としての感触はある。ヴァンに触れようとしたのは確かなのに触れれなかったのが嘘みたいだ」

 まじまじとシルバーグレイの瞳でどこか異変はないかと調べる眼差しは完全に鍛冶師のそれ。探るようによりを持つ褐色の指先には鍛冶をしてきた職人の火傷痕やらがしっかりある。そして、魔力の痕跡を調べようとしているのは魔法に自信がある者としての矜持も感じる。


 クルルはドワーフとダークエルフのハーフで、ヴァンの愛用の武器も鎧も冒険者として登録したころから………いや、物心がついた時には幼馴染……いや、腐れ縁としてずっと傍にいたので、彼女の作品は呪術王を倒す時に神の武器を使用していた時以外は常に使っていた。


「うん。異常なし。ただ使い続けた劣化部分があるから手入れさせてもらうよ」

「助かる」

 丁度頼みたかったのだと鎧をすべて渡す。


 重さのあるそれをドワーフの血ゆえか軽々と持ち上げて、作業台に置いていく。


「手入れ終わるまでどうする?」

「当然、キララに会いに行くつもりだ」

 呪いがあってもなくても久しぶりの実家に戻ってきたのだ、キララに会わないと言う選択肢はない。


「今日こそキララに頷いてもらわないとな!!」

「………ああ。一人前の冒険者になったら結婚してくれ~ってあれ。あんたどんだけ姉ちゃんが好きなの」

 クルルが呆れたように告げてくるが視線は鎧に向けられたままだ。


 クルルの姉であるキララは同じドワーフとダークエルフのハーフであるはずなのに、クルルはどこまでもドワーフの特徴を前面に出したちんくしゃなのにキララはダークエルフの特徴が前面に出た妖艶な美人なのだ。


 そんなキララが初恋で、キララに告白した時。

『じゃあ、ドラゴンの鱗を手に入れて見せて♡』

 と言われたので冒険者になった。


「そんなの世界が終わるまで愛していると言えるぞ!! 俺のキララに対しての愛は不変だ」

 と自慢げに告げると。


「愛は不変ね~。それはそれはご立派です事」

 馬鹿にするような口調なクルルの言い分に苛立つ。


「何が言いたい」

「えっ~。頑張ってドラゴンの鱗をみせたらすんなり『ちょうだい(はぁと)』をされて奪われて、『今度はカーバンクルの宝石が見たい~(はぁと)』と言われた人が居たな~と思いましてね~」

 さっきまでの真面目さはどこに捨ててきたんだよと言いたいくらいの揶揄うような口調に、

「いいんだよっ!! キララに俺の思いは伝わっているはずだ。キララならきっと呪いを解いてくれる!! どこぞの誰かと違ってな!!」 

 お前には期待していないと喧嘩口調で告げるとさっさとクルルの工房を出ていく。


「さて、呪術王を倒した褒章もあるし、それでキララに何か贈ろう」

 キララもきっと喜んでくれるはずだ。


 


「すご~い!! まさか、呪術王を倒した英雄って、ヴァンもだったんだぁ~」

 キララの勤めている食堂に行き、お土産を渡すとキララが嬉しそうに笑ってくれる。


「ああ。そうなんだ~」

 キララに褒められるのが嬉しくて、その時の話をせがまれる。その話を面白おかしくしようとしているとすごいすごいとキララが俺の身体に触れようとして、

「あらっ?」

 するっとすり抜けてしまった。


 ああ、呪いの影響か。

「えっ、えっ⁉ 今の何、気持ち悪いけどっ」

 慌てるキララに、

「大丈夫だよ。ちょっと呪いの影響で……」

「はぁ~!? 何それっ!! 近づかないでよ!!」

 嫌悪感満載の声。


「き…キララ……?」

 信じられない。キララならきっと呪いを解いてくれると信じていた。だからそんな汚い者を見る目を向けられるなんて思わなかった。


「呪術王の呪いでしょ!! 私も呪われたらどうしてくれるのよ!!」

 さっきまでの嬉しそうに笑っている様が嘘みたいに気味悪がっている様子に他の客がじろじろと見てくる。


 ………忘れていた。

 英雄の仲間たちは全く影響ないから。

 この国の王太子は呪いに掛かっていても気にせずに接してくれていたから。

 仲間の一人であるガルディンは呪いを解いてくれた妻に出会っていたから。

 ……クルルが呪いを笑い飛ばしてくれたから。


 自分が……自分たちが掛けられていた呪いが忌避されるものだったと言う事実を。


「――悪かった。金はここにおいてく」

 迷惑料込みで、大目において店を出ると、店の中から声が聞こえてきた。


「いいのかよ。いい金づるだったんだろう」

 頭をハンマーで叩かれた気分だった。


「いいのよ。背は低いし、顔もあんまり格好いいわけでもないしね。まあ、冒険者としていろんな物を貢いでくれたから傍に置いただけ。どうせ英雄様ならイケメン騎士様で有名なアークライル伯爵がいいわよ。あ~あ。結婚しているのよね~残念」

 ………先日まで醜く見える呪いを掛けられていたガルディンの名前が挙がり、キララの今までの態度が偽りだったと言うのを知ってショックが大きかった。


(ガルディンが呪いを解けたのは奥方のおかげなのに……)

 もしかしたら自分も呪いが解けるのではないか。そして、キララなら解いてくれるのではないかと期待した分彼女の言葉が信じられなかった。

 

 そして、そんなキララが自分を好きだと思っていると……愛は不変だと言い切っていた自分の心が砕かれた気がした。



 とぼとぼとぼと歩いて、クルルの工房に戻ってきていた。

「お帰り~まだ手入れ終わってないよ~」

 邪魔にならないように髪をお団子に縛って、金属を叩いているクルルはキララと姉妹だが、全く似ていないと改めて思う。


 キララは見た目重視で着飾っているが、クルルは飾り気が一切ない。


「なあ」

 作業に集中しているのを邪魔しないように気を付けて、声を掛ける。

「なんでお前は俺の呪いを気にしないんだ?」

 かんかんかんとハンマーで叩いている音だけが響く。


「………なんで今更」

 綺麗に直されていく鎧。

 言葉を選ぶように考えながらそれでいて作業の手を止めない。


「いいだろう。さっさと教えろよ」

 今更と言われて確かに突っ込まれてもおかしくないと気付いたが、必死にごまかすように答えを求める。


「う~ん。呪いに興味あったからと言えばそうだし。呪いに挑むのも面白そうだと思ったんだよね~」

 呪い効果無効の装備を作ると言うのはある意味挑戦だしね。


「で、なんで急に? あんたが手入れ終了時間前に戻ってくるとはフラれたの?」

 流れる汗を布巾で拭きながら作業の手を止めてこちらを見てくる様に、

「悪いかよ」

 と不貞腐れたようにそっぽ向く。


 そっぽ向いて、さっきまでのショックが嘘みたいに普通の会話をしている自分に驚かされた。


「いや、悪くないけど、教えなかったあたしも悪いしね」

 鎧に錆止めの加工をしていく。


「嘘だろ!! 愛は不変だとか思いは伝わっていると散々豪語していたのにその結果がこれで笑えばいいじゃいつも通り笑って面白がれよ!!」

 自虐気味に嗤うと。


「普段のあんたのキャラじゃないからやめたら」

 一刀両断される。別に慰めてもらいたいわけでは……いや、慰めてもらいたかった身としてはそんないい方されるとますます落ち込んでしまう。


「今だから言うけど、姉ちゃんはあんた以外にもおねだりしていたのよね」

 言うのを躊躇いつつも今まで隠してきた事実を教える様に、少し前の自分だったら信じないと喚くか、どうして教えてくれなかったんだと八つ当たりをしたんだろう。だけど、今まで黙っていたことが気を使ってのことだと気付いた。


「そうなのか……」

「そう」

 キュッキュッと磨く音だけだが響く。


「愛は永遠だっけ。あんたが言っていたけどさ」

「不変だと言っていたんだけど。てか、なんだ急に」

 作業は止めない。


「不変なんてあるわけない。愛情も武器も鎧も」

 綺麗に磨き終わった鎧の部品が机に置かれる。


「武器も鎧も、戦い方もその時によってどんどん進化していく。愛もまた状況で変化するでしょう」

 その言葉と共に見せられる鎧は、手入れというだけではない改良されてある。


「ヴァン。少し体大きくなってきたから鎧を改良したから」

 着心地を確かめろと言われたような気がして、順番に着けていく。うん。着心地はいい。前よりも……。


「変わる事などないから、まあ、そのうち呪いも解ける……とまではいかないけど、変化していくのを期待したら?」

「どういうことだ?」

 何を言いたいんだと首を傾げると。


「そのうち呪いを無効化する防具を作るよ。あたしじゃ絶対無理だと言ったのを撤回させるためにね」

 鎧を着こんだこちらを見て、最終チェックをする様クルルの姿をぼんやりと見ながら。


「………俺はキララなら呪いを解けると勝手な事を思ったな」

 キララが俺の貢がせていたのだったら呪いを解いてくれるはずだと期待していたこっちも似たようなものだったなと反省すると。


「何言っているの。最初は何でも打算でしょう。そこからどう打算でなくなるかは関係を作って初めて言えるものよ」

 人として突っ込みどころ満載なセリフを言ってくるクルルに対してについ笑ってしまう。


 恋とか愛ではないだろうけど、呪いというのがあってもなくてもクルルは気にしない。その態度がいかに幸せな事だと気付いたからこそ。


(じゃあ、そのクルルの態度を変化させてやる)

 と思い付いた。



 ――その感情の名はまだ分からない。でも、その感情に名前が付く時に呪いに変化が来るのはお約束と言えるだろう。

ちなみにヴァルはドワーフに間違えられるほど背がちっちゃい

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