幕間4 燃眼三騎士・後
秘密を知る人間は少なければ少ない程に良い。増えれば増える程に秘密は漏れやすくなる。それがラペの考えだった。常に慎重――包帯とサングラスで過剰に正体を隠す程の用心深さを持つ彼ならではの意見だ。
一方、ロントは記憶を消す事に反対だった。
「ボクは反対だ。記憶を消すなんて乱暴な真似、本当に出来るとは思えない。記憶そのものを弄るんじゃなくて、夢として忘れさせるっていうカラクリなんでしょ? 何かの拍子で思い出されたら取り返しの付かない溝が生まれる。
……それに、記憶を消された彼女に普段通りに接する事なんてボクには出来ない。だったら、協力非協力は別として、記憶は消さない方が良い」
「うーん……」
ロントの言い分も分からないでもないとラペは唸る。ラペやゾヘドと違って彼女はすのことは友人だ。友人の記憶を消す事に賛成の筈がない。
「全く……面倒な事になったもんだ。まだ『まつろわぬ民』の事も解決出来ていないっていうのに」
「ルトがすのこ達と戦ったボスエネミーが言っていたっていうアレ?」
「あっ、その単語、私も別のエネミーを倒した時に聞いた事がある。何の事かって聞き返す前に消えちゃったけど」
ゾヘドが言う通り、『まつろわぬ民』を自称するエネミーは幾つか目撃情報が出ている。大抵は倒された時、消滅間際に恨み言のように口にしているのだという。しかし、それ以上の異変は起きていない為、今の所は大事になっていない。プレイヤー間でも次のイベントの伏線程度にしか認識されていないようだ。
だが、
「『まつろわぬ』って言い回しからして、十中八九連中だろうけど。問題は連中が何を目的としているか、だ」
「うん。『誰が?』は明白。『どうやって?』は気になるが、問題じゃない。『どうして?』こそが最も気掛かりだ。何故連中はエネミーの中に潜り込んでいるのか。潜り込んで、何をやろうとしているのか」
実態は『まつろわぬ民』は運営が意図しての登場ではない。むしろ運営にとってはイレギュラーな存在なのだ。運営側の立場にある『燃眼三騎士』がこうして警戒する程の不可解だ。
連中とは何か。彼らは一体何を企んでいるのか。
眉間にしわを寄せて考え込むラペとロント。そんな二人にゾヘドはあっけらかんとこう告げた。
「まあ、それを今、私達が考えていても何にも分かんないでしょ。分かんない事を考えるのはやめにしましょーよ。それよりも今日は、兎にも角にも目の前の祭に集中しないと」
「そうだね。結論を出すには情報が少な過ぎるよ。ボク達だけじゃなくて運営だって考えてはいるだろうし。今は保留にするしかないか」
庭園の向こうから三人を名を呼ぶ声が聞こえた。チクタクマン社のスタッフだ。世界観に溶け込めるよう騎士の姿をしている。もうすぐ始まるイベントの最終打ち合わせをこれから行おうと三人を呼びに来たのだ。スタッフの姿を見た三人は頷き合い、スタッフの元へ行く。
「すのこちゃんの件もイベント後に考えれば良いか。勝ち負けが決まってからでも遅くはないっしょ」
「確かに。それに、開会式は気合を入れなくちゃいけないからね。もう気持ちを切り替えていかないと」
「よおっし、張り切って行くぞー!」
三者三様、しかし三人とも意気軒昂。
揃って唇を弧に描き、イベントへと足を進めるのだった。