#33 ロンルトてぇてぇ!!
「はぁー……。強かったな、こいつ……!」
剣を床面に突き立てて支えにし、マイがぼやく。
確かにこのゾンビは強かった。勝った事には勝ったけど、泥沼の勝利だった。ルトちゃんの最後の魔術が間に合っていなければ全滅もあっただろう。本当に紙一重だった。
「……ロント!」
ルトちゃんが駆けていき、少女に抱き着いた。
「……良かったよぅ。本当は、外でおっきな骨に襲われた時はもう駄目かと諦めちゃっていたの。それがまさかゾンビまで倒せるなんて。ロントを助けられて本当に良かった……!」
「ったく、オーバーなんだよ、アンタは。これはあくまでゲームだっていうのに。……有難う、ルト」
「……ん」
少女がルトちゃんを抱き返す。今この瞬間だけは二人の世界が出来上がっていた。
「はぁ~……生『ロンルト』……! 尊い、尊い過ぎて心臓ないなりそう……!」
そんな二人を間近で見て、私のときめきゲージはMAXにまで達していた。思わず涙を流しながら合掌して拝んでしまう。てぇてぇ、ありがてぇてぇよぅ……!
「『ロンルト』って何だよ?」
「ん? ああ、あの二人のコンビ名だよ」
ボーイッシュな彼女の名は夜凪ロント。人呼んで『招き猫』ロン。企業勢のVTuberだ。
ヒプノス・Cに所属するルトちゃんとは違い、彼女はチクタクマン社に所属している。マナちゃんと同じ会社だ。そんな所属グループが異なる二人だが、仲の良さはファンの間ではかなり有名だ。箱を越えてのコラボも何度もしている。
それ故に二人には公認のコンビ名がある。それが『ロンルト』だ。
日本人は何でもすぐに略したがる。特に四文字に纏めたがる。だから、この二人のコンビ名はロントちゃんとルトソーちゃんの二人の名前を合わせて略してロンルトだ。
カップリング名でもあるのだが、さすがにそこまで行くとファンの妄想だ。決して本人の前では口にしてはいけない。それはあくまでも公認じゃないからね。リスナーとしてのエチケットです。
「――すのことマイだね」
とルトちゃんと抱き合っていたロンちゃんが私達に顔を向けた。




