#101 影使いラトfeat.シリウス
シリウスの思考が回復する方が早かった。【影渡】で即座にその場を離脱。私の矢殴りを回避する。
『【影渡・重】――』
シリウスの体が消え、私から向かって右に現れる。かと思ったら左に現れ、また消えて、奥に手前に背後にまた右にと連続で移動した。私の視点を右往左往させる事で攪乱しようというハラか。
ランダムで高速移動したシリウスが最終的に私の左後ろに立つ。刃が空を滑る。左手の矢で弾く。お返しに右手の矢で殴るが、シリウスが退く方が先だった。後方に跳躍したシリウスに矢は届かない。
着地と同時にシリウスが右手を床に着ける。
『――【影抉】!』
直後、背中に強い衝撃を受けた。
見れば、影が騎槍のように尖って伸び、私の背中を刺していた。黒い切っ先が右胸下を貫いている。赤黒い閃光が散り、【殺意の兆し】が発動した事を示していた。私のHPがゼロになる。
「かはっ! ……ぁああっ!」
影槍が霧散し、前のめりに倒れる私の身体。それを踏み出した右足で強引に支える。【凶つ星の首飾り】の効果で蘇生したのだ。
その代わりに状態異常:ゾンビになってしまったけど。このままでは【初級治癒魔術】が使えない。早くゾンビ状態を治したいけど、回復アイテム使っている暇があるかどうか。回復アイテムを使うには『冒険者教典』を開かなくてはならない。
『ん……? これは毒か』
シリウスが自身の異常に気付く。私の装備品【血紋の手袋】によって状態異常:毒を与えられたのだ。毒状態を治さない限りじわじわとHPは減少していく。
『長期戦は危険だな。「冒険者教典」を開けば回復アイテムはあるが……』
ちらりとシリウスがこちらを見る。回復アイテムを使いたいのはお互い様。でも、その為に教典を開けば隙になる。二人ともスピードタイプだから隙を作る訳にはいかない。揃って容易にアイテムを使えない状況だ。
『それにしても、一撃で死んだか。【殺意の証】があるとはいえ、やはり貴様は紙装甲だな』
「【殺意の証】?」
『【殺意の兆し】の先にあるスキルだ。人体急所に攻撃を当てれば、一〇〇パーセントの確立でダメージを四倍にする。防御力の低い貴様では過剰に致命的だろう』
「成程。何人も殺人をしてきた証って事ね」
負の努力の結晶か。決して褒められたものじゃないけど、むしろ外道の所業だけど。ラトにも積み重ねてきたものがあったという訳だ。いや本当に褒めらんないけど。
『首、頚椎、脇の下、心臓、肝臓、鳩尾、股間、太腿……人体は急所だらけだ。そのどこにも一撃も喰らわずにいられるかな?』
「……喰らう前に貴方を倒してしまえば良いだけの話でしょ」
『言ったな。ならば、やってみせろ』




