#91 急襲
「良いから。貰ってくれないと私がマナ様に睨まれるから。貰ってよ」
「そう言われても……」
この【ダマスカスの幻想剣】は私の【八目星の浮遊靴】やラトの【受肉人形・似】よりもレア度が上だ。そんな高級武具をおいそれと受け取る訳にはいかない。
それに、ゾヘドさんは戦士・剣兵だ。この剣を受け取ったらゾヘドさんの武器がなくなってしまうんじゃないか。
「ああ、それなら大丈夫。それ、私のメインウェポンじゃないし。レア度が一番だったからアイテム比べにはそれ出したけど」
……だそうだ。
いや、そうは言われてもまだ遠慮はある。それにそもそも私、戦士・弓兵だし。剣を貰っても仕方ないというのもある。換金なんてとても出来ないし。……あ、いや、それについてはアレがあるか。
「二倉すのこってうちのラペと同じ戦士・弓兵なんでしょ? だったら、あの技は習得している筈だよね? もう20レベルなんだし。それに使えば良いじゃん」
確かに。ゾヘドさんが言うあの技なら剣は使える。となれば、私が断る理由が私の遠慮以外にはもうない。……仕方ないか。
「では、慎んで頂きます……!」
「うむ。良きに計らえ」
ゾヘドさんから大剣を手渡される。いやはや、まさか三本勝負でこんな賞品を貰える事になるとは。恐縮だ。
ゾヘドさんと目が合う。彼女が微笑んだので私も思わず笑みを返した。少しは認めてくれたという事で良いのだろうか。良いよね、きっと。そう思っておこう。
何だか心の奥がほっこりする。そんな時だった。
ズシンッ、という重低音が唐突に響いた。
「な、何……!?」
その場にいた皆が顔を見合わせる。重低音は何度も何度も響く。その都度に音が少しずつ大きくなっている。音の主がここに近付いてきている証拠だ。
ルトちゃんが不安そうな表情で辺りを伺う。マイもラトも警戒の表情だ。ゾヘドさんもロンちゃんもラペさんも険しい騎士の面持ちをしている。マナちゃんさえも困惑しているのだから、この重低音が運営の想定内ではない事が分かる。
その時、ラペさんの腰元から振動音が聞こえた。『冒険者教典』の着信だ。本を開いてラペさんが通話に出る。
「俺だ。どうした?」
『た、大変です、ラペさん!』
通話先の声は男性だ。私が聞いた事がない声で、ラペさんの連絡先を知っているという事は、恐らくスタッフの一人だろう。彼は非常に慌てた声でこう告げた。
『魔城兵が街に向かってきています! しかも八体も!』