くらえ! ネトラレーザービィィィム!
フハハハハハ! 僕は天才だ! 凡人達とは頭の出来が違う。
苦節十年、艱難辛苦を乗り越えてとうとう完成したのだ。
僕――堀部忠士は日本……いや、世界の歴史に名を刻むことになるだろう。
この――ネトラレーザー砲の開発者として。
1年前、僕は空気中から精神に多大な影響を及ぼす――NTR粒子を発見した。
このNTR粒子は、皮膚に定着すると人に心変わりを起こさせる。
彼氏持ちの女の子にNTR粒子が定着すると、彼氏以外の男を好きになってしまうのだ。もちろん彼女持ちの男も例外ではない。
だがこの粒子、中々定着しない。させようと思っても簡単にできるものではなかった。
1年におよぶ研究の末、僕はNTR粒子を定着させる方法を見出した。
レーザービームだ。レーザーを用いて皮膚を焼くなんて話があるように、粒子をレーザービームとともに射出し、皮膚に焼き付けるのだ。
近所の野良猫で試したところ、成功率はなんと100%!
実験は全て成功。発情期を迎えた猫達は一度として同じ猫と番なることはなかった。
されど、人間に対してはまだ試せていない。今日初めて実験する予定だ。
ターゲットは学年一の美女、大石千紗さんだ。
大石さんに直接的な恨みはない。恨みがあるのは大石さんの彼氏、守木煕だ。
守木もまた学年一のイケメン。女の子達から性格もよくて素敵! なんて言われている。
だがそれは表の顔で、裏では僕のことをいじめている。僕をパシりに使ったり、僕の財布からお金を抜き取ったり、最悪なやつなのだ。
そんな男に可愛い彼女がいるなんて許せない! 僕が大石さんを寝取ってやる!
おっと、心の声が漏れ出てしまった。いけないいけない、慎重にことは進めないと。何せ初めての実験だしね。
お! 丁度いいことに大石さんが放課後の教室で1人黄昏ているぞ! これは大チャンスだ!
「くらえ! ネトラレーザービィィィム!」
キュピィィィン!!
★☆★☆★☆
『いいなぁ。千紗は守木くんと付き合ってるんでしょ? 私もあんなイケメンの彼氏ほしいよ』
うざい……。
『ねえねえ、千紗は守木くんとチューしたの?』
うざいうざいうざいうざいうざい!!
勝手に煕と付き合ってることにするな! 鬱陶しい!
煕はただの幼馴染だ。あいつと私は別に付き合ったりなんかしていない。
偶然家が近所で、幼稚園と小中学校が同じだった。本当にそれだけ。
しかしその偶然を奇跡だと周りは勘違いする。運命だと錯覚する。それは煕自身も
ここ最近、煕は妙に馴れ馴れしくしてくる。それが嫌で仕方がない。
煕は皆が想像する理想の彼氏様なんかじゃない。自分の容姿を鼻にかけ、「お前の彼氏になってもいいぞ」なんて傲慢なことを言う。
そもそも私は中学時代に煕を一度フッている。それなのに、クラスでは私と煕が付き合っていると噂が流れている。
これは煕の作戦。クラス全体をそういう雰囲気にして、なし崩し的に煕と付き合わざるを得ない状況に追い込むための。
あいつは自分がフラれたことを認められない自尊心の塊。裏に潜む薄汚い欲望を巧妙に隠し、女子達から好青年だと思われている。
過去に何度か、あいつは私に強引にキスしようとしたこともある。私が怒っても、「いいだろ別に」と気にした様子もなかった。
ホント最低――。
私の彼氏になりたいのなら、最低限その性格は直してほしい。仮に直したところで今までのことがあるから、付き合うなんて無理だけど。
ああ……。
どこかに私の苦しみを理解してくれる人はいないのだろうか……。
ははっ! いるわけないか。だってみんな煕のことをいい人だって思ってるんだもん。
煕の悪行を訴えても誰も信じてはくれなかった。助けてくれなかった。
私の高校生活は暗い。一生懸命勉強して入った学校なのに、たった1人の男のせいで台無し。
本当は私だって青春を楽しみたい。彼氏だって欲しい。でも煕のせいで男の子は寄ってこない。
もう……辛いよ……。
「くらえ! ネトラレーザービィィィム!」
放課後、教室で1人ボーッとしてたら、耳の辺りにライトを当てられた。
一体何だろう……。
入り口の方に目を向けると、クラスメイトの堀部くんが玩具の銃を構えて立っていた。
堀部くんはニチャニチャと不気味な笑みを浮かべている。煕とは別のベクトルで気持ち悪い。
彼はクラスでも有名な変人、関わり合いにならない方が良さそうだ。
「大石さん、僕は知っているよ。君、守木のこと嫌いでしょ」
……え?
心を鷲掴みにする彼の言葉に、思わず足を止めてしまう。
「辛いよね。誰にも分かってもらえないんだから。それに守木は、君を苦しめてるのに何の罰も与えられていない」
堀部くんとはあまり話したことがない。それなのに、私の気持ちを言い当てるなんて……。
「君は周りの人達にも苛立ちを感じ始めている。守木との関係を持て囃されることにうんざりしている」
なんで……。
なんでなんでなんでなんでなんで!
なんでこんなに堀部くんは私のことをわかってくれるの?
心の中を直接覗き込んでいるのではないかと本気で疑いたくなってくる。
堀部くんは一体何者なのだろう。彼は変わった人ではあるが、別に悪い人ではないように思える。
「なんでわかるの?」
とうとう私は堀部くんと言葉を交わしてしまった。引き込まれてしまったのだ。彼の話に。
「ずっと君を見てたから」
「!!」
落ち着け私! 堀部くんはそれっぽいことを言ってるだけ! なんか堀部くんっていいななんて思っちゃ駄目!
「僕は大石さん……いや千紗を救いたいんだ。僕はその方法を知っている」
「……」
堀部くんは私を迎えにきた王子様なのかもしれない。だってすっごく彼の言葉は頼もしいんだもの!
メルヘンチックな話だけど、堀部くんのことを王子様だと思うと彼の存在が急に眩しく見えた。
「千紗、僕の女になれ! 僕……俺が守木から守ってやる!」
!!!!
顔が熱い。もう火が出るんじゃないかと思えるくらいに。
胸に感じるトキメキは、きっと気のせいじゃない。
私は出会ったんだ。運命の人に。
「さあ……守木とは縁を切って、俺の元に来るんだ。今の千紗には俺のことがとってもかっこいい男に見えてるはずだ」
私の堀部くんへの見方が変わったことさえも看破されてしまった。
間違いない。きっと神様が彼と付き合えと告げているのだ。
「はい、よろしくお願いします」
忠士くん……好き……!!
★☆★☆★☆
ハーハッハッハッ! 完全勝利だ!
実験は大成功! 大石さ……いや僕の千紗は、僕にメロメロだ。
守木の奴、僕が千紗を美味しくいただいたって言ったら大泣きしやがった。全くヘタれなイケメン野郎だ。
それにしても驚きなのは、千紗にそういう経験がなかったことだ。守木は意外と奥手なのかな?
さて、まだまだネトラレーザー砲の実験が必要だ。次のターゲットは誰にしよう。
………………。
あれ? そう言えば、NTR粒子に特定の個人に対して好意を抱かせる効果なんてあったっけ?
NTR粒子の作用により、恋人以外の人間を好きになりはする。
だけど好きになる人は完全にランダム。必ずネトラレーザービームを放った人間になる訳じゃない。
千紗はなんで僕のことを好きになったんだろう?
元々彼女は、僕と親しい関係ではない。恋人になる下地があるかと問われれば、間違いなくない。
まさか、僕の口からの出任せが本当のことだったとか?
いや、ないない。千紗は守木と仲が良さそうに見えたし、友達とは楽しそうにおしゃべりをしていた。
考えられるのはNTR粒子に僕の知らない隠された効果があるということ。
うん、そうだ。そうに違いない。そう言うことにしておこう。
最後まで読んで頂きありがとうございました。