夢の一人部屋
キセノンでのルール…それは少し異様とも言えるものであった。
「まず1つ目。ここのことは誰にも言わないこと。誓える?」
カミラは俺の目をじっと見つめた。その目に見つめられると心の中を見透かされてる気がして少し身震いした。
「もちろん、誓います」
カミラはコクンと頷いた。
「2つ目。ここにいる人たちの行動を何も否定しないこと。…誓って」
「誓います」
否定しない、か。通りで、あのお坊ちゃんも好き勝手やっているわけだ。
「3つ目。外出するときは外出届けを出すこと。無断で抜け出したものには罰があります。これが最後です。誓いなさい」
カミラの目には力強い意思があった。怯みそうになったが、これに負けてはいけない。
「誓います」
俺が近いの言葉を言うと同時にカミラはまた俺から目を背けた。
「あっ、そう言えば」
俺が発言するとルーシーがこちらをギロッと見た。この人はカミラに関わることだと性格が変わるな…。
「俺が言いたかったのは、俺には1匹相棒がいるんですけど、それも部屋で暮らしても良いでしょうかって言うかわいい提案ですよ」
ルーシーの方をちらっと見ながら言うと、ルーシーはフンッと顔を背けた。
カミラの方は相変わらず顔を変えずに「はい」と小さく言った。
「では、契約成立です。でも、まだ私はあなたを信じているわけではないので、信用は行動で勝ち取ってください」
それだけいうと、カミラはルーシーに俺を屋根裏部屋へ案内しろと言った。
ルーシーに急かされ、俺はカミラに背を向けた。その背中に、彼女からの視線を感じたような気がした。
「こっ、ここ?」
これは、屋根裏部屋という名をつけていいのだろうか?
「あら、ここが起きに召さないんですか?強欲たらし執事さん」
なんか、すごい名前で呼ばれた気がするが、まあよい。それよりもここは、屋根裏部屋なんていう名前をつけてはいけないような…
「こんな部屋、地元じゃ見たことがない…the豪邸じゃないか」
俺は開いた口がなかなか閉じなかった。最初に目に飛び込んできたのは大きな出窓だ。ここで読書なんかしたら、きっといいだろう。
それに、真っ赤な絨毯と、大きなベッド、衣装ダンスに高そうな机と金の刺繍の施された椅子。
こんな豪華な部屋をまだ「信用していない」執事に与えるとは、どうなっているのか全く心が読めない。俺的には外で野宿でも馬小屋で寝るのでも、蜘蛛の巣のベットに横たわるのもどうってことない。というか、スラム上がりの扱いはそんなもんだと思っていた。
ルーシーは、驚く俺を見てにやりと笑った。
「私も最初に来たときは驚いたわよ。私みたいな田舎者の学もなかったか弱い少女にこんなお部屋を与えてくれるなんて、どういう考えなのかしらってね」
か弱いってところに少し引っかかったが、俺の気持ちをすべてわかったような顔でルーシーは続ける。
「何でも、カミラ様的には、カミラ様と使用人で与えられるものや、食べるものに違いがあるのはおかしいって考えらしいけど、そんな人今じゃ少ないわよね」
ルーシーは祈るように手を組み、大きなため息をついた。
「だから、一生ついていくって決めたの。別に、部屋をもらったからじゃないわよ?あんなにお優しい方他に居ないから、それに…」
好きなだけ語り終えるとルーシーは、帰っていった。
はぁ、俺の今日の仕事はこれまででいいのだろうか?
ドアを眺めていた俺が振り返るとルーシーが運んでくれた俺の少ないバックが、ベッドの下にちょこんとあるのが見えた。
相変わらず小さいバッグだ。中身なんかほぼ入ってない。
「こんな馬鹿でかい衣装ダンスをもらってもな」
持ってきた服は今来ている服と、顔の服1セット。あとは一張羅の背広とハットだけだった。
「…あとは」
俺は出窓を開けると口に指を入れた。ピューっといい音がなる。すると、近くにいた鳩の群れが大きな音を立てて飛び立ち、その中の1匹がこちらへ向かってきた。
「ハリー、素敵なお嫁さん候補でも見つけたか?」
彼は答えることはなくただ、俺の顔をつついてきた。
「痛っ、何すんだよ。別に忘れてたわけじゃ」
真っ白なこの鳩は俺の相棒だ。ただのペットや友達って言うわけではない。俺の師匠でもあるんだ。
「今日の夕食後でも披露するか、俺達の絆ってやつをって、痛て」
まずはこの機嫌を直してもらわなきゃだな…
なかなか手のかかるじゃじゃ馬の羽を優しくなでつけた俺は、今日の夕食後のネタを考え始めた。
「…この鳩、お前にやるよ」
ある日彼は唐突にそういった。この鳩は彼の大事な友達なのに。
「もらえないよ!だってこれは君の…」
彼は鳩を僕の肩に乗せてきた。
「これからは、お前が飼い主だ。絶対こいつにいいお嫁さん見つけてやれよ」
彼はクシャッと笑う。僕はこの笑い方が好きだった。
「わかったよ、絶対いいお嫁さん見つけてあげる!」
そう言うと、彼は大きなため息をついた。
「やっと俺も心残りが無くなった。お前になら、安心して預けられるよ、ニコラ」
彼は僕の頭をいつもワシャワシャと撫でてくれた。
それが、僕は大好きだった。
…そんな彼が、僕の前から消えるなんて、そんなこと信じたくなかった。なかなか受け入れられなかった。
だが、心のどこかで気づいていたのかもしれない。
いつも暗い場所にいる者たちは誰にも気づかれずに居なくなる。忘れられる。
まるで、この地球に生を受けたのも誰かの勘違いだったかのように。
いつも僕達は…いや、俺達は暗い道を歩んでいる。