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グリーンカーテンのお屋敷

 俺は今まで見たことのない様な豪邸の門の前で生唾を飲み込んだ。

 いや、正しくは元豪邸だろうか。木をかき分け街から三十分登ったところにあるこの屋敷は、まさに幽霊屋敷と言ったところであろう。草が生い茂り、よく言うとグリーンカーテンが上から下までかかっている。

 今日から俺はここに住むのだと思うと、何故だか体がビリビリとする。緊張と恐怖で身の引き締まる思いだった。

 俺の緊張とは打って変わって、小春日和の今日は、小鳥たちが楽しそうに歌っている。

俺の気持ちも知らないで、呑気なものだ。

 一呼吸してから、俺は獅子の装飾のされたドアノックを叩いた。長いこと叩かれていなかったんだろうか、触った後自分の手を見ると、細かい錆汚れがついていた。

 眉をしかめ、手を叩いていると、軋んだ大きい音を立てて重いドアが開き、中から切れ目のメイドが出てきた。

「ジャック•ライ様ですか?」そうだと答えると、肩まである髪が綺麗に外ハネの彼女は細身の腕に血管が浮くほど力を入れ、扉を大きく開いた。

「ようこそ、キセノンへ」

 そこにはこの広い屋敷にはそぐわず、彼女を含め二人の従者しかいなかった。

 それが俺の呼ばれた理由だった。これからここが俺の仕事場になるとは、まだ信じられ無いが、ここまできたら仕事はやるしかない。

 覚悟を決めて、一歩道を踏み出したのだった。


 来てすぐに落ち着く暇もなく、あのメイドに仕事内容をまくしたてられたあげく、最初の仕事を承った俺は、早速指定の部屋に来ていた。

 なんでも、ここには研究者が毎日たくさんの発明をしているかなんかで非常に掃除が大変らしい。

また、その研究者というものが相当な堅物で、掃除をそう簡単にはさせてくれないそうだ。

最初の仕事がこれかと、俺はドアの前で大きなため息をついていた。

 ドアの鍵は空いているらしいので、一応ノックだけして入ることにする。

「すいません、入りますよ〜」

ドアを開けた瞬間、この世の終わりかと思う爆発音が聞こえてきた。

「ぐぁっ!!」

思わずドアを閉めようとしたとき、中から子供の呻き声が聞こえた。子供がこの中に居るのであれば、助けなければ。あの大きな音であれば、相当な爆発だろう。

 それにしても、ここにはちゃんと防火装置などついているのであろうかと、心配になってくる。

「大丈夫ですか?ゲホッゲホッ」

目の前は黒い煙で覆われて、目が痛い。

何も見えずに嘔吐(えず)いていると、近くで「早く窓開けてっ!」とまた子供の声が聞こえた。

 窓なんて、どこにあるんだよと心の中で愚痴りながら、俺は半目を開けて窓を探した。ちょっとずつ目が慣れてきたのか、入って右手に窓を発見。

 近寄ろうとするが、とにかく足元の本やら、得体のしれない液体が入った実験道具に転けそうになる。何度もスネをぶつけながらなんとか窓にたどり着き、窓を勢い良く全開にした。

 振り返ると子供の方は、俺がは入ってきたドアを開け、そこら辺にあった布で、煙を外に追いやっていた。

いいのか?お屋敷だぞ…とは思いながら、改めて部屋全体を見渡してみた。

 すると、ここはとても妙な場所だと気づいた。

壁紙には、ロケットや星が描いてあり、子供部屋感満載なのだが、汚れが無数についている。

よく見ると、それはすべて数字とアルファベットの羅列だと言うことに気がついた。

 うわっ…集団恐怖症の人が見たらだめなやつだ。俺も腕がなんだか痒くなってきた。

それに、足元には本に、ビーカー、顕微鏡、ピタゴラスイッチのような装置が無造作に置かれている。これはスネを打つのも納得だ。

 マッチなど、発火物も普通においてあり、ますますこの屋敷の防火装置の有無が知りたくなる。

 「で?僕の研究所になんのようだい、不審者くん」

必死に命を守る行動について考えていた俺に、子供は不信感を隠さない声色で尋ねてきた。

はぁ、屋敷のメイドから、話が行ってるんじゃなかったのか?

小さな子供だが、佇まいはなぜか立派だった。頬が煙で真っ黒なこと以外は。

「俺の名前はジャック。今日からここの屋敷に使えさせていただきます。どうぞお見知りおきを」

深々と頭を下げると頭上から鼻を鳴らした音が聞こえた。

「じゃあ、お前、僕の下ってことだよね?」

顔を見ないでも、ゲスな顔をしている生意気な奴(ご主人)の顔が目に浮かぶ。

「そうでございますね、一応」

一応という微妙な抵抗も虚しく、彼から本日二個目の仕事を仰せつかった。内容は、食堂から昼ごはんを運んでくること。

「じゃよろしく」

早く出て行けと言わんばかりに、話を切り上げられ、彼はまた得体のしれない薬品と薬品を慣れた手つきで混ぜ合わせ始めた。

 これも仕事だと、笑顔で扉を閉じる俺の(はらわた)がどれだけ煮えくり返っているか、このガキ(おぼっちゃま)が知ることはないのであった。

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