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短編集

のーこーせっしょく

作者: しゅーなな

 キーンコーンカーンコーン……


 12時を告げるチャイムが、物流倉庫に設置されたスピーカーから鳴り響く。それと同時に、10人程の男達が足早に休憩所へ向かう。


 その男達の中、やや後ろの位置に鈴木蓮の姿があった。新卒入社2年目の、若手社員である。


「おつかれーっす」


「おーす」


「うす」


 男達は思い思いの挨拶をしながら、休憩所の仕出弁当置場を目指す。


 コロナ禍という事もあり、皆黙々と食事の準備をし黙々と箸を操る。家で行えば咎められるであろうスマートホンを片手の食事も、ここでは特に何も言われない。


 ―――ヒル、ヒル、ヒルナン……―――


 休憩所に設置されたテレビは平等に映像を提供するものの、見る者はまばらである。


 蓮もそのまばらな人間の側に属し、スマートホンを片手に黙々と弁当を食べる。


(種類が多すぎて、食べるのが疲れるんだよな)


 栄養バランスを考えた健康に良い弁当ではあるが、20代前半の若者からすれば、おかずの収まる枠が全て鶏の唐揚げで埋まっていても一切文句は無かった。


 しかしそうは思っても、全て食べきってしまうのもまた20代前半の若者らしい活力であった。


(ごちそう様でした)


 胸中だけで挨拶し、手早く弁当容器をまとめる。


 時刻は12時30分。


(まだ少し早いな)


 スマートホンを眺めたり、テレビを見たりしながら、10分が過ぎるのを待つ。


 時刻は12時40分。


 長テーブルの端に座っていたため、誰の邪魔をすることも無く移動し、弁当容器を元の箱に戻す。


 休憩所の男達は、机に突っ伏して昼寝をしたり、スマートホンをいじったり、ぼんやりテレビを眺めたり、あるいは喫煙所へ移動し歓談するなど、様々だ。


 蓮は休憩所を出て、事務所がある隣の建屋へ足を運ぶ。来客用の表口ではなく、従業員用の裏口から建屋へ入る。


 目指す場所はトイレだったが、1階のトイレは無視し、2階のトイレへ歩をすすめる。


 すぐには入らず、そのトイレの前で少し待つ。


 すると階下からガチャリという音が聞こえ、続いて階段を昇る柔らかい足音が聞こえてくる。


(よし)


 胸中で喜びながら、足音の主を出迎える。


「あ。お疲れ〜」


 足音の主は、蓮の姿を確認して声を上げる。

 

「おす。お疲れ」


 蓮も、軽く挨拶を返す。


 足音の主は、同期の事務員の小林美樹だ。彼女は大体この時間に、このトイレを利用する。


 お互いにこの時間に会う事を約束しているわけではない。ここ1、2ヶ月の習慣で、今日もお互いにそれを継続しているというだけだ。


「またおかずが、種類多くてさ……」


 蓮は他愛もない話を美樹に振る。蓮のマスクの下は、ニヤけ顔だ。


「いいじゃん。私なんて今日は冷凍食品だらけだよ」


 美樹も、笑いながら返す。


「本当は、おかず全部が唐揚げでいいんだけどね」


 先程、思っていた事を口にする。


「動いてる人は良いけどね。私だったらウッて胸焼けしちゃうかも。午後がつら〜い」


 おどけながら話す美樹の顔もまた、マスクの下ではニヤけている。


「たまには違う弁当が食いたいよ」


「何それ、私に言ってんの?」


 蓮は、「そうだよ」などと言いながら、照れ隠しにマスクのズレを直したりする。


 と、階下から再びガチャリという音が聞こえてくる。


「じゃ、また……!」

「うん、バイバイ」


 二人は微笑みながら、しかし少しの名残惜しさを見せ、それぞれのトイレへ入る。


 トイレに入った蓮は、鏡に映る自分を確認する。マスク姿でもバレバレなくらいニヤニヤしているのが分かる。


(やばいやばい)


 表情を消し、用を足す。

 それが終わろうかと言う所に、蓮の上司の高橋主任が入ってくる。


「お疲れ様です」

「おー。お疲れ」


 軽く挨拶を交わし、手を洗ってトイレを出ようと言う所で、高橋主任が蓮に声をかける。


「鈴木。社内での濃厚接触には気を付けろよ」

「え、いや、何すか、え」


 慌てる蓮とは対称的に、高橋主任の目は、いたずらっぽく笑っていた。

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