忘れ物
その日、会長は猫のミュージカルの出演女優を連れて寿司屋へ行った。
いつものごとく、俺は会食が終わるまで車内で待機している。
会食後、会長を港区の自宅まで送り届けた後、残った女優さんを目黒の自宅まで送り届ける事になった。
到着後は、必ず確認することがある。
『忘れ物ないですか?』
『はい、大丈夫です。』
本人に確認した後、女優さんが自宅へ入るのを見届けてから、俺は車内灯を着け、運転席から乗り出して、後ろを見渡した。
座席、足元共に忘れ物はないようだったので、いつものごとく、センチュリーをアパートに持ち帰る。
会長は仕事が終わると、毎日座席でビールを飲む。
それもご丁寧にわざわざコップに注いでだ。
その分運転には余計気を使う。
そして自宅へ着いたあとは、会長がビールを飲む時に使ったコップを洗うため、後部座席の後ろから取り出さなくてはならない。
俺は運転席から出ると、右側の後部ドアを開けた。
すると……
ハラリ……
何かが地面に落ちた。
『ん?』
指先で拾い上げる。
な!
お、おパンティー!
しかも……使用済み!
ここでマンガの主人公だったりしたら、頭に被ったりするのだろうが、この時の俺にはそんな余裕は無かった。
『どうしよう……』
こんなもの忘れていかれても……
その女優さんは稽古の後で着替えた服などを、紙袋に突っ込んだ状態で車に乗ってきていた。
そのうちの一つ(よりによってパンティー)が紙袋からこぼれて、ドアと座席のすき間に落ちてしまっていたのだろう。
左側のドアなら、降りた時に気付いただろうが、右側だと開けないので気付かない。
物が物だけに、『これ、落ちてました。』と、総務に提出はしにくい。
かといって、数多くの女優さんが出入りしている劇団の中で当事者を探すのは難しいし、見付かったところで、『これ、落ちてました。』と声をかけるのは、はばかられる。
いっそ捨ててしまおうかとも思ったが、『あの……昨日何か落ちてませんでしたか?』と声をかけられた時に困る。
とりあえずは、トランクに入れておく事にしたのだが、会長がゴルフや海外に行くときにはトランクを使うので、剥き身で入れておく訳にもいかない。
そこで何か袋でもないかと車内を探したところ、少し大きめの茶封筒が見つかった。
俺はそれを綺麗に折り畳んで茶封筒に入れると、トランクの奥の方にしまった。
……そして、その事をすっかり忘れていた。
次のエピソードで顛末は語るが、この後しばらくして俺は会社を辞めることになった。
トランクに、おパンティー入りの封筒を残したまま。
やめてしばらくしてから、俺はその事に気付いたが、もう後の祭りだ。
きっと誰かが、トランクにしまわれた、おパンティー入りの封筒に気付く。
あー、きっと俺は変態扱いされてんだろうなー。
チクショー!




