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のほほん見聞録  作者: ヒロっぴ
市営バス時代
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選択






市バスの仕事をしているとき、とある路線を走っていると見かける人がいた。



雨の日も風の日も、両手に大きなビニール袋をぶら下げて、歩いていた。




彼の顔面は髭で覆われ、服装も薄汚れたスウェットのようなもので、毎日歩いている。



彼はホームレスで、幹線道路沿いの歩道橋の下を根城にしていた。




職場でもよく話題に上がり、



『今日もビニール袋下げて歩いてたよ。』


『雨降ってるのに大変だな。』



『今日は朝霜降りてたぞ。大丈夫なのか?』



『俺には出来ねぇな。』





特に暑い日や寒い日には、話題に上りやすかった。




毎日ほぼ同じ時刻に同じところを歩いているので、おそらく空き缶や空きビン等を持っていって日銭に変えているのだろう。



それだけ規則正しい生活を出来るのだから、普通に働けばいいのに。と、思わなくもないが、そういうことではないのだろう。



時には彼の半生について、様々な憶測が流れたりもした。



路上生活する人達は、ただ単に仕事がないとか、お金がないとかで路上生活をしているとは限らない。



同じホームレスでも、日銭を稼ぎながら、簡易宿泊所やインターネット喫茶等で寝泊まりをする人もいる。




そういう人は、やはり仕事がないとか収入がないという人が多いような気がする。



路上生活を選択する人の中には、大手企業などで働いていたのに、人間関係や社会生活が嫌になって路上生活を選択する人もいると聞く。




実際俺の知り合いでも、父親は日本でも有数の大企業の取締役で、かなり裕福な生活をしていたにも関わらず、十代の頃から家を出て公園などで路上生活を始めたという男がいた。





俺が引越の仕事をしていた当時、彼は営業所の片隅に段ボールで小屋を作り、そこで寝泊まりしていたのだ。




毎日仕事をしていたので、金銭的に困窮していた訳ではなく、彼は自らすすんで路上生活をしているのだと言っていた。




今なら、コンプライアンスやら何やらで、会社側も認めないだろうが、当時は会社も黙認していた。


貴重な人材という訳だ。





話は変わり、俺が市バスの仕事を始めた当初から、『民営化』の話が上がっていた。



組合で行う毎月の職場集会では必ず話題に上がり、年を追うごとにそれは現実味を帯びていった。




俺が入局してから八年目。



『民営化』の話はとうとう具体的になり、ゆくゆくは給料が4割減になるという話にもなった。




当時の年収は600万位あったが、それが360万になるということだ。




すぐにではないにしても、それは厳しい。




そう思った俺は以前から上がっていた知人の『おいしい話』に飛びつき、市バスの仕事をやめることになる。




今考えると、不況が続くなか安定した公務員を辞める事がどれだけ無謀だったのかが分かる。





しかし当時は『億単位で稼いでやる!』と、おいしい話ならではの夢に展望を抱いて、厳しくなる事が予想されている未来から逃げ出したかったのだと思う。



その結果、もっと絶望的な現実が待っているとは知らずに。




いや、知っていたのかもしれない。




辞めるときに同僚から引き留められて、『お前もビニール袋持って歩くことになるぞ。』と言われても、『挑戦しないで諦めるより、挑戦して失敗した方がいい。失敗したらビニール袋持って歩くだけさ。』等と言っていた。





その後、『おいしい話』だったはずの仕事も三年と待たず駄目になり、その後はまさしく当時の4割減の生活をするはめになっているが、いろいろあっても、まだビニール袋を下げて歩き回る生活を経験してはいないから、まだマシなのかもしれない。




いや、俺には彼らのような『思い』はないから、路上生活を選択する事は出来ないだろう。


日銭を稼いでどこかに泊まるか、行政に助けを求めるか。



そっちを選択すると思うのだ。



まぁ、今の生活はともかく、当時の俺は市バスの仕事を辞めたのであった。





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