終バス
その日、俺はローカルな路線を走っていた。
メインの路線は乗降客も多く、朝夕のラッシュ時の始発ターミナルでは、一分おきどころか、同じ時刻に発車する同発なるダイヤも存在し、ひっきりなしにバスが来る。
そんな路線の合間を縫ってローカルな路線を走ると、ホッと一息つけるものだ。
それは『午後番』という午後から終バスにかけて走るダイヤで、最後の一本を走っていた時のことだ。
目的地まで終バスで走り、回送で帰ってくるのだが、途中真っ暗な寺院の横を通る。
道路に面しているのは墓地で、辺りが暗くなるとなんとなく陰鬱な雰囲気になる場所だった。
終バスの時もほとんど乗客はいないが、室内灯を着けているので、そんなに不気味さは感じない。
しかし、帰りの回送では室内灯を消すので、なんとなく心細い。
通りなれた道とはいえ、終バスのダイヤが回ってくるのは、年に数回しかないのだ。
俺は終バスの終点に着くとバスを停車させ、運転席を出て、最後尾まで忘れ物の確認をしてから運転席に戻り、方向幕を回送にして、室内灯を消してからバスを発車させた。
そしてちょうど例の墓地を通過する刹那、
『ピンポーン!』
と、突然降車ブザーが鳴った。
俺は声を上げそうになった。
誰もいないのはさっき確認したはずだ。
変な汗が出る。
確かに古いバスだと、降車ブザーの接触が悪く、道路の起伏で跳ねた時に鳴ることはある。
しかし、タイミングが悪すぎる。
俺は室内ミラーを見ることも出来ずに、交通量の多いところまで走り、信号で止まったタイミングでやっと室内を見渡した。
もちろん、誰もいない。
俺は、接触のせいだと自分に言い聞かせることにした。
俺の場合は、終点で後ろまで確認しに行ったが、運転席から立ち上がって後ろを見渡すだけで、帰ってくる乗務員もいる。
そんな先輩は、乗客が眠っていたことに気付かず、終点で折り返して回送で走っているとき、眠ってしまっていた乗客が目を覚まして、声をかけてきたらしい。
すでに消灯され、回送している状態で声をかけにくかったのか、彼はそーっと近付き、後ろから『あのー……』と声をかけた。
その瞬間、先輩は『ひゃーっ!』と声をあげてしまったと言っていた(笑)
そりゃ、俺でも声あげるわ(^^;
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