怪しい人影
その日、九州にいた俺は、関東への帰り荷が無かったので、富山行きの荷物を積むことになった。
その荷物は大型トラック二台の貸し切りだったので、北九州所属の仲間と一緒に走ることになったのだ。
長距離トラックの仕事は、荷物を積んでしまえば、指定された時間までに降ろし地へ行けばいい訳で、その間はどこで休憩しようが、ある程度自由がきく。
勿論、全く余裕がなく、ひたすら走り続けなければならないような事も多々あるのだが、その時は時間に余裕があり、前日の夕方には目的地の富山港に着いていた。。
途中、近くで祭をやっているのを目にしていた俺たちは、港にトラックを停めると祭にくりだし、その後一杯ひっかけてからトラックに戻り、運転席後ろのベッドに入った。
俺はトラックのベッドで寝る時は、ズボンを脱いで寝るのが習慣で、その時もズボンを脱いで、下はパンツ一丁で床についた。
さて、飲酒をするとトイレが近くなる。
夜中に尿意をおぼえて目を覚ました俺は、ズボンをはくのも、もどかしく、パンツ姿のまま外に出ると、真っ暗な富山湾に向け、ホッと一息ついた。
パンツ姿とはいえ、夜中の港に人影はなく、安心して用を済ますと、トラックに戻ってドアに手をかける。
あ、開かない……
そう。
俺はいつも、ズボンに予備キーを付けていたので、エンジンをかけたまま、インロックして鍵を閉めるのが習慣になっていたのだ。
しかし、予備キーはズボンと一緒にトラックの中…
冷や汗が背中を伝う。
とりあえずパンツ姿で辺りをウロウロ。
針金を探した。
そしてやっと長い針金をみつけると、大型トラックの高いドアによじ登り、窓ガラスの隙間に針金を突っ込んで悪戦苦闘。
数十分後にやっとドアが開いた。
それにしても…、
夜中の港で、パンツ姿の奴が大型トラックのドアにへばりついて何かやってたら、通報されても仕方ないと、今更ながら思うのでありました。
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