表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
のほほん見聞録  作者: ヒロっぴ
○○電設時代
39/136

いや、もっとキツイから。






今までの運転手の仕事と違い、基本的に始業時間も終業時間も決まっている仕事に着いた俺は、久しぶりに道場通いをすることを決意した。



高校時代から世話になっている○真カラテである。




近くに分支部があることを知ったからだ。




入門に際しては、高校生の頃に総本部に通っていたことがあるとは言ったが、その後内弟子になったことは伏せていた。




色々めんどくさそうなので。



そして初稽古の日。

黄帯の高校生が、道場の作法や稽古の流れなどを教えてくれることになったが、俺が昔総本部に通っていたことは知らされていたらしく、『ご存知だとは思いますが……』という感じで説明してくれていた。



こちらも年齢的には上とはいえ、この道場では新参者なので、『押忍おす、ありがとうございます。』と返していた。




そして道着に着替えるとき問題が起こった。




入門手続きをするときには、『昔、総本部に通っていたことがあるので、道着は持っています。』と伝えていたので、新しく購入はしなかった。



着古された道着に袖を通し、帯に手をかけたとき、その帯には『内弟子』と書いてあることに気付いた。




横には指導役の高校生がいたのだが、パッと隠し、『押忍おす失礼しました。帯を忘れてしまったので、貸していただけますか?』と言った。




どうやらその高校生は、俺がバックの中の白帯に手をかけてから隠したのを目にしていたらしく、支部長に『とうした?』と聞かれて、『いや、帯はあったんですが、忘れたって言ってまして……』と小声で答えていた。




俺はあくまでも、『失礼しました。忘れてしまいました。』




で、押し通す。






そんな俺をチラッと見ながら支部長は、『色帯だったのか?』と高校生に聞いている。



高校生は『いえ、白帯だったと想うんですが……』と答えているが、俺が頑として忘れたと主張しているので、貸してもらえることになった。




ここで、帯について説明する。




○真カラテでは、初心者は白帯から始まり、水色帯→黄帯→緑帯→茶帯→黒帯 、と昇格していく。



通いの道場生の中には、経験が長いにも関わらず、あえて審査を受けずに、白帯のままでいる者もいた。




俺はそんな理由で審査を受けていなかったのではないが、彼らは色帯(特に黒帯)を取得してしまうと、警察に登録され凶器扱いになってしまうことを知って、あえて白帯のままでいるという意識があるからだ。




当時は町中で喧嘩する気満々のヤンチャな面々も数多くいたのである。



しかし、そんな経験の長い白帯は、結構重宝されていたりもする。




他の流派や支部から総本部に移籍してくると、大抵は元いた流派や支部の帯を締めてくる。



特にそれが黒帯だったりすると、指導員は自己紹介をさせたあと、その帯に手をかけて、『君、今日は黒帯締めてるけど、今日一日稽古してみて、この帯のまま出来る自信があったら次からもこれを締めてきていいですけど、もし自信が無くなったら、申し訳ないんてすが、白帯からやり直してください。』と声をかける。




すると、その人達は基本稽古の段階からヘロヘロになり、下手したら吐いたりもしていた。



そして最後の組み手では、指導員が指名した白帯に道場中追い回され、手も足も出なくて、最後には『押忍おす自分白帯からやり直します、』となるのが常だった。



その時指名されるのが、くだんの白帯なのである。




また、内弟子は支部などで例え黒帯を取得していたとしても、内弟子になった瞬間に白帯から出直すことになっていた。




そして内弟子は何度か審査を見送り、初めて受ける審査で一気に茶帯や黒帯を目指すのが慣例になっていた。





俺的には、ただ単に実力が無かっただけだと思ってはいるが、俺自身も白帯のままだったのだ。





そして稽古が始まる。




俺は驚いた。




総本部しか知らない俺から見ると、『え?』と思うくらい緩い稽古内容だった。



拳立て(腕立てを拳で行うもの)のあと、左右の拳を交互に床に打ち付ける、という稽古の時、百を越える辺りから、指導員もかなり辛そうにしていた。



他の道場生たちはとっくにギブアップしてる中、俺だけが続けているので、指導員もやめるわけにもいかず、号令をかけ続けている。




もはや続けているのは指導員と俺だけ。



他の道場生たちは振り返って俺を見ていた。




内弟子時代、フルスクワットなら四千回位やらされていたので、それに比べたら屁でもなかった。




指導員にしてみたら、俺が根をあげたら辞めようと思っていたみたいだが、いつまでもやめないので、150を越えた位で終わりになった。




その日の稽古後。




やはり話題に上がったのか、大勢の道場生たちが俺の元に集まって来ていた。




みんな口々に、





『総本部に通ってたって本当ですか?』



『○○館長に会ったことあるんですか?』



と質問攻めにあった。




『内弟子だから毎日会ってましたよ。』なんて言ったら、大変な騒ぎになっただろう。




また、『総本部ってここより稽古キツイですか?』




と聞かれ、



『ええ、もっとキツイですよ。』




と答えながら、内心では『いや、倍どころじゃなくキツイから。』と思っていた。また、『通常の総本部の稽古の十倍以上内弟子はキツイし。』とも思っていたのだが、道場生たちは、




『えーっ!此処よりキツイんですか?』




と目を白黒させていたので、笑ってしまった。




この人たち、総本部行ったら一日も持たないな。




それが率直な感想だった。




所変われば品変わるとはよく言ったものだ。



最後まで内弟子だったことを隠し通した自分を誉めてやりたい(笑)





.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] レベルが違う!? [気になる点] 分支部のトップともなると、総本部で研修、というわけでもないのですね。 [一言] 作者さまにとっては物足りない? これから分支部を引っ張っていくのか? お…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ