活線
電気工事の仕事は、結構多岐に渡る。
大きなビルなどの基礎工事では、配電盤から各部屋のコンセントや照明等に電線を通す為の配管をしていく。
それは金属製のパイプだったり、塩ビやプラスチックのチューブだったりする。
通す電線の量によって、太さもまちまちになる。
そしてその配管をする前段階として、終わっていなければならない工事がある。
鉄筋だったり土木だったりが遅れていると配管が出来ないため、それを手伝ったりするのだ。
だから、本来電気工事には必要ない鉄筋を縛るための道具も持っていたりする。
配管が終わり、コンクリートが流し込まれて壁や床、天井等が出来上がると、今度は配管したチューブやパイプの中に電線を通していく。
まずは配管の出口側からスチールと呼ばれる通線ワイヤーを通す。
そして、そこに通すべき電線を1つにまとめ、スチールに繋いで、先端が丸くなるようにビーニールテープで巻いていく。
その後先端に通線オイルと呼ばれる潤滑剤をたっぷりとかける。
あとは『せーの!』と掛け声をかけながら、出口側ではスチールを引っ張り、入り口側で電線を送り込んで行くのだ。
途中で滑りが悪くなりそうなら、電線の途中にも通線オイルをかけながら送り込んでいく。
その作業を繰り返していくと、全ての配管に電線が通るわけだ。
通線作業が終わると、今度は1つにまとめた電線をまたそれぞれにばらし、各設備に繋いでいく。
通常の電線はプラス側とマイナス側の二本の線がひとつにまとまっていて、設備につなぐ際にはそのまとまっている線を真ん中から裂いて2つに別ける必要がある。
つまり、手で裂いて二つにしなければ、プラス側とマイナス側が一緒になった1本であるということになる。
通線する際は余裕を持ってかなり長い状態で通していく為、設備につなぐには調度良い長さに切らなければならない。
この時の電線は死線と呼ばれ、電気が通っていない状態なので、ペンチ等の刃の部分でパチパチと切っていく。
そんな作業を繰り返していたある日の朝礼で、『今日から活線になるので充分に注意するように。』と言われていたが、新人である俺は活線の意味を知らなかった。
なので、何も考えずいつも通り電線をペンチで切った。
……次の瞬間。
『ボーン!』という爆発音と物凄い閃光が手元に走ったと思ったら、部屋中が真っ暗になった。
俺はあまりのことに固まって動けなかった。
今日から電気が通り、照明も着くことは知っていた。
しかし活線の危険性を何も知らなかった。
電気が通るからむき出しの電線には手を触れるな。
切ったら必ずテープを巻いて絶縁処置をしろ。
とは聞いていた。
しかし、プラスマイナスがまとまった線をペンチで切ると、そのペンチを通して電気が流れるということまでは気が回らなかった。
ペンチで切った瞬間電気が流れ、ショートしたのだ。
しかも、そこは病院の新築工事だったから、200ボルトの電気が流れていた。
ペンチの刃は吹き飛び、使い物にならなくなっていた。
ちゃんと説明しなかったからということで怒られはしなかったが、電気の怖さを身を持って感じた瞬間だった。
30年以上も前の話だから、当時は活線作業も普通に行っていたが、こういった事故やトラブルが続いた結果、今は厳密に禁止されているらしい。
まぁ、そうだろう。古いペンチで握りの部分から鉄が出ていたりしたら、俺も死んでいたかも知れないのだから。
この時の自分を想像すると、きっとマンガみたいに目が点になってたんだろうなと、笑ってしまう。
.




