あれ?
引越作業をしていると県内ばかりではなく、県外へ出ることもある。
日帰りできる距離と荷物量なら積み込みの作業員がそのまま降ろし作業もするのだが、積み込みと降ろし作業が別の日になる場合、運転手だけが降ろし地へ向かい現地の支店などへ作業依頼をかける事が多い。
特に、以前働いていたような大手引越センターの場合、全国にネットワークがあるので、作業依頼も簡単にかけられる。
しかし、その時働いていた会社は、運送業としては大手だったので各地に支店はあるものの、引越部門は立ち上げたばかりなので、依頼をかけても作業員がいない事が多かった。
その場合、協力会社に依頼をかけるのだが、この場合は無地の作業着であったり、地味なツナギであったりするので、作業さえキチンとしていれば、お客さんもさほど違和感は感じていないのだろう。
作業服が違うことに対して聞かれることも無かった。
しかし、その日は違った。
課長は元々大手引越センターで支店長をしていたので、全国の運送会社にネットワークを持っていた。
大手引越センターでは、直営店以外にもフランチャイズの営業所も持っている。
フランチャイズの営業所では、引越以外に運送業としての本業もある。
また、大手引越センターの仕事以外にも小さな引越等は、大手引越センターの看板が入っていないトラックと、本業の方の作業着でこなしたりしていた。
なので、課長が昔のネットワークを使って大手引越センターのフランチャイズ店に作業依頼をかけた場合、大手引越センターのトラックや作業着で来ることはない。
しかし、その日は俺が前日に積み込んだトラックで降ろし地に向かうと、現地には見慣れた大手引越センターのトラックが止まっていた。
近くで引越でもあるのかなと思っていると、作業員が寄ってきた。
『お疲れ様です。○○運送です。』
こちらも『お疲れ様です。』と返しながら苦笑いしてしまった。
『看板車なんですね?』
と笑いながら言うと、
『すいません。近くで積み込みがあったんで……』
と、向こうも苦笑い。
どうやら大手引越センターの作業依頼で積み込み作業をした帰りらしい。
直営店の4トントラックの補助車として依頼がかかり、積み込み作業を終えたのだが、一度帰ってトラックを乗り換える時間が無かったので、そのまま来たと言うことらしい。
今回の降ろし地は四トン車を横付け出来たので補助車は使わなかったが、運送会社の地味な作業着と違い、大手引越センターの作業着は、とても目立つのだ。
俺が来ていた作業着も背中にカルガモのマークが入っていたので目立つのだが、更に目立つカラーだった。
さすがになんか、言われるかなとも思ったが、前日に積み込みをしたリーダーの俺が先頭に立ってみんなで挨拶をしたので、特に何か言われることも無かった。
作業自体は全く問題なく進んでいき、もう少しで終わるという頃、奥さんに『あのー……』と声をかけられた。
『はい?』
『私、……○○引越さんに頼んだんですけど……』
今更!?
と、思ったが、
丁寧に事情を説明すると、
『あ、そうなんですね。背中見たら、○○引越センターって書いてあるから、あれ?って思って……』
『すいません、まぎらわしくて。』
と、謝りながら、ほんわかとした奥さんの笑顔に救われた思いだった。




