超能力
今更ながら、ここに書いている話は、全て実話である。
それは、俺が高校生、4つ年下の妹が中学生だった頃の話だ。
メタルベンディング・パーティーというのを知っているだろうか?
同じ場所に大人数の人が集まり、みんなで会食をして、気持ちが和んだ所で、一斉にスプーン曲げをする。
すると、参加者の力が一体となり、増幅されるので、七~八割の人のスプーンが曲がるというものだ。
当時、それを利用した生放送番組があった。
同じ時刻にテレビを見ている全国の人が一斉に、超能力者として有名なユリ・ゲラーと共にスプーン曲げ等をやる事で、力を増幅させるという実験的な番組で、二週に渡り放送された。
我が家でも家族で挑戦し、早くも一週目の
【壊れたものを直す】の実験で、異変が起こった。
なんと、妹が『動けー!』と叫びながら手にしていた壊れた時計が動き出したのだ。
家族はビックリ!
翌週のスプーン曲げに期待が高まった。
そして翌週。
またもや奇跡が起きた。
妹が『曲がれー!』と叫びながら手にしていたスプーンが、ある瞬間から、まるで水飴のようにグニャグニャになったのだ
無邪気に『おもしろーい!』と言う妹の手の中で、スプーンは曲がるどころか、糸屑のように丸められたり、紐のように結ばれてしまったりと、にわかには信じられないような光景が繰り広げられていた。
『ち、ちょっと貸してみろ!』
俺は、ボール状に丸められたスプーンを妹から受け取った。
すると、俺の手に渡った瞬間に、カッチカッチ!
当時はまだ『カッチカチやで!』と言うフレーズは無かったけれど、まさしくカッチカチ!
空手で培った腕力をもってしても、びくともしない。
それをまた妹に渡し、
『これ、元に戻せるのか?』
と言うと、
『うん。やってみる。』
と、みるみる元通り。
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それから妹は台所に行ってフォークやらナイフやらを持ってくると、目の前で、次から次へと丸めたり、結わいたり。
中学生の自分の妹が目の前でそんな事をすると、超能力があるとか、ないとか、トリックだとかインチキだとか。
そんな議論が、バカバカしくなる。
目の前で見たら否定のしようがない。
中学生の妹がトリックなんか知ってる訳ないし、どんな力持ちでも、無理な曲げ方をしているのだから。
それからというもの、コツを覚えたのか、妹は一人でも、次々スプーンを丸めて遊んでいた。
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しかし、それから妹は幽霊を見るようになったのである。
頻繁に、『部屋になんかいるから、一緒に寝て』と、母親と一緒に寝るようになった。
妹が、いとも簡単にスプーンを丸めたり結わいたりしてるのに、曲げる事すら出来ない俺は、悔しくて、
『いーな、お前は。超能力使えるようになると、幽霊ともコンタクト取れるらしいぞ。』
と、悔し紛れに何かで読んだ情報を伝達。
負けず嫌いもはなはだしい。
しかし、それをきっかけに、妹は『恐いから止めた!』と言って、スプーン曲げ……というより、スプーン丸め、もしくは、スプーン結わきをやらなくなった。
そんな体験をした俺は、勿論超能力や幽霊を信じている。
実際、インチキも沢山あるのだろうが、だからといって全てウソだなんて思わない。
いや、思えないのだ。
だから、俺はテレビでムキになって否定する大○教授達を見ると、哀れに思えて仕方がない。
まるで、天動説を馬鹿にして、海の果てでは、滝になって流れ落ちてると信じてた昔の人と同列に思えるのだ。
解明されていないものを信じられないのは仕方ないが、目に見えないからと言って存在しない訳ではない。
解明される以前から、地球は太陽の回りを回っていたのだし、目に見えない空気等も解明される前から存在している。
テレビカメラの前で超能力者を自称する人間が失敗したからと言って、超能力自体を否定することは出来ない。
素人に衆人環視のテレビの前で、緊張することなく技を披露しろという方が無理があるのだ。
スケートのトリプルアクセルを飛べる金メダリストだって、失敗することはある。
だからといって、トリプルアクセル自体を否定は出来ない。
マジシャンが同じことが出来たからって、インチキとは言えない。
鍛えた空手家なら、足でバットを折ることが出来る。
マジシャンがマジックでバットを折ることか出来たからといって、空手家のバット折りを否定は出来ないのと同じだ。
インチキは確かに存在する。
しかし、全てがインチキとは言えないことを、俺は知っている。
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