クリスマス・パーティー
毎日の激務に追われなからも、時は過ぎていくもので、いよいよ12月に突入していた。
この頃は、日々の業務に追われながら、辞める口実をどう伝えようかと悩んでいた。
元々年内いっぱいで辞めるつもりだったのだが、そんな臨時アルバイト的な募集をする会社ではない。
なので、面接から一貫してずっと頑張るような素振りで働いてきた。
しかし、タイムリミットは迫っている。
もう1ヶ月を切ったのだ。
そこで、家庭の事情で父親の事業を手伝うことになった。という事にして、年内いっぱいで退職したい旨を伝えた。
すると、上司はおろか先輩や同僚まで反対された。
いわく、『もったいない』ということだった。
誰もこなせずに、貯まりまくっていた集金業務等、前任者や前々任者からたまっていた業務は全てクリアし、年明けからはコース分けも決まっていた。
コース分けとは、その担当コースの売り上げが上がるなどして、コースが分割される事をいう。
簡単にいうと楽になるのだ。
俺の担当コースは工業地帯で町工場が多いところだったから、件数も多く売り上げも上がらないため、コース自体も広かった。
全部で5丁あった。
○○1丁目~4丁目と△△4丁目の計五丁というかわけだ。
地方だともっとエリアが広いが都内だと、これでもかなり広い方だった。
港区を担当してる人だと、担当エリアがビル一つだけとか、百メートルの通りの片側だけとかもあったくらいだ。
そのコースが、半分とは言わないまでも三分の一位にはなる予定だという。
しかも、晴れて5課1係へ編入され、助け合いも出来る環境になり、何より繁忙期を越して、一月から暇になるというタイミングで辞めようというのだから、『もったいない』と云われるの無理はないのだろう。
しかし、元々4ヶ月と決めていたし、引越のアルバイト先にも、四ヶ月だけ他の仕事をすると告げて休んでいる。
惜しまれながらも退職願いは受理され、ますます忙しくなる業務に忙殺される日々に突入していった。
それから半月、忙しさも多少和らいで来るなか、配属店をあげてのクリスマス・パーティーが催された。
当時の○川急便は税金対策も兼ねて、イベントは豪華に執り行われていたので、船上クリスマス・パーティーと相成った。
みんなそれぞれ自前のスーツ等を着こんで臨んでいたが、ある同期が会場に入ってきたとき、周りはざわついた。
彼は背も低く、体型もずんぐりむっくりで、お世辞にも容姿を誉められないタイプだったが、そんな彼が真っ白のタキシードで現れたのだ。
一瞬周りは固まった。
『タキシード?』
『しかも白かよ。』
みんな優しいので、彼の前では普通に接していたが、ある意味注目の的だった。
何で白?
黒のタキシードでも場違いな気がする中、白を選択するセンスに脱帽だ。
俺ならきっと、真っ赤なタキシードを選択しただろう(笑)
そして、この頃を契機に集配業務は落ち着いていき、無事に激動の四ヶ月間を乗りきったのだった。




