まいどー!
江の島での初任研修が終わると、俺は当時日本一の売り上げを誇る支店に配属された。
配属当初は支店での構内作業。
まるで戦争だと表現されるほど殺伐とした作業が繰り返されていく。
だが、空手と引越作業で鍛えた俺は、同期がヘロヘロになっている中、大量の荷物をさばいていった。
そして、先輩のトラックに同乗して実際の集配業務をする際にも、引越屋の経験を活かし、大きくて重い荷物を持つコツを掴んでいたので、先輩の三倍くらいの荷物を持って走った。
……だが、それがいけなかった。
研修中一番ヘロヘロになっていた同期は、毎日昼寝する位の余裕があるコースに配属になったと聞いたが、俺が配属になったのは
『新人潰しのコース』
と呼ばれる所だった。
しかも入社の時期も悪かった。
繁忙期の始まる9月だった事が、忙しさに拍車をかけていた。
俺の配属されたコースは、元々は5課1係所属のコースだったものが、色々と揉め事があったらしく、俺が配属したときには5課2係の所属になっていた。
この意味は大きい。
なぜなら、俺の所属する5課2係というのは4トン車で集配センターなどを回る特別な係であり、俺の乗るコースだけが2トン車。しかも小さいショート車でしか回れない地域だった。
にもかかわらず、配達も集荷もそれぞれ150件を越えていた。
当然積みきれる訳もなく、残りはドッキング場に回してもらい、途中で積み足さなければならない。
配達の終わらないうちに集荷が始まる。
同期はみんな、配達しきれないと先輩が助けてくれたらしいが、俺の係は俺以外全員4トン車。
2トンショートのコースに入ってこられる訳がない。
必然的に誰にも手伝ってもらえず、毎日休憩も取れずに走り回るはめになった。
しかも、配属が決まって取引先の会社で挨拶すると、
『また変わったのかよー!勘弁してくれよ!』
『あんたもどうせすぐ辞めるよ。』
と、新人潰しのコースと言われる所以を実感させられた。
しかし、俺には目標がある。
辞めるわけにはいかなかった。
毎日必死になって荷物をさばき、前任者から溜まっていた集金業務等もコツコツとこなしていった。
課長たちは驚いていた。
だが、俺は与えられた仕事をただこなしているだけ。
研修中に仕込まれた『大声で元気に挨拶をする』というのも常に実践していた。
ただ、ひとつだけ慣れないことがあった。
とある会社の事務所。
俺がドアを開けて
『まいどー!』
と言いながら飛び込んでいくと、毎回女子社員達がビックリして
『キャーッ!』
と、悲鳴を上げる。そしてすぐに『クスクス』と笑いだすのだ。
わざと脅かすつもりはないのだが、毎日繰り返される
『キャーッ!……クスクス』
は、なぜか当時の殺伐とした俺に癒しを与えてくれたのである。
……しかし、女子社員が驚いて悲鳴をあげるほどの挨拶って……
今考えると、顔から火やら尻から屁やら出る思いだ。




