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のほほん見聞録  作者: ヒロっぴ
○川急便時代
23/136

泣き真似






当時の○川急便は、稼げると有名だったが、それを上回る過酷さでも名を馳せていた。



集団面接では、『両親の借金が数千万ある』とか『事業に失敗して借金がある』『絶対にフェラーリが買いたい』など、何かしら目的のある人達ばかりであり、面接官も『理由がないと続かないから、明確な理由を持つように』と言っていた。




そんな面接をクリアし、最初に訪れるのが、江の島研修センターでの初任研修だった。



ここでは、あからさまな無理難題を課し、それをクリアすることで、『やれば出来る』という意識を持たせるのが主眼になっていた。




そんな内容なので、夜逃げする者も何人かいた。




研修の最中、指導員から



『○○じゃないだろー!』



とか怒鳴られるシーンが度々見受けられたが、俺は内弟子時代のクセもあり、



押忍おす!失礼しました!』




と即答してしまい、そのたび



押忍おすじゃないだろー!』




と怒鳴られ、回りの研修生からは失笑を買うという事態に陥っていた。




クセなんだからしょうがない。




様々な課題を早々とクリアしながら迎えた最終日。




集まった会場では、




『ここでの研修は皆さんの人生において一番キツイ体験だったと思います。

よく乗り越えましたね。


それでは、試練をクリアした皆さんに、指導員が心から贈ります。


目を閉じてお聞き下さい。』





と言われ、次の瞬間照明が落とされた。




言われた通り目を閉じると、指導員達がアカペラで歌い始める。




その内容は、この研修センターにおける日々の内容だった。




『人生における一番キツイ体験……』




それを体感した人間にとっては、きっと心に響くのだろう。



あっちこっちからすすり泣きの声が響いてきて、会場全体がしゃくりあげる泣き声で包まれた。





……しかし、内弟子時代にはるかにキツイ体験をした俺にとっては、



『人生で一番キツイ体験?何言っちゃってんの?』



みたいにシラケていたので、周りからすすり泣きが聞こえ始めた時は、驚いて薄目を開けて確認してしまったくらいだった。




すると、指導員達が一人一人の肩に手を置いて会場を歩いて回る様が見てとれた。





俺はマズイと思った。


ほぼ全員がしゃくりあげて泣いている中、一人だけシラケている自分がいる。




俺は無理やりアクビをして涙を流し、泣いている風を装った。




ここにきて、そんな苦労が待っているとは夢にも思わなかった。




○川急便恐るべし。




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