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のほほん見聞録  作者: ヒロっぴ
○川急便時代
22/136

入社した訳






20代前半の頃。






……俺は風俗嬢に本気で恋をした。






空手バカだった俺は、ある意味ウブで女性に免疫も無く、片想いは常にしていたものの、好きな女性には近寄ることさえ出来ずに、チェリーボーイのまま20代に突入していた。






とはいえ、女性に興味がない訳ではなく、それどころか小学生の頃から早々と性に目覚めた俺は、長年悶々とした日々を送っていたのだ。



そんな俺を、年上の従兄弟が面白半分で風俗に連れて行った事がきっかけで、俺は一気に弾けた。






相手のいない俺は、定期的に風俗に通うようになったのだ。





そんな時、そこで知り合った女性に恋をした。






彼女は、そんな仕事をしているには似合わない素朴で優しいコだった。






少なくとも当時の俺はそう思っていた。







二回目の指名の時、彼女は『お腹空いたね。』と言って、二人分の寿司を注文した。





『今日は私のおごりね。』





と笑う彼女に、それからほどなく、恋をした。






不器用な俺は、彼女に会いに行くためにスーツを着込み、花束を持って店に通った。




そんなカッコで風俗店に通う俺は、さぞかし滑稽だったてあろう。






しかし、彼女はいつも笑顔で迎えてくれ、当時個人情報とかもうるさくなかったこともあり、全く警戒することなく、本名や住所等も教えてくれた。





そんなこともあって、俺は、彼女も好意を持ってくれているんだと、盛大な勘違いをしていたのだ。





彼女の住所宛にプレゼントを送ったり、彼女が仲のいい同僚とグアム旅行に行くと聞けば、グアムのホテルに花を送ったりもした。






あげくの果てには、彼女の住所まで訪ねていき、玄関先に花束を置いて帰ったりもした。




勿論、彼女には彼女の生活もあると思い、それを侵害してはいけないという理性は働いていた。




だから、無理に会おうとは思わない。





ただ、彼女が住んでいるところの空気を感じたかった。





部屋の前に行くと、ドアが少し開いていて、中では掃除機をかける音がしていた。





『彼女は今、中で掃除をしている。』






そう思うだけで満足だった。






そっとドアの脇に花束を置くと、インターホンを押して、エレベーターに乗り込んだ。



エレベーターのドアが早く閉まれ、と思いながら。






今考えてると、ヤバいやつだと思う。






当時、高校時代の友達に



『俺ってストーカーかな?』



と、打ち明けたこともあった。



するとその友達は『お前みたいな明るいストーカーなんているわけないだろ。』と一笑に伏された。





その言葉は俺の心を楽にしてくれた。





彼女の家の玄関に花束を置いた後、店に会いにいくと、





『お花がピンポーンて、うちにきたの!』






と満面の笑顔で言う彼女に、俺は喜んでくれてるんだ、と更に勘違いを加速していった。






今でも思う。


俺はストーカーじゃない。


少しでも嫌がる素振りを見せられたら、その時点で引いていた。



喜んでくれていると思うからこそ、のめり込んで行ったのだ。




そして、彼女に正式に思いを伝えたいという気持ちが加速していく。




店の中ではなく、店外で。




そのためには、ダブルといって、二回分の料金を払って店の外で会うことが必至だった。




その店の料金は三万円。ダブルとなると六万円が必要になる。




当時はバブル時代だったが、引越屋の日当は六千円だった。



残業やチップが入っても、たかが知れている。




彼女と店外デートをするために、俺は○川急便に行くことを決意した。



当時の初任給は50万円。



正社員として入り、四か月だけ勤めて、辞めるつもりだったのだ。




そんなわけで、俺は当時『地獄の○川急便』と呼ばれる会社に入社することになったのである。




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